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(条件)BI成功に欠かせない要件

こんばんわ。ここまで、2つのお話を書いてきました。BIが導入されていたものの、資源の枯渇によって崩壊した国家であるナウル。そして、議論を整理するために、BIと呼ばれているものにも色々とあり、結局従来型の生活保護と大して変わらない類の社会保障もBI呼ばわりされているということ。

https://newspicks.com/news/2306837

https://newspicks.com/news/2309353

これらの話を踏まえて、BIが成功するとしたらどのような条件が必要なのか?ということに考察を加えてみたいと思います。

まず、ナウルの話。ナウルは資源が枯渇することで失敗しました。だとすると、資源が枯渇しなかったら問題ないじゃないか、ということが言えます。

確かにこれは正しいかもしれませんが、リスクがあります。たとえば石油は枯渇していませんが、現在原油価格は大きく下落しており、中東諸国はそれに苦しんでいます。また、一時中国がレアメタルの輸出で儲け、それを”人質”に使って世界各国との交渉に使おうとしたら、レアメタルが不要な技術に製品革新が行われて結局中国が割を食ったという話もありましたね。

資源を頼りに富を得るビジネスは、それが枯渇するリスクは当然ながら、こうした「資源の価値自体が無くなる」リスクも背負っています。とはいえ、このような特徴から、割とBIに近い仕組みで運営されている国は現在でもあると言えます。

例えばブルネイ。ここは国民の60%が公務員。また、教育・医療は無料で、土地や住居も与えられ、所得税や消費税もありません。年金は自分の給与から積み立てる方式。雇用に対する給与という形ではあるものの、公務員がこれほど多いという状況は、労働を義務として課してはいるものの、国が養ってくれていると考えてもいい状況ですね。ちなみに失業率は2012年データで1.7%。相当な低水準ですね。この国も石油と天然ガスの国です。

そしてサウジアラビア。ここはブルネイとナウルの中間に位置するような情勢です。高い社会保障に守られてきた国民は、就業意欲が低いです。失業率は2015年データで10%ちょい。なお固有の事情として、特に厳しい女性の人権に対する制約があるので、女性は失業率30%以上です。サウジは現在、原油価格の下落もあり財政は苦しく、”Vision2030”という政策を掲げてこうした状況を大転換しようとしています。ナウルにならないよう、いま必死で対策を推進しているというわけですね。

では資源が無い国はどうなんだという話。日本は基本的に資源が無い国。リスクを抱えながらも膨大な資源を抱えて、それで食っていける国であればBIはできそうな感じですが、資源が無い国ではBIは不可能なのでしょうか?

そうとも言えないと思います。まず、考え方を整理します。ここで挙げてきた国々は、国家が国民を養ってあげられるほど儲かっているケース。この場合は富の分配が容易ですので、BIが可能です。一方、BI導入の議論においては、社会保障を大幅に削ってコストを浮かせ、それを原資にしてBIをやろうという議論があります。この2つは議論の方向性が大きく違いますので、まずは今日の記事、先に前者から議論をしたいと思います。

この場合、要するに儲かる国だったらいいわけです。大前提として、貿易黒字、または最低でも均衡状態である必要があります。貿易赤字では、国からどんどんお金が無くなっていきます。これでは原資が無くなりますので、デフレを起こしでもしない限りはBIは維持できません。しかしデフレしても外国からの輸入品・サービスまでデフレしてくれるわけではないですし、外国人労働者の賃金もしかりですので、経済学知ってる方はデフレを例示するだけで笑い種だとは思いますが、こんなことやるわけにはいきません。

しかし、貿易黒字が強すぎると睨まれますね。日本はずっと睨まれてきましたね。あんまり大きな国過ぎると、一方的な貿易黒字は是正の圧力を受けてしまいます。とすると、貿易の赤黒が均衡状態を維持するという奇跡的な運営を行うか、黒字なんだけど経済規模が大きくなくて、目を付けられない国であることが必要です。もうこの辺で日本は脱落ですね。後日、もう一つのルートである社会保障カットの路線で改めて考えましょう。

では、この黒字ルートでやっていける国にはどんなところがあるか?

