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わたしという誰かの演劇

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ブログを書くみたいに演劇をやりたいな、と思っていたんですが、実際に演劇をやるにはさまざまな困難があり、だったらブログを演劇にしてしまおうと思ってはじめたのが、この〈わたしという誰… もっと読む
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2019年6月の記事一覧

わたしという誰かの演劇_011

わたしという誰かの演劇_011

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  魂のかたちって考えたことありますか、魂のありかとか、魂があるとかないとかじゃなくて、魂のかたち、魂にかたちなんてあるのかないのか、って、またそうやって考えはじめちゃうといっこうに考えることができませんね、魂のかたちのこと、地球も丸いし太陽も丸いし、魂も丸いって感じでイメージしてたんですけどわたしはいままで、「丸い」っていうか「球」ですね、魂は球

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わたしという誰かの演劇_010

わたしという誰かの演劇_010

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  ハロー、アイキャントスピークジャパニーズ、わたしは日本語がしゃべれません、でもいまどうですかこれ、日本語をしゃべっているように聞こえませんか、聞こえますよね、ハローハロー、わたしは英語であなたに語りかけています、「わたしは英語であなたに語りかけています」って英語で言っています、演劇って便利ですよね、日本語をしゃべっていても日本語以外をしゃべって

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わたしという誰かの演劇_009

わたしという誰かの演劇_009

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  腕の中の子犬の真っ白い毛をなでる、眠そうな目、まぶたが落ちそうで落ちなくて、落ちそうで落ちなくて、落ちて、テレビを見てたら彼はもう眠っていた、数式の並ぶ紙に目を落とす、設問の意味すらわからなくて、たぶんわたしは卒業できない、数学できない、留年したくない、でもいいんだ、わたしはこの学校2回目だから、一度は出てるから2回も出る必要ないってわかってい

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わたしという誰かの演劇_008

わたしという誰かの演劇_008

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  こんなに長くひとりでしゃべるのってはじめてです、毎日毎日、書いていて、しゃべっていて思うのは、いまこうして、かろうじて言葉をつないでいるあいだ、わたしの中ではいくつかの思考のラインが同時に走っていて、クルマが車線変更するみたいにそのラインを乗り換えていく、ときにはUターンしたり、いきなりワープして全然知らないところに出てみたり、全然知らないとこ

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わたしという誰かの演劇_007

わたしという誰かの演劇_007

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  映画の中に出てくる宇宙服ってわたし好きなんです、身動きとりづらそうな寸胴のシルエット、生命維持装置、ガラス越しに見る星々、仲間がそばにいても通信機を使わなければ声も届かない、ああこれはわたしたちの姿だなって思いませんか、少なくとも、わたしの姿だとは思う、ああ帰ったら湯船に浸かりたい、それまでは宇宙船につながれてふわふわするしかやることない、いや

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わたしという誰かの演劇_006

わたしという誰かの演劇_006

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  あるとき急に壊れませんか、洗濯ばさみって、昨日まで普通に使えていたのに今日いざタオルを挟もうと思ったら、手の中でバッキバキ、なんですかあれ、困るな、破片もどっかに飛んでくし、日頃の蓄積ってことなんですかね、日光ってそれくらいダメージ与えてるってことですよね、常日頃、気づかぬうちに、木とか大丈夫なんですかね、生きてるから大丈夫か、自分で自分を再生

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わたしという誰かの演劇_005

わたしという誰かの演劇_005

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  筋肉ってほんとうに裏切らないんですかね、裏切ると思うんですよわたしは、裏切ってくれたらいいなって思ってて、なんでかっていうとやっぱり裏切りって大事ですよ、裏切りのないストーリーなんて退屈じゃないですか、思った通りに全部進んだらそんなのって見てられないですよね、見てられなくてもいいかもしれないですね、筋肉は、別に見てる必要ないか、見てる必要ないく

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わたしという誰かの演劇_004

わたしという誰かの演劇_004

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  シンガーソングライターじゃないから、思いを歌にのせて届けたりできないんですよねわたし、残念です、言葉で物語紡いじゃおうかな、って、小説家でも劇作家でもないんでできないんですよね、残念ながら、そう思ってた時期もありました、が、いざはじめてみてしまえば、なんてことないですね演劇、演劇ですけどこれわたし、シンガーソングライティングだとも思ってますから

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わたしという誰かの演劇_003

わたしという誰かの演劇_003

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  創業者一族、って力強い言葉ですよね、わたしは創業者一族じゃありません、わたしの父はサラリーマンです、もう引退しちゃったから「でした」のほうが正確ですけどね、創業者っていうからには創業してなきゃいけないわけですよね、家族の誰かが、会社かなにかを、あ、いやこれ、創業者一族の話ですけど、わたしの話じゃなくて、いいですか、創業者一族の話をしても、力強

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わたしという誰かの演劇_002

わたしという誰かの演劇_002

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  なるほど勉強になりました、って、勉強する気ないですよね、うるせえ黙れ、って意味ですよねたぶん、彼にそう言われたとき、わたし思ったんです、ああこれは「なる勉」かまされたな、って、わたしもなんか説教じみたこと話しちゃったのかな、そうだったらごめんなさいなんだけど、「なる勉」かまされたら話は別で、もう喧嘩ですよね、喧嘩、ってまあ実際はしないですけど

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わたしという誰かの演劇_001

わたしという誰かの演劇_001

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  名前のない、〈ぼく〉とか〈わたし〉が主人公の小説ってありますよね、あんな感じで書いてみようと思って、〈わたし〉という誰かの演劇、上演するあてもなんにもないんだけど、誰かひとり、部屋の真ん中に立ってて、ぽつんと、それはわたしなんだけど、わたしでなくてもよくって、誰か、あなたでもよくって別に、あなたの友達でもいいんですよ、その誰かがしゃべりかけてく

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