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さよならをみんな ここに捨てに来るから~読書note-16(2023年7月)~

先日、会社のメインバンクの取引先企業からなる親睦団体の納涼祭が4年ぶりに開催された。想像以上に小さい子が多く参加してくれたため、スイカ割りやビンゴゲーム等、大いに盛り上がった。自分は副会長を務めているため、参加せざるをえない立場なのだが、家族がいないためボッチ参加だった。

息子達が小さい頃、よくこの納涼祭やXmasパーティーに家族4人で参加していたなぁと、懐かしさを感じていた。

Xmasパーティーのビンゴゲームでゲームソフトが当たった10数年前の写真

長男は今年から公務員となり、次男も大学4年で就活真っ只中、希望職種は映像制作の会社のようだ。地元の足利市には戻ってきそうもない。自分も息子達に家業を継げと言ってこなかったので、おそらく我が社(金型部品製造販売)は自分の代でお終いだ。「Going Concern」とならなかったのは、自分の力の至らなさだが、どうやって終わらせるかが頭を悩ませる。妻との関係も同様に…

「大阪の海」ならぬ「群馬の湖」にすべて捨ててお終い、とはならんよなぁ。


1.舟を編む / 三浦しをん(著)

三浦しをんさんは昨年11月に読んだ直木賞受賞作「まほろ駅前多田便利軒」以来か。本屋で歴代本屋大賞のコーナーで見かけ、そう言えば読んでなかったなぁと購入。今まで何かで知ったこの本のイメージが、漠然と宮木あや子さんの「校閲ガール」とごっちゃになっていて、読み始めて「なぬぅ、辞書編纂の話だって???」となる。

世の中のどんな商品・製品にも、情熱をかけてそれを作っている人々がいる、という当たり前のことを改めて知る。出版社の営業部員・馬締(まじめ)光也が主人公、ある時、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれる。言葉への尋常でない拘りを持ち、名のとおり「まじめ」一徹で不器用な彼の、辞書編集部員としての成長、恋模様、そして、新しい辞書『大渡海』の完成に向けて、一心不乱に突き進む姿が描かれる。

馬締が主人公だが、ベテラン編集者の荒木や同僚の西岡、後輩の岸辺の目線で書かれている章もあるので、どんどん飽きずに読み進められる。また、「大渡海」の完成が如何に辞書編集部の悲願かということが、各々の言葉で語られ、自分もそこに携わりたい、いや、既に携わっている気分になってくる。

辞書というものがこうやって作られ、辞書作りに携わる人々(特に日本語研究に人生を捧げた老学者・松本先生)の熱い思いが込められていることを知れて、これぞ小説の醍醐味だなぁと。先日、大学生時代以来、30数年ぶりに買った辞書「類語辞典」を早速めくって、馬締が言う「ぬめり感」を確かめてみよう。


2.シュガータイム / 小川洋子(著)

本屋で漠然と棚を物色していたら、この本が目に留まる。「ことり」「博士の愛した数式」でファンになった小川洋子さんが書く青春(恋愛?)小説とは、どんなものなのか。興味津々で購入。やはり、普通の青春小説ではなかった。燃え上がるようなものでも、我を忘れるほどの熱さもなく、小川さんのいつも通りの淡々とした日常が紡がれる。

簡単に言うと、女子大生のひと夏の失恋物語なのだが、登場人物の設定が普通でないので、何とも胸騒ぎのする本なのだ。主人公のかおるは、過食症とは違うが異常なほどの食欲に襲われる女子大生で、弟の航平は背が伸びない病気でかおるの下宿先の大家さんの教会で住み込みで働き、彼氏の吉田さんは理系の大学院生でEDなのか性欲というものがそもそも無いのか....。

小川さんらしい美しく、静かで、儚い文章なのだが、「ことり」や「博士の愛した数式」で味わうことのなかった、胸騒ぎというか、雑味の残る読後感というか。それでも、小川さんがあとがきで「これだけは物語にして残しておきたかった」と書かれている、青春の終わりに味わう「何か」の一端を感じることが出来たかもしれない。


3.一日署長 / 大倉崇裕(著)

大学時代の山岳同好会の友人、ミステリー作家で劇場版コナンの脚本家でもある、大倉崇裕君の最新作。年末に読んだ「殲滅特区の静寂」以来か。いやぁ、贔屓目無しで面白かった。彼の作品はデビュー以来だいたい読んできたはずだが、タイムスリップものは初めてかもなぁ。

資料編纂室に配属された新人女性警察官・五十嵐いずみが、未解決事件や何ともやりきれない事件を担当した警察署の署長に憑依して、その時代に一日限定でタイムスリップする。タイムスリップものの肝は、タイムスリップした先で何をするかだ、と言われるが、本作は、本来は警察署のお飾り的な役職(実務は副署長以下が万事やってしまう)である署長が、フットワーク軽く、現場最前線で捜査にあたったり、その事件を解決したり、未然に防いだりするのだ。しかも、おっさんの身体を借りた、中身は20代女性の新米警察官が。ホント色々なギャップが面白い。

