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文体の確立の戦い──真実を見るとき目がつぶされる

「もう私は大丈夫よ、もう二度と酒に溺れることはないわ、私の体の中からすっかり酒は消え去ってしまった。ああ、なんて水がおいしいの。朝のにおい、風が運んでくる森のにおい、草の香りがする、もう大丈夫よ、生命のリズムがもどってきたの、もう私はあなたの背中に背負っている十字架がしっかりと見えるわよ。あなたに立ち向かうだけの人間になったの。話してちょうだい。あなたの七十年の人生のドラマを。朝のテラスで、森を散策しながら、昼さがりのポーチで、夜の居間で、アンナはタペストリーを織るように、彼女の人生を語っていった。彼女の布が彼女の人生のタペストリーに縫いこまれていく。ドイツなまりの癖のある英語、朴訥で力のある言葉、信念と誠実の言葉、勇気と希望の言葉。彼女が織り込んでいく人生のタペストリーに二つの大河、二つの核といったものがあるの。一つはアメリカ。アメリカにあこがれていたアンナは、十六の時にこの国にわたってくる。アメリカは決して彼女にやさしくはなかった。しかし彼女はアメリカ人になろうとしていた。彼女の故郷はドイツではなく、アメリカだった。彼女の生きる大地は、このアメリカだった。彼女は魂の底からきるアメリカ人になろうとしている。このアメリカはあなたの夫に殺人という濡れ衣を着せて処刑した国、それでもあなたはこの国を愛するのって訊いたら、彼女はこう答えた。私はこのアメリカという大地に、正義の泉を掘り起こすために生きているのって。アメリカに祝福あれ、だわ。アメリカは、いたるところ強欲の泉が噴き出す国だけど、こういう泉を掘り当てようとする人間もまた生きているのよ。彼女のもう一つの核がその冤罪。裁判記録ではハンプトンは極悪人だった。ドイツでさんざん悪をやって、二度も刑務所にはいって、それでアメリカに渡ってきた。アメリカはハンプトンをもっと悪にした。職を転々として、金に困って、ついにリンドバークの子供を誘拐して、子供を殺してしまったのに身代金にせしめて、その金で遊び呆けていた極悪人。しかしハンナの側からみたとき、ハンプトンは全く違った人間だった。真面目に仕事に励む、誠実な、志の高い人間だった。アンナは、そういってハンプトンが、死の直前に書かれた、アンナに書かれた彼の遺書をみせてくたれ。(レリースは壁に貼られたタイプ用紙をはがす)ここに張って、いつも書くことに行き詰ったとき、ハンプトンを見失いそうになったとき、圧倒的に現実に壁に押しつぶされそうになったとき、自分の無力さにおびえるとき、いつもこの手紙を読むのよ。綴りがいたるところに間違っている。文章だって文法だってちょっとおかしい。しかしそんなことはどうでもいいのよ、ハンプトンは生命と魂をこの手紙のなかに刻み込んだんだから。アメリカの罪を告発する手紙、アメリカをよみがえらせる手紙、アメリカに希望に与える手紙。(手紙を読み上げる)。
「この手紙は……〈読みとばしながら〉足音が近づいてくるが……トルーマンという男がやってきて卑劣な取引をもちかけてきたんだ。すべてを告白しろって、すべてを告白したら、お前の罪は減刑される。敵の罠だと思ったが、しかしこんな罠をかけたってぼくの主張には少しも揺るがない。ぼくは誘拐していない、誘拐していないのにどうして子供を殺すなんてことができるんだ。しかし敵はささやく。そうだ、君はしていない、私もそう思っている、だからこそ君を救い出したいんだ、君を電気椅子から救いだせる唯一の方法なんだ。もうすぐそこまで処刑の日が迫っている。いまはもうこの手を使わなければ、君を救いだせない。これが最後の手なんだ。だから、まず告白する。嘘でもいいから自分はやりましたと告白する、そう嘘の証言をして、ひとます処刑台から逃れる、そしてそこからまた戦い開始すればいいだろう、トルーマンってやつはこういってぼくに迫ってきた。
しかしぼくはきっぱりと蜜のような甘い汁を垂らして仕掛けてきた罠を断った。そんな話にのれるわけはない。もしそんなことを認めれば、ぼくの命を救われたとしても、君も息子は、は、殺人者の息子としていきなければならないことなるんだ。ジョージはどこにいっても、あいつの親父のリンドバークの息子を誘拐して殺して卑劣な殺人者というレッテルを貼られて生きなければならない。ぼくの子供がそんなふうに生きていくなんて、考えただけでもぼくはぞっとするのだ。そんな嘘を証言して、ぼくの命が救われたとして、ジョージは殺人者の子供だということになるんだ。ぼくが処刑されたら、ジョージは殺人者の息子だというレッテルが貼られる。彼はそのレッテルを全身に張り付けられてこれから生きていかねばならない。しかし君がぼくをどこまで信じているように、どこまでぼくを信じて生きていくように、ジョージもまたおれを信じてほしいのだ。