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明日はきっといい日になる~読書note-10(2023年1月)~

1月は昨年4月から続けてきた「毎月5冊」のノルマを果たせなかった。自分は毎週末の休日にまとめて読むスタイルなので、1月は休日ごとに大きなイベントがあったり、厄介事に頭を悩ませたりで、時間が取れなかった。まぁ、言い訳だけどね。

その最大の厄介事が先週無事に解決した。公務員を目指し一浪中だった長男が、最後の望みの埼玉県某市役所の二次募集に見事合格した。これがダメだったら二浪に突入だったので、ホッとしたと同時にめっちゃ嬉しかった。よく頑張った。正月に妻の実家に行った際、義父母から2月の最後の望みの試験の話を聞いていたので(本人からは採用試験本番の昨秋以降全く連絡なし)、気が気でなくて1月は全く本を読む気になれなかったのだ。足利市役所が彼の選択肢に最初から入ってなかったのは残念だけど。

しかし、高みも目指さず、これと言った努力もせず、諦めと妥協ばかりの人生を歩んできた自分にとって、幼い頃からずっと己の実力よりも高い目標に挑み、いつも壁に跳ね返されながらも、努力をし続けてそれを乗り越えて行く長男は、大谷翔平並みの怪物に見える。我が子ながら尊敬するよ。


1.古典落語100席 / 立川志の輔(選・監修)

昨年12月に浅草演芸ホールで久々に寄席を見た。20数年前まで東京や神奈川にいる頃は、よく浅草や新宿末広亭に行ったものだった。その久しぶりの生の落語を聞いて、「あれ、前に聞いたことがあってこれなんて演目だったかなぁ」と思ったり、「初めて聞いたけどいい話だったなぁ」というのもあったので、ネタの勉強用に購入した。

ちょうどアマプラで何周目かの「タイガー&ドラゴン」を見始めてたので、めっちゃ役に立った。立川志の輔師匠が厳選した珠玉の100席、一つの演目が見開きの2ページに収まっていて非常に読みやすい。そして、その最後に必ず志の輔師匠による「解説」が付いていて、聞きどころを教えてくれる。「奇想天外噺」「廓噺」「親子噺」「奥義指南」「夫婦噺」「江戸の味の噺」「大ボケ噺」「怖い話」、全部で8章に分かれていて、自分の好みを探すことも容易い。自分はやっぱ「粗忽長屋」のような「大ボケ噺」が好きだなぁ。

これは聞いたことあるなぁとチェックしてみたり、これは面白そうだからちょっとYouTubeで探してみよう、なんてことも出来る。この本を片手に、毎週日曜朝のNHK「演芸図鑑」を見るのが楽しみになってしまった。


2.最終便に間に合えば / 林真理子(著)

昨年の鎌倉殿の影響で北条政子についてもっと知りたいと思っていて、確か林真理子さんが書いていたような気がして本屋で探したが無かった。勘違いだったか。ただ単に林さんが政子のような強い女性が好き、と言ってた記事を読んだだけだったかも。なので、とりあえず著者の棚で目に付いた直木賞受賞作を買う。当時読んだ記憶もあったが、すっかり忘れていた。

表題作と「京都まで」の直木賞受賞作を含む5話の短編集、35年以上前の作品なのであぁ昔の大人の恋愛模様ってこんな感じだったかと懐かしむ。非常に読みやすい文章だった。7年前に別れた男と再会し、食事をして空港へ向かうタクシーの中で口説かれ葛藤する表題作、出世して立場が逆転した主人公の強さと弱さが波の如く寄せては返す。

年下男にハマってしまった「京都まで」は、もっとせつない。というか、ほろ苦い。そう言えば、自分は盲目的な恋はしたことないなぁと。恋愛中でも割と冷めているというか、一歩離れて自分達を俯瞰的に見てしまう。そんなところを妻に見透かされてしまったのかなぁ。


3.女のいない男たち / 村上春樹(著)

先月の連休中に遅ればせながら、アマプラで「ドライブ・マイ・カー」を見た。最高だった。主人公と劇中劇のワーニャ叔父さんがシンクロしてきて、人生とは何かを問いかけてくる作品だった。すぐさま、本屋で原作本を買った。

映画「ドライブ・マイ・カー」の基となった「ドライブ・マイ・カー」、「シェエラザード」、「木野」の3作品を含む全6篇の短編集、表題のとおり「女のいない男たち」が主人公だ。女に捨てられたり、先立たれたり、去られようとしている男たち、文字通り「女のいない男たち」の人生を描く。

村上春樹を読むのは、途中で挫折した「ねじまき鳥クロニクル」以来だから27,8年ぶりだ。読み進めて行くうちに、何とも野暮ったい捻った文章がだんだんと心地良くなってきた。そう、自分がかつてハルキストだったということを否が応でも思い出したのだ。

でも、こんなにこの本に引き込まれていったのは、俺自身が「女のいない男たち」だからか。出てくる全ての主人公に自分を重ねてしまった。何を失い、何を残されたか、と紹介文に書いてあった。俺も知りたいよ。


4.ことり / 小川洋子(著)

最新本ではないのに本屋で平積みされているのを見て、根強い人気があるってことだから面白いのかなぁと購入する。しかし、喫茶店で読み始めてすぐに後悔する。内容にではなく、あぁ、こういう本は、家や街中の喫茶店で読むのではなく、自然の中で読んだ方がいいと。そう、昨秋行った丸沼の畔とかで鳥のさえずりを聴きながら。

昨年10月の丸沼(群馬県片品村)

物凄く時間の流れがゆったりとした小説だ。何故か人間の言葉が話せなくなり独自の言語を話し、小鳥のさえずりを理解する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟が、ひっそりと二人で支え合い生きる日々が淡々と綴られる。つつましい、という言葉はこの二人のためにあるのかと。やがて兄は亡くなり、弟は仕事の傍ら、近所の幼稚園の小鳥の世話をボランティアですることになり、「小鳥の小父(おじ)さん」と呼ばれていく。

先の村上春樹の小説で言えば、この兄弟は「女のいない男たち」だ。女をはなから必要としない男たち、そういう人生だってある。でも、小鳥の小父さんが良く通う近所の図書館の司書さんに、淡い恋ごころを抱く章はとてもせつなかったなぁ。ただ、小父さん本人にとって、恋がいつの間にか始まって、いつの間にか終わろうとも、たいしたことではないのだ。

俺もずっとこのまま独りだったらどうなるのだろう、と時々考える。彼ら兄弟にとっての小鳥のように、サッカーと本と音楽を愛でる日々を送るのも悪くないか。今度、我が家の庭に来る野鳥でも観察してみようかな。

でも、本音を言えば「女のいない男たち」を卒業したい、妻ともう一度一緒に暮らしたい。奇しくも、長男の就職内定が決まった街は、俺が社会人になって最初の4年半住んだ街だった。そこに住んでなかったら、葉山でのヨット部の練習帰りに浦和在住で方向が同じ電車に乗る妻と、仲良くなって付き合うことも無かっただろう。縁って不思議だよね。

落語の「子は鎹」ではないが、長男が二人を再び結び付けてくれるものと信じよう。長男も浪人中はプレッシャーと闘いながら明日を信じ、大好きな高橋優のこの歌で自分を励まし続けたのだろうから。

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