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散歩日記 第1098話・2.4

「やっぱり寒い、手袋いるな」肌が露出している手を服の中に隠した。先ほどまで青空が広がっていた冬の空、暦の上では立春だから春になったはずだ。だから油断してしまった。いつの間にか雲が覆ってきて日陰になる。それに追い打ちをかけるように冷たい風が肌を突き刺した。思わず手をポケットに入れて歩く。

「晴れていたからでてきたのに」ここ数日間は家で籠っていた。いわゆるテレワークの仕事で、自宅のパソコンとにらめっこして仕事をしている。基本的に事務所に行くのは月に1・2回だから普段は家の中で籠っていることが多い。このまえ4日間一切家から出なかった。「今日は気持ちいいから外に出よう」ということで、外に出たのに、まさかの天候の変化に騙されたのだ。

「まだ、2月だもんね」今さらながら暦に騙されたことを感じる。外に出て20分、家からは結構歩いたから今さら手袋などの防寒具を取りに行くような面倒なことをしない。かといってせっかく外に出てきた。家の中では極力窓を開けずにカーテンを閉めたままの状態である。そうしないと寒いし、安易に暖房を強力にすれば、1か月後の電気料金に反映してしまう。一応、契約社員のような立場で毎月固定収入は入ってくるが、しょせん知れている。本当ならもっと別の仕事も取ってこないといけないのだろうけど、そこまでのスキルが無い。だから無駄がないように常に節約をするのだ。

出かけるときも、歩くことばかり。毎月の報告をするために事務所に向かう時以外は電車を使わない。外に出るといえばスーパーの買い物が多いが、今日は違う。「今日は休みだ」と決めたから、目的もなく歩いている。「いつもの公園も飽きたなあ」スーパーのある方向にはいつも行く公園があった。スーパーに行くときにはその公園に立ち寄って休憩するが、今日はいつもとは違う方向を歩いている。

「確か、えっと」スマホで地図を確認しながら歩いていく。普段歩かないから新鮮な道が続いているようだ。もう少し歩けば別の公園があった。今日はそこまで行くことにする。

 あれから15分くらい歩いてようやく公園の入り口を見つけた。この公園は意外に初めてかもしれない。この方向にそもそも行くことは無かった。駅とは逆方向だし、路線バスもこの辺りは通らないのだ。地図を見る限りいつも行く公園よりも数倍大きい公園のようだが、今来た入口と反対方向に行けば、バス停があるらしい。だがそのバスはいつも乗っている駅とは違う路線の駅に向かっているから普段の生活には意味がないのだ。だから新鮮である。

入口の通りを歩いてみた。季節の影響を受けない針葉樹林の森の並木道、ずっと道が続いている。新鮮な気持ちで歩くが、ここで突風が吹く。「うう、寒い!」思わず体を丸めた。
けど、先ほどよりは明るい気持ちがある。なぜならば先ほどは雲に覆われたが、いつしか雲が消えようとしていた。完全に雲はまだ消えていないが、周りに青空が戻っている。「あと少しかな」空を見上げた。雲から間もなく太陽が顔を出しそうだ。そうすればまた温かくなるに違いない。

「ちょっと休もうか」この並木道の両端にはベンチがある。昼間とはいえまだ寒い冬のさなか、歩いている人や休憩している人の姿をほとんど見ない。だからベンチはどこでも空いていた。「よしここで」とひとつのベンチを見つけると、そのまま腰かける。目の前には黄色い花が見えた。梅のように見えるが少し違う。後でわかったがそれは蠟梅のようだ。

「さてと」改めてスマホで地図を見る。位置関係は把握できたが、どうやら県外になってしまったようだ。実はこの公園は自然の丘の一部を使ってできており、町から離れている。行ってみれば丘を公園にしたようなものだから、本当に広大だが逆に電波が届かないところも多いようだ。

「ま、いいか、お、日が出て来たぞ」空を見上げると太陽が姿を見せる。まぶしいのをわかっていながら太陽に視線を送った。少し目に後のようなものが映ったので視線をそらしたが、今ほど太陽が恋しいと思った事はあまりないと思う。
 空はすっかり青空となっていて、雲がほとんどなくなっていた。当分晴れてくれそうだ。こうしてこの場所でしばらく佇む。

「そろそろ帰ろうか」ベンチに座って20分くらい経過したようだ。その間曇ることが無かったので寒さは無かった。ごくまれに風が吹いたときも冷たさが体を襲うが、日陰の時と比べてはるかに緩い。

「いい気晴らしになったなあ」そうひとりで物役とベンチから立ち上がる。本当はこの広大な公園をもっと先、できれば反対まで行っても良いかなと思ったが、それはやめておこうと思う。この程度の簡単な散歩だと、体力を余計に消耗することなく、気持ちの上でもリラックスできると思ったからだ。

 こうして来た道を戻る。何気ない休日の散歩、だけど不思議と実りあるもののような気がした。


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シリーズ 日々掌編短編小説 1098/1000
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