順応していく生活。

僕は実家のある東北地方に住んでいる。

僕は十八歳から二五歳までは、神奈川県川崎市に住んでいた。

在学中も就職中も遊んでいた。一人で都心に出ては、買い物をしたり散歩がてら街に出たり、帰宅途中にあるコーヒーショップに寄っては一服をする。
上京してからバイトもすぐやり始めては、暇な時はバイトをして時間を埋めていた。そのバイト先で出会った友人と、休みの日はよく遊び、買い物やゲームセンターでのメダルゲーム、パチンコにスロット、居酒屋での馬鹿話、よくともに時間を過ごしていた。夜遅くなっても、空いている店は多く、ちょっとした時間の隙間を埋めてくれていた。何かしら出かければ、新しいものや新鮮な気持ちといった刺激が受けられていた。

とある日、僕は実家に帰ることになる。
一時的なことではなく、戻ることのない都会に別れを告げた。

実家のあるこの街は、まるで違う。

電車が移動手段の主要であった関東とは違い、ここでは自動車が主要となる。
買い物といえば、趣味であった音楽をふんだんに盛り込まれたCDショップ専門店なんぞない。全国に展開しているあのショッピングモール店が真っ先に頭に浮かぶほど、店は多くない。
ゲームセンターに寄ってみては、友人としていたメダルゲームは設置されておらず、モニターがくすんで、パネルは汚い。台機そのものの塗装が剥げている。
パチンコスロット店に行けば、人はいるが、空席が目立つ。特に平日はガラ空きであり朝イチで並ぶと言っても、指折り数えられる程度しかいない。それもタバコを咥え、雑談をかますおじさんたち。
「何の機種狙う?」「あの機種好きなんだよね」
などの話を、初めて会う人たちでもそこそこ話せていたのだけれど、今となってはここでは話す話題もない。
居酒屋はあるのだけれど、呑む友人はいない。高校までの友人はみな各地に行ってしまい、年に一回会えるかどうかという程度である。
コーヒーショップは、近くにはない。むしろコーヒーショップはあることはあるのだけれど、何かが違う。
一口にコーヒーショップと言っても、『スターバックスコーヒー』『ドトール』『エクセルシオール』『サンマルクカフェ』など多くある。
中でも僕はドトールが一番好きであった。
そんなドトールは、この街にあるのだけれど、まさかのガソリンスタンドと併設されていると知った。
駐車場は四台のみ。店舗の席数はおよそ五〇席。あきらかに駐車場と席数は一致していない。かと言って、ガソリンスタンド側に駐車することは厳禁という看板も出ているほど。一体どう利用すればいいのかわからない。単純に……、

「ドトール行こう」
と、余計なことは気にしないでコーヒーを頼み、同時にタバコを吸うことが、何より至福と感じていたのだけれど。
今となっては、

「ドトール行こう」
の他に、
「駐車場空いているかな」
という不安も考えないといけない。
ちなみにだが、スターバックスコーヒーが初めてこの地元に上陸した際は、開店と同時に長蛇の列が見れたと言う。

他にもある。

地元にある市内の主要駅にも関わらず、人でごった返していない。
タクシー乗り場で乗客を待つ運転手も退屈そうに、仲間たちと雑談をかましているか寝ているか。
ビルはあっても、ビルが立ち並ぶことはない。
夜遅くになれば、閉まる店は多く、街自体が眠るように暗くなる。

こんな街が嫌いとか、嫌だというわけではない。
実家もあるし、居心地はいい。
だけれど言うなれば、趣味となるものがない。
いや、趣味とかではなく、休みの日の過ごし方に困る。
歩いて行ける距離には店はなく、行ったところで見る店は限られて時間が余るほどなのだ。
これまでは『ちょっとした時間』を埋める方法を何となく考えていたが、今は『次の休みは何しようか』と大きな括りで考えるようになった。

たぶん。
何もないわけではない。
何かがあるのはわかっている。

しかしながら距離と時間が、僕の思考を変えていく。

今の僕。

『Q:休日の過ごし方は?』

『A:引きこもりです』

『Q:引きこもりということですが、どのように過ごしていますか?』

『A:寝ているか、動画を見ているか、のいずれかです』

『Q:それでもたまには出かけたいという気持ちはありませんか?』

『A:それはあります。しかし出かけた先に刺激が少ないであろう、という勝手な思考が先行してしまって出かける気が失います。それに身支度をすることも億劫に感じるようになりました』


以上、こんな僕になりました。


不思議なことに、人はその生活環境に慣れていく。
つまりは順応である。
慣れることに、その人の生活リズムが調和していく。
地元に戻ってきて、早五年も経つ。
今や休日の過ごし方は、『何もしないこと』が九割。
残り一割は、用事があるから仕方がない。

最後に。

『Q:今、あの頃の過ごし方はできますか?』

『A:無理です』

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