タックスヘイブンをやるケースです。少額の税で世界各国から企業を呼び込み、母国と比べれば安い税金とはいえ、たくさん呼び込むことで税収を得ます。これらの国々は小さな国土ですので、国民の数も少ないです。なので、徴税効率は低くとも、国民を養っていくためには良い手段であると言えます。

しかし国際企業への課税の公平化を目指し、こうしたタックスヘイブンを利用する企業に対し、実質的な母国でキチンと徴税しようという動きが進んできています。したがって、将来的にタックスヘイブンという国家戦略も通用しなくなる可能性があります。割と近々に。

しかしタックスヘイブンによって得られる資金を投資マネーとして、自国の産業を育てようというベンチャースピリットでやる国はこの限りではありません。あくまでもスタートアップ資金としてタックスヘイブンを活用し、数年で稼げなくなってしまうかもしれないこの戦略から転換し、事業化を推し進める。小さな国で、高度に進んだ経済を作り、国際的に重要な国へと成長し、しかもGDP自体は決して悪目立ちしない国。

ありますよね。シンガポールです。GDPは愛知県くらい。マカオやモナコも同じような性格があるかもしれません。

とはいえシンガポールはBIを導入しているわけではありません。年金はブルネイと同じく自身の給与からの積立金が将来支払われます。しかし実は結構な利率が付きます。生活保護や医療費の負担軽減などについては割と高水準。住宅も実質的に国から支給されています。全般的に、手厚い支援を行い、自身の給与を強制的に貯蓄に回させることで政府負担を抑制する政策を取っていると言えます。

しかし2014年に少し方針が転換され、急速に進む高齢化社会への対応として、高齢者向けの「パイオニア世代パッケージ」が始まりました。高齢者向けということで、年金の強化版といえばそれまでですが、自助を前提に、事情がある人たちへは手厚く、という基本方針からの転換が行われ、若干BIっぽい動きがされたと言えるのではないでしょうか。

シンガポールは、自国民への教育を非常に重視しているため、しっかり競争力のある人材を育てて稼いでもらい、それに乗れなかった国民を高福祉で守るという形。割と理想に近い形ではありますが、これができるのも”儲かってるから”なんですよね。予想通り、ずっと貿易黒字の国です。

そしてもう一つ。BIを行うために稼ぐ → 稼げる人材を作る → 教育を充実するという政策。これを実現するための条件があります。就労環境があまり多様でないことが必要なのです。

シンガポールには第一次産業が殆どありません。製造業が政策によりおおよそ25%、現在では金融とIT等の第三次産業が大半を占める国。生き方が多様でなければ教育も画一的なもので良い。高度教育を受け、働いた給与は強制的に貯蓄にいっぱい回され、国が用意した家に住む。こう書いてしまうと味気ない人生にも見えてしまいますが、勝ち組が勝ち続けるためのレールを敷いて、それに乗ることで将来不安もない人生を送れる仕組みなんですね。これはこれで幸せな生き方なのではないかと思います。

シンガポールは自助の精神を重視しているのでBIは導入されていませんが、条件は割と整っていますし、働く動機を落とさずに高福祉を提供するということで、そこそこモデルとして参考になるのではないかと思います。

これを前提にして、日本でBIが実現できないか?考えてみましょう。

東京が独立国家だったらできるのかもしれませんね。ちょうど面積が同じくらい。東京単体で見れば、シンガポールとよく似た産業構造ですし。しかし全国単位で見てみると・・・BIをやるには多様過ぎて、稼げない自治体ばかり。東京だけでは荷が重そうですね。

そんなわけです。BI実現可能性ルートの1つ、持続的に原資が得られる資源やビジネスにおける競争優位がある場合は可能というルートは、日本では実現できなさそうですね。

今日はここまでです。明日はNPオフなのでお休みです。まだ続きますのでご覧いただければ。


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