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風呂キャンセル界隈経験談-鬱の始まり、発達障害、生存放棄への入口

 「風呂キャンセル界隈」という言葉がX(旧Twitter)でトレンド入りしました。うつ症状や適応障害、発達障害でお風呂に自力では入れないことを意味するネットスラングらしく、みすみんも少し前まで「風呂キャンセル」状態で生きていました。

お風呂自体は好き

 みすみんは元気な状態ならお風呂は大好きで、1回1時間入ったり、温泉巡りをしたりしています。しかし病み始めると大変なことになってしまいます。入浴しないと身体も調子悪いですから余計にストレスがかかります。

入浴を阻害する数多くのハードル

 みすみんは生活に支障を来すほど重い注意欠陥多動性障害と自閉症スペクトラム障害を抱えています(精神障害者手帳1級)。元気な時は普通にお風呂に入れますが、ひとたび調子を崩すと自力ではお風呂に入れなくなります。

入浴には、シャワーだけでも
①布団から起き上がる
②風呂まで移動する
③服を脱ぐ
④シャワーを浴びる
⑤髪を洗う
⑥体を洗う
⑦風呂場から出る
⑧体をふく
⑨髪を乾かす
⑩服を着る

など莫大な労力が必要です。風呂に入ることを考えるだけでもこれらの行程を想像してしまい、憂鬱な気分になります。そもそも身体が動きません。

入浴に向かうインセンティブの無さ

 人はなぜ入浴するのでしょうか?清潔になるためです。ではなぜ清潔になる必要があるのでしょうか?人と会った時に不快感の無いように社会的な交流をするためです。

 しかし、ひとたびうつ状態になると、人と会う気力が無くなります。人と会わなくていいので人に不快感を与える心配がなく、清潔であるインセンティブが無くなります。

 そして清潔は健康につながりますが、そもそも生きることに何の期待もしなくなるため、健康である必要性も感じなくなります。

鬱で上位欲求から順に放棄

 こうなると掃除洗濯など家事もキャンセル。ご飯も無ければキャンセル。そもそも起床すらもキャンセルします。意識を保つことすら面倒ですから、一日中惰眠を謳歌します。眠れなければ睡眠薬を投入して意識すらもキャンセルします。

 そして、すべての生存への努力を放棄します。生きるためのエネルギーが尽きていますから。

それでもできるVRChat

 孤独を感じていたその時のみすみんは、VRChatに1日8時間近くログインしていました。メタバースでは肉体の状況に関係なく、寝たきりでも他者と触れ合うことができます。なんとか正気を保てていたのは、せめてVRChatの中だけでも、自分らしくいられたからかもしれません。

 メタバースの良さはやっぱり手軽に自分らしく他者と触れ合えることかもしれませんね。現実では外に出るまでがハードモードですから。

「病み」どころじゃない!これは致死性の重病だ!

 サブカルな文脈でちょっとかわいく消費される「鬱」「病み」。こんなかわいい病気なわけありません。「鬱」は生命保険に入れなくなるほど致死性の高い病気です。人間は一たびドツボに嵌ると簡単に生存に対する努力を簡単に放棄してしまいます。社会と言うのは都合がいいもので、「鬱は甘え」だとかいう割には鬱の危険性をちゃっかり熟知していて救済から排除します。

 そもそも生きることそのものが高コストで苦痛なもの。コスパ最優先どころか、そもそも自分自身の時間や肉体という資本すらもない状態ですから、何かをする選択肢すらありません。

 「しにたい」というのは、この逃れられない生存の苦痛と苦役から「無」になることで逃れたい人類に残された最後の欲求です。生存キャンセルです。

「風呂キャンセル」を解決するのは「人間の自由」

 「障害の社会モデル」という概念があります。障害は肉体に起因するものではなく、社会的な選択肢が一部の健康な人間しか与えられていないからだという考え方です。国連障害者権利条約や、日本の障害者差別解消法のもととなる発想です。

 「風呂キャンセル」現象が象徴するのは、まさに風呂に入るという選択肢が一部の健常者だけに限定され、与えられている現状ではないでしょうか。

 「風呂キャンセル」に対抗するには「人間の自由」という発想が大切になります。現在の利潤第一主義社会は、各人の生存自体を低賃金で人質に取り、働けないと判断されれば、社会の側に高いハードルを設けて排除してきます。少し不自由があるだけで排除してきますから、ちょっと調子が悪いくらいでも簡単に生存を維持できないようになります。だから、無理して働くことになり、心が折れて動けなくなり、風呂キャンセル状態に陥ってしまいます。

 文明の目的が各個人個人の自由の発展にあるならば、「当たり前の幸せ」を享受するために、ここまで無理をする必要がありません。すべての人が自分らしく能力を伸ばして、幸せに生産し、文明を伸ばすことができます。

 風呂キャンセル状態に対応するのは、気合でも根性でもなく、柔軟な福祉体制と、人間の自由を目的とする社会への転換です。

薬や政治を頼ろう

 みすみんは1カ月近く「生存キャンセル状態」でした。もちろん風呂もキャンセルです。さすがに危機感を持ったみすみんは心療内科の先生に相談し、抗うつ薬をもらいました。そして親にも相談してなんとか介助してもらいながら風呂に入っています。

 また、どうしてもひどい場合は要介護者認定をもらうのも手です。市区町村の福祉課などに相談した方がいいかもしれません。みすみんも要介護者でした(引っ越しで外れた以来、そのまま再認定してもらおうと動けていない)

自分自身を愛せるように

 風呂キャンセルを防ぐ方法として、うつ状態に入らない元気なうちに有効なのが、毎日バチバチにメイクをしてしまうことです。これはけっこううまくいきました。

 自分自身が愛せる状態だったら、自分自身を疎かにはできにくい。もっと簡単に自分の在り方を自分で決められれば、自分自身を愛せるひとが増えると思います。

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