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【心得帖SS】ヒトは何故「限定品」に惹かれてしまうのか?

「はわわわわぁ❤︎」
自席のテーブルに肘を載せながら、四条畷紗季はとろんとした表情を浮かべていた。
彼女の目の前には、半目ネコがコック服を着てフライパンを持っているカプセルトイがちょこんと置かれている。


「サキサキは本当にその猫ちゃん好きだよねぇ」
伝票を配布するついでに彼女の席に立ち寄った敬子が、半分呆れながらその姿を眺める。
「このカッコ可愛い感じがキュンとくるのよ。特に数量限定のお仕事半目ネコシリーズは見つけたら即ゲットしたくなるわ」
ぐっと拳を握って力説する紗季。彼女の仕事机には数多くの半目ネコミニフィギュアが並べられている。
「はあ…もうここに住もうかしら」
至福の目でそれらを眺める彼女に、敬子は違った見方を重ねる。
「まあ、私も本の初版とかこだわるタイプだし、作家さんのサイン本とか見つけたらテンション上がるわね」

「それは【スノッブ効果】と呼ばれるものだよ」

「あ、課長お帰りなさい」
商談から帰ってきた営業二課の課長、京田辺一登は、手を振る紗季と半目ネコの集団を一瞥しながら自分の席に着いた。
「スノッブ効果…って何ですか?」
聞き慣れない言葉に、敬子は不思議そうに尋ねた。
「【スノッブ効果】は、他の人が持っていない特別なものが欲しいと感じたり、限定性や希少性に価値を見出して購買意欲が働く心理作用のことだよ」

例えばご当地限定商品や初回限定◯◯個、期間限定目玉企画などがこれに該当する。

「商品の販売面でスノッブ効果を活用するには、いかに【オンリーワン】と思わせるかが大切となってくる」
「まさに今の私は、スノッブ効果にハマっているということですね」
幾分冷静になった紗季が、気恥ずかしそうに応えた。

「まあ、レベルの差はあれ何かに拘っている人は多いからね」
京田辺は、鞄の中から先ほど駅前の文具店に立ち寄った際に購入した真紅のボールペンを取り出した。その優雅なフォルムと上品な色使いに思わず口元が緩んでいく。
それを見ていた敬子が、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「また限定色が出たのですか?課長絶対あそこの店長にロックオンされてますって」
「確かに、最近は店長から限定品入荷メールが直接届くようになったなぁ…」


某文具店において、着実にロイヤルカスタマーとなっている京田辺であった。

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