おやじは無罪だった、おやじは無実の罪を着せられて処刑されたのだということを、息子にしっかりと伝えてほしい。そうでなくとも彼はこれからつらい人生を歩いていく。おやじは殺人者だというレッテルを貼られて生きていかなければならないんだ。それを思うとおれの心は張り裂けるばかりだ。おれたちは希望を抱いてアメリカに渡ってきた。アメリカはおれたちの希望の大地だった。しかしいまこの国は間違った裁判で、間違った判決を下して、一人の無実の人間に処刑台に送りこもうとしている。おれはそのことを後世に伝えるために犠牲になるということかもしれない。アメリカは必ず気づく、間違った、いまおれにいな。こかもしれない。に二のこの希望のこのことに気づくべきなのだ。気づかなければならならないんだ。おれはそのことを後世に伝えたい。おれの生命は、二度と誤った判決を下さないという一つの大きな転機となる、この間違った裁判が、新しい国の裁判を作りかえる、その土台となったその礎石となったとされる日がくるかかもしれない。そのことをアメリカに、アメリカ人に伝えるために、ぼくは処刑台に立つことになるのかもしれいない、ぼくは誇りをもって死んでいけることができることになるという」
 
あたしはこの手紙に読んで心がふるえた。私の作家としての生命が燃え上がった。作家としての立たねばならないと思った。アンナが携えてきたトランクには、ぎっしりと三十年前に事件の記録を残していた。新聞記事やら、裁判記録やら、弁護士がかき集めた資料から、彼らが書き損じタイプされた文書などにのこされていた。私にそれらの記録をできだけにつまりアンナのハンプトンの立場からでなく、裁判はどのような論理で、どのような証拠を固めて、どのようなハンプトンを処刑台においつめていったのか、極力、客観的に立つために、捜査する側に、検事たちの側に種さに都園都法手にイ彼に都にの彼に側に立ってみたのよ。私はアンナのトランクいっぱいに詰められていにとに資料にとにとをメモをとりながら読んでいくけど、それだけでなにもわからない二利根渡井にとに資料だけを集めても、事件はみえてこない、それで当然のアプローチだけで、その事件の当事者たちに会うことにした。資料の園名前に野こと市いのにんたげ。捜査官に、刑事に、裁判長に、公聴していた人に、判決をくだした陪審員たちの、二差にとハンプトマンの職場の二んけど、友人たちに、彼にを処刑した看守たちに、刑務所の看守たちに、ハンプトン何手雄二に卓との九台氏手広聴いかにたちに根健二谷舘に会うことにした。三十年前の事件だからもそれはとにかく困難なことだった。大半が亡くなっている。追跡していくと大抵はなくなっているし、行方不明で見つけることはできない。でもその消息がわかれば、その人物が亡くなっていても子供たちに化ら根あるいは孫たちに化らききだから、聞き出せるかもしれないと足を運んでいくわけよと。それとほとんど無駄足をばかり、九る床にどにた奥に遠征しても、空振りばかり。しかし無駄足だろうが、空振りだろうが、とにかく足を使って、その人間を訪ねていかねばならい、その人物がすでに故人となっていても、そこに彼らの子供がいれば、孫がいればあいにか行かなければならい。彼らの自宅にその人のの事件のことを話している加茂しれないからよ。
私は書くべき人物にと事に追跡し手いっい、去り度とにアメリカ中にな九るとにし浜わっともに現地に訪ねてもすでに移住している、子供たちにアメリカじゅに散らばって。しかしとにかくその人物の生きた足跡をたどめたるに車を飛ばしいに何んに地もかけて、路上のホテルにとまり、空振り、空振りのに連続だけと、それ歩きまわったに根ハンプトンという人部とにより明確に描くための、この人物のどこで、生まれて、どのように育って、どのように家庭に経手アメリカにわたっときとに園床に知る他の彼の親族に会うためとにわとに園案と西ことに調べ取るとに根をょと三度根ドイツのにわったのた。お金が度トンにドンてて行く。私は蓄えは度トンになくなっていく。私に奥と絵画を売り、宝石を売り、とうとう家まで売り払ってしまった。それはずいぶん思い悩んだけど、でも元層で死なれ消しにもを四渡井にとに収入のない人間だとにこうして生きていくない、それ私の変革よ、私自身の革命が必要だつたのよ。私は作家だった。フィクションの作家だった。フィクションならば、頭で書けばいいのよ、想像力で、自分の中に川北って行く物語を書いていけばいい。しかしいま私がとりくんでいるのは、ノンフィクションだった。ノンフィクションにをかくためには私の文体を打ち壊さなければならない。私は作家と年にい文体をうちこわすってことは再創造しなけれならない。ノンフィクションを書くために足を使わねばならないことになる。事実を裏づる、新十を裏付けると目の確かに記録や証言がひ必要となるわけよ。