また、タイムスリップ先は、いずみがまだ生まれてない時代とかもあるので、その世相や身の周りの道具にもそれが反映される。そう、昔はパワハラ(そのものはあったが犯罪という認識)もエアコンもスマホも無かったんだよなぁ。そして、タイムリミットが一日限りというのがミソで、限られた時間の中で署長という役職を最大限に活かして、事件解決にあたる。一応、警察学校を首席で卒業したらしい!?いずみ(が憑依した署長)の活躍で良い方に歴史は変わってしまうが、一話完結(全5話)の毎回スカッとするミステリーとなっている。

大倉君はミステリー作家になる前に、警察官向けの雑誌の出版社に勤めてただけあって、「警視庁いきもの係」や「死神さん」同様、警察内部の描写は流石に詳しい。ぜひ、シリーズ化を期待したい。


4.どちらかが彼女を殺した / 東野圭吾(著)

寝る間も惜しんで読むのは、東野圭吾作品だけだなぁ。ホント、読み出したら止まらない。本屋で「ミステリー界にケンカを売りたかった」との著者の帯を見て、ガリレオシリーズはだいたい読んでいるが、加賀恭一郎シリーズは結構読み逃した作品が多く、これも未読のため、文庫本が新装されたので購入。

愛知県警交通課の和泉康正は、「信じていた相手に裏切られた。あたしが死んだら一番いいと思う。」との唯一の肉親である最愛の妹・園子からの週末の電話が心配になり、月曜日に東京のアパートに駆けつけると、彼女の死体を発見する。すぐさま自殺ではなく他殺だと判断し、犯人に復讐するため、警察には自殺として処理してもらうよう、現場の偽装工作をする。それを嗅ぎ取ろうとする加賀恭一郎と和泉とのせめぎ合いが本作の読みどころ。

容疑者は割りと早い段階で恋人か女友達かの二人に絞られるが、最後までどちらが犯人か断定されずに終わるという、とても挑戦的なミステリーとなっている。犯人の決め手となる文言が、単行本から文庫化される時に削られることで、更に読者が犯人を当てるのに苦労する形に。

でも、文庫の最後に袋綴じが付いていて、それを読めば大概の読者は犯人が分かる仕組みになっている。自分も結局分からず、袋綴じを開けてしまった。チクショー、次はこれと同様の形式で容疑者3人の「私が彼を殺した」に挑戦しよう。


5. 銀座「四宝堂」文房具店 / 上田健次(著)

上田健次さんはお初かも。文庫の新刊コーナーに平積みされていて、裏書きを読んで面白そうだったのと、昔、丸の内で働いてた頃、銀座伊東屋によく通ったことを思い出し購入。愛着のある文房具って、段々と減ってきたけど、もう一度、自分なりにこだわりのある物を揃えたいなぁと思った作品。

銀座にある老舗文房具店「四宝堂」が舞台、青年店主・宝田硯(けん)のもとに様々な悩みを抱えたお客様が訪れる。万年筆、システム手帳、大学ノート、絵葉書、メモパッドの5つの文房具をテーマにした5つの短編から成る。それぞれの文房具をこんな風にこんなにも使い込んでいるのか、という発見もあり、中々面白い。大切な文房具には大切な人の思い出があるから、ホロッとさせられる。この作家さんも中々の泣かせる書き手だなぁ。

最後のメモパッドの章が特に好きだ。まず、寿司職人がメモパッドを多用していることに驚いた。確かに、職人の世界では事務職のように懇切丁寧なマニュアルは存在しないから、見たり聞いたりしたことを自分でメモすることが大事なのか。それと不義理をしてしまった、最初の店の大将への思い、何となくわかる。自分も不義理をしてしまった、昔の上司がいるから。世話になったのに、きちんと挨拶もせず、会社を辞めてしまった。

そんな人との思い出の品もきっとあったはずだが、引越を繰り返すうちに失くなってしまったし、その人ももう亡くなってしまった。これからの時代を生きて行く人々に、恩送りをしていくしかない。今年就職した長男に贈ったCROSSのボールペン、大切に使ってくれてるかな。

今月は大倉君のタイムスリップものを読んだせいか、はたまた毎週土曜、一年前にタイムスリップして、2周目の人生を生きるドラマを見ているせいか、どの地点まで戻ってやり直せば、妻との関係も会社もこうならなかったのだろう、なんて考えてしまう。

泣いたらあかん 泣いたら せつなくなるだけ
逃げたらあかん 逃げたら くちびるかんだけど

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