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3行日記 #131(肩に手、鹿尾菜、伊予柑)

二月一日(木)、くもり

午後、派手なおばちゃんとシーズーが散歩から帰ってくる。真っ赤なトレーナーにジーパンをはいていた。おつかれさん。練り物屋の前で店員の男に、おばちゃんが歌うように声をかけた。男も気さくに返す。おかえり、ただいま。いつも声をかけあう顔見知りのようだ。

夕方、喫茶店で。向かいの女性が、口の両端を持ちあげてにこにこ白い歯を見せながら、パソコンに向かってキーボードを叩いている。一瞬だけでなく、もうかれこれ一時間以上、ずっとにこにこしている。こんなふうに楽しく仕事をする人もいるのだ。通りを歩いていると、盲目の男性が、奥さんの肩に手をかけて歩いていた。閉じた目の奥をしばたかせて、口元はほほえんでいた。

近鉄のホームから階段を降りると、きょうもハンソン先生と一緒になった。白ひげを蓄えた口を固く結び早足で改札を抜けると、大きな目をぎょろっと上を見上げて、時間を確認していた。商店街のほうへと向かい、コンビニに入った。

エスカレーターの言葉クイズ、鹿尾菜、ひじき。ひじきは鹿のしっぽみたいらしい。

夜、菜の花とほうれん草のスープペンネ、八朔っぽい柑橘。チャックの散歩、左右左、区役所をすぎて一本向こうを南へ、商店街を通り抜けながら戻っていると、かわいいねーと声が聞こえる。振り向くと、小太りで赤ら顔のおじさんだった。

帰りにスーパーに寄った。牛乳、人参、伊予柑。レジは鉄人、いつもの声で、伊予柑はいりまーす。おそらく、この時期はいろんな種類の柑橘系が並んでいるので、間違えないように確認しているのだと思う。さすが鉄人である。

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