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自分にも、他者にも必要なパーソナルスペース

欧米人は個人主義ということはよく耳にしますよね。個人主義とは、「個人の意義、価値を強調し、個人の自由、独立を尊重する立場」とあります。
(出典:Oxford languages)
こんなことから、私たち日本人は、欧米人は個人の主張が強いというイメージを持っていたりますね。確かにそのようなところはあると思います。私の夫はアメリカ人なので、「アメリカ人の中には自己主張がとても強く、自分のことしか考えない人がたくさんいる。だから日本人の和や調和を大切にする考え方がとても素晴らしいし、その考え方の方が好きだ。」とよく言います。
夫の言うこともわからなくもなく、どちらにも良さがあり、やはり中庸が大事かなというのが私の意見です。

さて、私はアメリカに住んで10年くらいになりますが、「私が感じた個人主義」ということについて、書いてみたいと思います。

先日6歳の娘を学校の友だちたちと遊ばせていたとき、ママ友たちとの会話で髪の毛のことが話題になりました。娘の友だちのお母さんが、『Mは、いつも髪がボサボサしてるから、「ポニーテールにしたら」って言ってるんだけどね』と話していました。その子、確かにいつも髪がボサボサで、お母さんがきちんと梳かしてあげていないのかなと実は密かに思っていましたが、そうではなかったんですね。お母さんは、整った髪型にしてほしいと思っている。けれど本人が望まないから、本人のさせたいようにしている、ということだったわけです。

私はアメリカ人と接していて感じるのは、この余白とも言えるスペースです。『私はこうした方がいいという意見を持っている。でも他者には他者の考えがある。だから、自分の意見を伝えても、相手が何を選択するかは相手の自由意思に委ねている。』これは、他者のパーソナルスペースを認めるということもできます。それが小さな子どもに対してであってもです。この姿勢には驚きました。なぜかというと、私自身は子どもの頃から母に、「そんな格好をしたらおかしい」とか「みっともないからやめなさい」と頻繁に言われて育ったので、親が子どもに自由に選ぶ権利を与えるといったこと自体が非常に新鮮でした。
もちろん、だからと言って、アメリカ人の親はなんでも子どものやりたいようにさせるという意味ではありません。例えば公共の場で子どもが騒げば、静かにしなさいと注意するのは当然です。

さて、「他者のパーソナルスペースを認める」ということは、人間関係を営む上で非常に重要になってきます。なぜならば、これが保たれることでお互いに心地よく過ごせるからです。誰でも、他者にズカズカと土足で自分のスペースに踏み込まれたら嫌ですよね。それが家族であっても。私たちの誰もが、このスペースを持っています。それはどんなに小さな子、赤ちゃんもです。人間としての尊厳なのかもしれません。アメリカでは、このスペースをとても尊重しているなというのを日々のいたるところで感じます。これは単に物理的なスペースだけではなく、「一人になる時間」「その人が自由意志で選択できるスペース」などの目に見えないスペースでもあります。

例えば、公園で見知らぬ子がうちの娘たちと遊びたくて近づいてきたとき、うちの娘たちは人見知りするので、大概すぐには見知らぬ子と遊ばないのですが、それを見て、近づいてきた子の親たちは、「人にはスペースが必要だから、お友だちにスペースをあげたら?」と自分の子どもに諭しています。小さいうちから、「他者には他者のスペースがある(目に見えないスペース)」と教えられているんですね。こんなふうにして、アメリカではいろいろな場面で「スペース」という言葉が割と頻繁に使われています。

このスペース、実は自分自身に対してもとても大切になります。マインドフル・セルフコンパッションという自分を労わるメソッドを学んだとき、「私たちは人には優しくできても、自分には厳しくしてしまう傾向がある」という話がありました。そして、自分に優しくするためには、自分自身にもスペースを与えることが必要だということでした。自分という存在は近すぎるゆえによく見えないことがありますよね。だからスペースを持つことで自分を俯瞰することができます。
これは家族に対しても同様です。大好きな家族だからこそ、心配したり、よくあってほしくて厳しい目で見てしまうことがありませんか。こんな時、家族に対して一歩引いて(スペースを持って)接することで、優しくなれるのです。

自分に対して「スペース」を与えることができると、他者に対しても「スペース」を与えることができます。自分の思いを尊重し、自分に対して優しくできると、他者に対して同じことができようになるわけです。

個人主義についていろいろ言われていますが、「お互いのパーソナルスペースを尊重することが個人主義ということなのかな」と私は思いました。それは単に自分の意見や価値観を主張するということではなく、それぞれの個人が持つ意見や価値観を自由に持つスペースを互いに認め合うこと、これが真の意味での個人主義というか欧米人の持つ考え方なんじゃないかなと思いました。ただ残念なことに、自分のスペースばかり主張して、他者のを尊重できない人もいるのは確かです。

自分のスペースも大切にし、相手にもスペースがあることを認める。こうやってお互いのスペースを尊重し合えるようになると、誰にとっても心地の良い世界になるのではないかと思います。

それがレジリエンスのある社会、お互いの健康を促進する社会につながると思っています。


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