私はなにか強烈なるライバルが生まれた。ライバルとい私の文体がめざすテキストが。トルーマン・カポーティよ。かれもまたそれまでにフィクションライターだった。しかし彼に自分に限界を打ち破ろうとしていた。なにか人に大きく飛躍しなければならないと彼は才能に行き詰ったのよ。彼も決死の冒険をしたのよ。彼はまた文体を変革していく。それとその事件を追跡し手いったるそれとに彼は「冷血」コールドブラッドを書いて、大ベストセラーにした。それは彼は新しい世界を描いたのよ。私も頼自糞うちそれは屋がにたわいにともに彼に人間の闇を描いていった。私にと麻衣にと間に彼におなし背にとアメリカの闇を描くことになる。アメリカの犯罪をを描くこどたった。
私は当然その事件の場となんつたリンドバーク家とリンどバーとに化ぞとに描く日必要がある。とにかくリンドバークその人かに一時は捜査の指揮を執ったグライダ化に彼こそ描いていねばならい。そしてリンドバークのパークに最初に捜査本部から疑惑をもたれたのが、当時リンドバークに家事ホームヘルパーのケリーだった。彼女は厳しいに尋問に会ってに二ヶ月後に自殺している。彼女の恋人だっと男性に疑惑に向けられて、厳しい尋問を受けている。と新居宇野夫人に悲しみに府管区絵がいいかなけれ゛は根との同紙に事件にをありありた再現していくとにアン・リンドバークの話しを聞かねばならない。私か゛書くものが足りに人の大きな柱とに彼女の悲しみを描くことになの。どんなに深い悲劇に耐えなければならなかった書く必要があるのよ。1932年の三月一日、ホープウエルの森の中にある建てられた部屋がいくつもある大邸宅から使用人が三人いる二歳半になるチャーリー風子供べ子供部屋か忽然と消えたっていた。その時の驚き、その時の衝撃、そして捜査は難航し手いてけ、生きているのかすかな望みにも、捜索が始まってから七十二日目、午後三時十五分、霧雨のそぼ降るなか、二人の男がホープウェルと街道に走っていた。往来のほとんどないぬかるんだ道だった。途中の。丘の頂き近く、四十七歳のウィリアム・アレンは用を足したいと、運転しているウィルソンにいっとに底に車を止めさせた。アレンは雨にぬれた森の奥に入って小便を署と意に市の根園土岐彼の目の入って九。「言った本の太い枝の下に行き、足元を見ると、踏み荒らされたような地面のあいだから頭蓋骨がのぞいていた。そばにん足も片方突き出ていて、すぐに幼児の死体だときづいた」その場所に約と四マイル先にリンドバーク邸が八切と遠望できる。昼間は白い壁が、夜間はリンドバーク邸の窓のあかりが。そんな近くから発見された。頭蓋骨が陥没としている、さらに体の各部が欠けていた。左足の久がにしたの。日置で首化になくなっていた。おそらくそれは野生の動物に食いちぎられた後だろうるとる園したいに発見されたのだ。その時のアンの驚きに描かねばならない。そのために彼女に絶対に取材しなければならい。
そしてリンドバークその人に都のアメリカに英雄に朱ざとしないならない。彼はその事件の田舎の警察高に、彼は大佐の地位に就いているかに、彼に自分い捜査を指揮したぐらいだからよ。彼はだれよりも野事件の真実をよく知っている人物だった。身代金を奪取された時の子もよく知っているしね、その長い裁判さえ立ちあっている。かれこそにその事件を誰よりもふかく証言できる人なのよ。私がこのハンプトンに冤罪事件にありとに「冷血」の高さにをもっと本にするために、とにかく彼への取材し、彼と闘わなければならない。どんな手を使っても彼に取材しなければならないの。しかしそり対決の機会をずるずると伸ばしていけと、それは恐ろしかったからよ。それを途意に園巣戸部財産に失ってしま都のしに全力に書き上げるということに彼との対決すべきことのなの野に根綿にいとに本が、トルーマンのコールドブラッドの高さに立つためにも子の本がものすごいベストセラーになるのには、ただハンプトンが無罪だった、そのことに立証すするためでてにいもね個の本にしに真犯人を探して二根園真犯人と対決とするとその真しはんいにその犯罪の全貌を引き出すことこそに書かねばならないのよ。
あのトルーマン・カポーティの「冷血」が真の傑作だったのは、彼がその犯罪についに丸で立ち会っ手い高野ょに書かれていることよ。彼に文に手に真に犯人は逮捕されていた。しかしあの事件の最大の謎はいぜとに残れたままだる佐野と裁判と新居に明か羅にできなかった。なぜ猟銃で一撃のもにと惨殺してしまったのか、カポーテイはその最大の謎をえぐりだしたのよ。その謎、人間の謎をあばきだいすことによって「冷血」は驚くべく気高さにたっていの。私に本と水戸にいに彼にカポーティの「冷血」の高さ何と間にひきあげねばならない。そのためにはカポホテイになとに監獄に足にウはことらペリーにつかずとに根ペリーとに都の市に管とに市に根親密にいとに肉体関係さえ住むなと似てい目とに宇都にそさ針に彼の内側に入りこんで真実を暴いていかなければならないのだ。


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