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私の人生に痕跡を残した本 そのいち ▶泉ハナ

横浜読書会KURIBOOKSの一般参加者 泉ハナ です。
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読むきっかけになる本には、賞を取った本やベストセラー本、SNSで評判になった本などがありますが、時には思わぬ出会いもあります、
本読みにとっては、書店で偶然手に取った本や、図書館で心惹かれて読み始めた本などもそのひとつ。
考えて見ると、心に深く刻まれたり、その後の人生に大きく影響を残す事になった本は、そういう偶然出会った本に多いように思います。

「SOSタイタニック」を最初に読んだのは、子供向けに要約された本でした。
子供にとってはかなり衝撃的な話で、子供心に人間とは……と考える大きなきっかけになったのだと思います。
その後、中学生になってこの本を入手し、その他日本で翻訳されているタイタニック関係の本を読み漁りました。
映画で有名になりましたが、あそこで描かれていた乗客や船員たちの状況は、この本にさらに詳細が書かれています。
有事の時、命が危ぶまれる状況に至った時、人はいかにその本質を問われるかという私の読書のテーマが出来たのは、この本がきっかけでした。

中学生の時、図書館で「11人のファーストレディ」という本を見つけて読みました。
アメリカ大統領夫人/ファーストレディとなった11人の女性が、当時何を考えどのような事をしていたのか書かれた本でした。
表舞台には決して出てくる事のない、歴史にその名を残す事のない女性たちの尽力やサポートがどれほどに大きなものかをその本で知る事となりました。
「ガラスの天井に挑む女たち」は、著者が通ったハーバードケネディスクールで出会った女性たちの話をまとめたものです。
この本が書かれたのは、ヒラリーが大統領選に出るよりもかなり前、つまりまだ女性が政治やビジネスの場に出るにはまだまだ大きな障害や軋轢があった時代でした。
ここに登場する女性の多くは、女性である事によって大きな試練と犠牲、努力を戦いを強いられてきていますが、それをネガティブにとらえるのではなく、むしろ女性だからこそ有る視点、出来る事、そして成せる事を語っています。
二十代でこの本に出会い、何度となく繰り返し読んで、糸とじが切れかけています。巷、派手やかで華々しい話が飛び交っていますが、そういうものに惑わされる事なく、自分の仕事についてしっかりとした基盤を持つ事ができたのはこの本のおかげと思っています。

こちらは、ニューヨークを舞台に、まさにその燦然と輝くキャリアを持つ女性が、自身の生き方を見つめなおしていく小説です。
新潮の賞を受賞していますが、残念な事に文庫化されないまま絶版となってしまっています。私は最初図書館でこの本に出会い、文庫化がされないとわかって慌てて探して購入しました。
女性ならこの主人公と同じ年齢くらいの時、多かれ少なかれ必ず、恋愛、男、結婚で揺らぐ時があります。
それこそ、大きな仕事をする人ほど、真剣に仕事に向き合おうとする人ほどその揺らぎは大きく、襲ってくる不安はとてつもなく黒い。それによって、わかっていても、人は愚かで馬鹿な選択をし、決意をしてしまう。
自分が袋小路にはまって身動きが取れなくなったり、どうしようもない事で悶々としたりした時、この本を手に取ります。
主人公にもたられた小さな灯りが、自分の人生にもきっとあるはずだ。
それを信じたい時、開く本です。

著者のボブ・グリーンは、かつてシカゴトリビューンでコラムを連載していた大人気のコラムニストで、日本でも著書が多数翻訳されていました。
けれどその後、スキャンダルがあり、今はアメリカでも日本でも著書は入手困難となっています。
彼のコラムは心を打つものがとても多く、私は図書館で読んで号泣した事もありました。
「ホームカミング」は、ボブ・グリーンが書いたものではありません。
ボブ・グリーンがアメリカ全土に広告を出し、集まった手紙をまとめた本です。
彼が募集したのは、「ベトナム戦争から帰還した時、唾を吐かれましたか?」というものでした。
ベトナム戦争については、当時アメリカでは反戦活動が盛んで、ベトナムで戦った兵士たちへの批判も大きく、帰還兵につばを吐いたという行為が自慢げに語られていたそうです。
ボブ・グリーンはそれを「実話なのか?実際吐いた人、吐かれた人はいたのか?」という事をこの本にまとめています。
手紙に語られているのは、人間の偽善、残酷さ、残虐性、正義の名のもとに行われる暴力と差別、それとは真逆の善良さ、底知れぬ良心、誠意と誠実、そして悲しみと痛み、生涯消える事のない傷です。
この本も、最初図書館で読み、その後、中古で入手しました>すでに新刊では入手できない状態だったので
その後、ニューヨークにある有名古書店に頼んで原書を探してもらい、送ってもらいました。

「在外日本人」は、1994年に発刊された本です。
海外旅行する人も珍しい存在ではなくなり、高級ブランド各店の売り上げも好調、いわゆる団塊の世代が大活躍していた頃だと思います。
海外在住者、外国で仕事をする人もそう珍しいものではなくなりつつあったとは思いますが、今のようなグローバル化には至っておらず、まだ、海外在住へのあこがれ、英語話者の存在が輝きを放っていた時代。
この本に語られている内容は、当時の私に大きな衝撃を与えました。
華やかな留学、華麗なるキャリア、刺激に満ちたワクワクドキドキの外国生活なんてものはこれっぽっちもありません。
そこにあるのは、異国で暮らす事の大変さ、異国で働く事の厳しさ、文化習慣の違い、我々日本人が知る事のなかった宗教問題、そして理解の及ばない”外国”という存在です。
旅行はもちろん、留学や海外駐在では決して知る事のない、触れる事のないナマの異国がこの本にはあります。
それと同時に、いろいろな国にある様々な職業、そこで働く日本人の存在は、当時の私にとてつもなく大きなインパクトを与えました。
日本人としての自分を失わない事の大切さ、どれだけ長くその国に住んだとしても、その国の人間にはなれないのだという現実。
将来、外国で働くような事になったら、あるいは外国人と働く機会を得たなら、必ずぶち当たるであろう”もの”を、この本は教えてくれました。

同時期、「海外で差別されたことはありますか?」という本を読みました。
差別とはいかなるものか、我々日本人は体感として知りません。
知らない事はわからない。
それをしみじみと感じる本でした。

外資系企業に長く働き、外国人と英語で仕事をするようになっても、自分の中にブレがないのは、この2冊の本のおかげです。

本読みな人にはみな、生涯大事にしたい本というのがそれぞれあると思います。
自分の血肉となり、自分の人生に大きく影響を与える事になった本、それはその人の書棚の一番大事なところに置かれているはず。
私にとっての読書は、娯楽であるとともに、時に自分の骨となり肉となるものとの出会いだったりします。

泉ハナ

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