妄想短編小説 『里屋』
里屋
『里屋』は、ひじり町の向かい交差点から駅を左手に見て南に下った古ぼけた赤レンガビルの地下にある。
私がこの小さな飲み屋を見つけたのは、十数年前のこと、夜間のほんの小さな足掛かりがきっかけで、都会の雑踏の中には、いかにも物珍しい古典的な『里屋』という光文字に心魅かれ、ひょいと立ち寄ったのがいつの間にか知らぬうちに常連に名を連ねる事となってしまった。
古典的なのは光文字だけではなく、店の内装や品書きのたぐいに至るまで、一体いつごろ誰によってこの店に最後の手が加えられたの