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3行日記 #111 (ケーブルテレビ、強い意志をもった手、羽子板)

一月三日(水)、晴れ

田舎のケーブルテレビはなかなか面白い。秋に開催されたダンスの大会D-1グランプリ、という番組が放送されていた。ヒップホップに社交ダンスにベリーダンス、いろんな種類がごちゃまぜで、参加しているメンバーも下は小学生から上は七十代くらいのおばあちゃんまで、幅広い世代の人が一緒になって踊っていた。

昼、母校の演劇部の公演が、地元のケーブルテレビでやっていた。自閉症の弟をもつ姉が主人公で、母親は離婚し、弟をよろしくねと言い残して家をでた。父親は仕事が忙しく不機嫌を家庭にまき散らしている。劇の中盤、弟の癇癪に嫌気がさした少女が叫ぶ。その瞬間、背後からも呻き声が聞こえてきた。介護ベッドに横になっている祖母の寝言だった。どんな夢を見ているのだろう。うちに籠もって言葉にはなっていなかった。再び劇に向きなおるが、今度はカサカサと布が擦れる音がするので振り返ると、天井に浮かんだ何かを掴もうとするように、指をぴんと伸ばした祖母の乾いた右手が中空に差し出されていた。強い意志をもった手だった。

午後、鈍行で京都に戻る。

夜、妻の実家でおせちをいただく。花びら餅を初めて食べた。甘い牛蒡と味噌餡が入っていた。甘じょっぱくておいしい。食後に羽子板をした。あまり遠くに飛ばないので部屋のなかで力強く打っても大丈夫だった。羽根の先についた無患子(ムクロジ)の黒い種を、羽子板で打つと、乾いた小気味良い音が鳴った。何往復か舞った羽根が畳の上に落ちた瞬間、ここぞとばかりに狙っていたチャックが羽根に飛びかかり、咥えて放そうとしない。こら待て! とチャックはすぐさま取り押さえられたが、咥えたまま口を閉ざし、ぜったいに放すものかと強い意志で目をかたく瞑り、ぐぅーーーーと鼻を鳴らしていた。

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