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1. 若き鷲

 4機の英ハリケーンは好奇心をそそる標的を見下ろした。1ダースのロンメル戦車がワジ(wadi 雨期以外は水のない川)の浅瀬付近を巡回している。それらの背後では2度、多くの荷物を積んだトラックが緩んだ砂の中を通って激しく揺れ動いた―軍の哨戒隊はエル·アラメインで急遽、防衛された隙間へ押し分け進んでいる。250ポンド、4機のハリケーン。各翼の真下の爆弾は、数秒間だけ旋回した。今回だけはアフリカ軍団の車両がワジに追い込まれ、分散しないことは明らかであった。
 「3機、4機、撃墜」
  英・飛行中隊長は静かに言った。
 「援護せよ、どうぞ」
  2機のハリケーンは編隊から離れた。彼らが前方へ進むや否や、太陽から1機のドイツのメッサーシュミット109が降りてきた。そう、2羽の鳩に向かう1羽の鷲のように。ハリケーンの空軍少佐の胴体にたたき込まれる20ミリ機関砲の砲弾。一瞬の躊躇もなく、ドイツ空軍パイロットは機関銃に切り替え、追跡者は2機目のハリケーンを掃射した。双方の航空機は制御不能で揺れ動き、1機は白煙を引いて、砂漠の底へ落ちていった。
  このドイツ人パイロットは爆弾を放ちながら、3機目のハリケーンを機銃掃射しようと背後から近づくため、緩降下しただけのように思われた。英パイロットはその敵を見たこともなかった。彼は戦車の屋根をかすめ、ワジの側面に衝突した。
  だが、4機目と最後の英軍機には別問題だった。パイロットは既に爆弾を落としていた。彼がそのMe109を見た時、彼(敵)は機銃掃射攻撃のためにトラックの上で上昇旋回していた。彼は高度のために必死で自分のハリケーンの鼻先を上げた。
  メッサーシュミットはあっという間に彼の真下を通り過ぎ、またもや上昇し始めた。まるまる1分間、2機の戦闘機は殆ど白い砂漠の空の中で神経をピリピリさせた。英軍機は爆弾の重荷から解放され、そのパイロットのためにより軽くなったように思えた。しかし、Me 109はその優れた上昇率で、急速に高度を上げた。
  ついに、英パイロットは攻撃のために捨て身で旋回した。ドイツ機はさらに上昇し、空でどうすることもできずに彷徨っているかのようであった。だが、最後の一秒、英国の銃が発砲し始めたので、敵は鋭く短い降下旋回をするため、攻撃者に向かってロールした。敵はその急降下のより優れた運動量で彼のそばを通り過ぎ、轟音を立てながら後ろからハリケーンに近づいてきた。
  メッサーシュミットのパイロットは2機の戦闘機との間の差を縮めると、じっとしているように見えた。ハリケーンはドイツ人パイロットとともに旋回した。敵はロールし、回避してスリップしたが、敵のドイツ人パイロットは殆どたやすく彼の後ろについてきた。ついに、獲物は古い第一次世界大戦のトリック、インメルマンターンを試した。
  彼が機を引き上げたのでドイツ空軍パイロットは初めて撃った。一気に2発。ハリケーンは制御不能で墜落し、そのパイロットは外へ脱出した。彼が落下傘で着地するまで、メッサーシュミットはゆっくりと螺旋を描いた。それから、そのドイツ人パイロットは装甲車両の列の上空で低い轟音を立て、あふれんばかりにバレルロールをし、基地へ向けて出発した。彼の燃料タンクは殆ど空だった。

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