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Worker Escape

 日本はここ30年で先進国で珍しく賃金が伸びていません。バブル経済の時代は人手不足で会社側が残業を懇願する立場でしたが、平成の大不況は労働者の立場を弱くしサービス残業すら横行しました。また大学進学率も大幅に向上し、学歴は大きく向上したのに総合職がもはやエリートの職種ではなくブルーカラーとホワイトカラーの境目が曖昧になりつつあります。大層な大学を出たのに総合職という名の「ブルーカラー」に近い自称ホワイトカラーに就くぐらいなら、新天地に活路を見出す。昭和の前半、農家の次男坊三男坊がブラジル、アメリカ、満州を目指したあの時代が現代再び蘇っています。
 海外は日本以上の社会保障が受けられるケースもあり、労働環境は一部日本の職場に比べるとかなり働きやすい職場もあります。元々は美容師など専門的なスキルを持つ人が「海外出稼ぎ」というより武者修行に行っていましたが、今は本当に生肉工場で働いたり、福祉施設で働いたり海外でも人手不足な業界で働くことが一般的になりつつあります。
 ただこの手の求人は当然光もありますが、その明るさが強いほど影の大きさも濃くなっていきます。最近日本でも外国人が雇用される際のトラブルが頻出しています。ある人は「日本人は差別とは無縁。親日国が多いから」と間違いなく海外に行ったことがない人のご意見を頂戴したことがあります。日本で働く外国人を見て貴方はどう思いますか?その雰囲気がそっくりそのまま海外で出稼ぎする日本人も同じ扱い、同じ括りとして見られているわけです。

おいしい話にも毒がある

 日本で海外の出稼ぎを報道する際、あまりマイナスな事は報道されにくいです。一部そういう報道もありますが、大体が海外だとこれだけ稼げる、年収が倍になったという話ばかりです。一時期日本好きな外国人にいかにも台本に書いてあるような、歯の浮く日本褒めの言葉を発言させ視聴率をとっていた番組もありますが、そう簡単な話ではありません。例えば技能実習生を雇う際、昔はとにかく来日させればこっちのもんだという経営者も多かったのですが、今の情勢は格安社宅ぐらいは用意しないと、ネットで構築された実習生ネットワークで厳しく見極められます。例え安く給料を買い叩いたとしても、その他諸々の諸経費を考えると日本人よりもむしろ割高になるという傾向が出ています。それなのに何故雇うのかというのなら技能実習生は少なくとも3年契約(必ずしも絶対3年働く事が条件ではありませんが)なので、人海戦術の職場だとかなり重宝されるのも大きなメリットです。ただ事例として3年持たずに帰国する事も増えていない。出稼ぎもとっくにグローバル。やたらと移民労働を嫌がる人もいますが、そもそも人手不足でその産業の存続すら危ぶまれる状況で地方経済界は多少人件費がかかっても「グローバルな人材」を欲しています。総合職より製造業のラインに入ってくれる人材。大学全入とは少ない総合職のパイを奪い合うのが本質です。
 人件費が高騰している国はそもそも地価が高騰し、いかに高給な職にありつけたとしても家賃を払うだけでカツカツという事例が最近「出稼ぎ日本人」の例でも出てきました。多くがシェアハウスをして何とか住居を確保しているほどです。そしてかつてワーキングホリデーは仕事したくないから遊びに行くという観光の延長線のようなイメージで語られ、現在も一部そういう風潮も残っています。コロナ禍と日本の賃金がそれを押し進めている現状ですが、バブル経済を経験した人にとっては根強いイメージも残っています。金稼ぎという目的も大事ですが、本来の目的である語学力をつけるという事を達成できれば代わりの聞かない人材になるのですが、一部の経営陣の硬い固定観念をなんとかせねば海外出稼ぎをした人材にまともな賃金は支払われないでしょう。

海外ブラック企業事情

 海外出稼ぎで1番の大人気な国はオーストラリアです。資源を生かし、未だに経済成長を続ける国の社会保障は社会保険方式ではなく一般財源で賄われます。つまり「税」です。オーストラリアの場合は州政府や地方自治体の裁量が大きく分け与えられています。
ただオーストラリアでもこうした公的生活保障は常に槍玉に上げる勢力もあり新自由主義的な改革を進めようとする動きも全くゼロではありません。そしてそんなオーストラリアでも労働に関するさまざまな規則を守らないいわゆる「ブラック企業」があります。
 ある農場のケースは歩合制で寮も最悪だったという証言もあります。そういえば日本で技能実習生の職場に国連が問題を通告した職場はレタス農場でしたね。粗末な寮で歩合制はあまり稼げず、稼働する日も少ないため逆に貯金を減らす羽目になりました雇用主側も英語が出来ないことをいいことに安く使える持ち駒にたまたま日本人もいたという感覚ぐらいでその契約についてトラブルになる事もありました。ブラック企業と言われるものは何も日本人特有なものではなく、資本主義が続いていく限りこういった会社の根絶は不可能です。法律はどんなに完璧だと思われていても必ず抜け道があり、だから世界各国で労働行政を司る省庁があるのです。日本にもかつて労働省がありましたが、それが厚生労働省に再編され労働省にはあった労働組合の窓口が厚生労働省には廃止されました。労働組合の組織率低下はこうした国の動きと全く無縁というわけではないと思います。
 もう一度書きますが海外にも過重労働や賃金未払いなど様々なトラブルがあります。そういった職場を避けるためにはやはり労働者自身が知識をつけるしかないです。とにかく雇われる前に賃金や待遇については確認しておくこと。慌てて職を探すのは結果としてブラック企業の手の内になります。待遇をボカされると企業はほぼ間違いなく賃金は誤魔化されると思っていいでしょう。

いい事例しか言わないのもマスコミの悪い点

 もちろんいい雇用主に出会えたら、思っていた以上の待遇で働けるでしょう。実際給料水準は日本よりもいいのですから、同じ職種で給料が10倍違うという事例もあります。日本の野球選手とメジャーリーガーがそもそも年俸の水準が違うと同じです。ただ海外の労働環境が全て天国かと言われると当然落とし穴もあります。最初から永住権を目的とする人もいます。それなら職場を選んでいられず過重労働に耐えはれて永住権を獲得しまともな会社に就職しますが、解雇規制が緩い国では元外国人の立場はかなり弱いです。海外の労働運動でも移民を組織化しているところもありますが少数派です。労働運動に国境はありませんが他民族国家ですら帰化された人に比べ永住権を持たない外国籍の労働者を組織化するにはかなりテクニカルな組織化が必要です。日本の場合も職場の組織化もしますが、技能実習生を起点とした組織化を行っていくオルグはほぼないと断言してもいいです。やる人が誰もいなく一部では外国籍労働者の組織化に取り組んでいる人もいる事はいるのですが••。
 出稼ぎ日本人のニュースを見て気になることもあります。たまに寿司職人などスキルがある人が紹介されますが、7割以上が単純労働です。若い頃はそれで一定の収入は得ることができます。ただ若くなければ単純作業というものは怪我も多くなる作業の連続です。体の一部分を使い続けるという事はそれだけ摩耗することです。ちゃんと将来設計の見通しが立っている人はそれでいいですが、それ以外だと資本主義下では落伍者になります。
 資本主義下で生きる私達は思いのほか幸運が重なって労働ができています。一つ考えてみてください。この先のことを少しでもいいから。


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