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夜が明けるまで~第3話 「 ハローワークの天使」 ♪あなたのお家はどこですか

失業給付をもらっていても、アルバイトで得た報酬をその都度きちんと申告すればよい、ということをこの時初めて知った。

しかし、アルバイトすら若い子との戦いにあっけなく敗れて、全然見つからないのだ。
するとニュースなどで、仕事と同時に住居を失った人が多数いることを知った。

なんてひどい世の中だろう。
私達は非正規社員だったとはいえ、人間である。物ではない。
感情があり、それぞれの人生があるのだ。

それなのに、ボールペンやノートなどの消耗品のごとく都合よく使用して ポイっと放り出されるのを、無神経に許している社会が冷酷すぎるのだ。
そういえば、以前に派遣社員として働いていたIT企業では、       派遣社員の人件費が、経理の勘定科目で「消耗品費」に仕訳で扱われていたのを思い出した。

私はそのシステムで見積書を作成しながら、随分頭にきたものである。
そうか。やはり、いつからか人間が消耗品として扱われるようになったのだ。

以前読んだ小説で、若く貧しい人夫の青年と娼妓の儚い恋を描いた物語が あった。
彼らの寿命はとても短く、その小説の中に
「人が消耗品として扱われていた時代である。」という一文があったが、現代も全く同じだ、と実感する。

さて、男性でも屋根のない場所での生活は勿論辛いが、女性の野宿はどうするのだろう。私はなんとかまだ家賃を払えているが、と自分も酷い状況なのに他人が心配になってくるのは、派遣社員というのは圧倒的に女性が多いからである。

ある時、私が通う「非正規社員から正社員を目指すハローワーク」の中に
「お住まい相談コーナー」なるものが、設置されているのに気付いた。
「これはもしや」と思っていると、何人かの人が大きな荷物を持って、そのコーナーに並んでいるではないか。

その日、いつものように私は数社の紹介状をもらい、帰ろうとすると
その「お住まい相談コーナー」の前に、若い女性がいた。
きれいな黒髪の可愛らしい、清楚な女性だった。
「まさか、この人が家を失ったわけではないでしょうね。並ぶ場所を間違っているだけでしょう。」とつい凝視してしまうと
「Tさん、どうぞ。」と係の人が名前を読んだ。

すると彼女は明るく
「は~い。」と甘い声を出し、いそいそとブースに向かうではないか。
私は茫然とした。
あんな若くて可愛らしい人が、住まいを失っているのだろうか。
私と同じ、派遣切りにあったのであろうか。

そういえば彼女は、大きな手荷物を持ち、更に大きいスーツケースをガラガラと引いていた。
そして彼女の屈託のない態度と、悲惨すぎる状況があまりにもミスマッチで、いったいどういう人なのかとても気になった。
しかしその後、二度とハローワークで彼女に会うことはなかった。
(第四話「ピアノの涙」に続く)

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