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映画の常識を変えたスピルバーグの偉業

世界で最も有名な映画監督は誰か?

その問いにスピルバーグの名をあげたら、多少の異論はあるだろうが、正面切っての反論はないと思う。

映画監督スティーブン・スピルバーグ。70歳を超えながら現役バリバリ。今年『ウエスト・サイド・ストーリー』の公開も待たれる世界有数のヒットメーカーであり、希代のクリエイターである。

実際、スピルバーグは凄まじい。

1970年代に映画監督としてのキャリアをスタートさせ、その後、常に第一線で活躍しているというだけで凄い。さらに、これまで自身の監督作が、世界歴代興行収入1位を3度も記録している(1975年『ジョーズ』、1982年『E.T.』、1993年『ジュラシック・パーク』)。

また、スピルバーグは、それまでの常識を打ち破り、新たな常識を何度も作ってきた監督である。それら、映画の常識を変えてきたスピルバーグの偉業を書き留めておきたい。

宇宙人を変えた

『未知との遭遇』(1977年)と『E.T.』は、宇宙人の概念を変えた。

それまで宇宙人は未知の存在として、人類にとって敵、もしくは恐怖の対象として描かれてきた。

『エイリアン』(1979年)、『遊星からの物体X』(1982年)に描かれたのは、未知の生物=恐怖の対象だった。また、1950年代に多く作られたSF映画においても、『禁断の惑星』(1951年)、『宇宙戦争』(1953年)など、未知の生物との戦いが描かれている。

しかし、スピルバーグは『未知との遭遇』で宇宙人との友好的なファースト・コンタクトを描いた。そして、『E.T.』では、宇宙人との交流を描いた。

いずれの作品も大ヒットを記録し、それまでの宇宙人=恐怖の対象という常識を覆したのである。

その後、『コクーン』(1985年)、『アビス』(1988年)といった、未知の生物との友好的な出会いや交流を描いた作品が作られていく。

ノンストップを作った

インディ・ジョーンズシリーズの最初作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)について、スピルバーグは当時「ディズニーランドを一周するより面白い映画」と語っており、実際、その通りである。

最初から最後まで危機の連続、間一髪で危機を逃れたと思えばまた危機が降りかかる。そして、アクションシーンが連続する。それまでの映画とはスピード感がまるで違う。観客が映画で感じる体感速度を何段も上げる「ノンストップ・アクション」というジャンルを作り出した。

その後、80年代において、「ノンストップ・アクション」はひとつのキーワードとなり、後に『ダイ・ハード』(1988年)や『スピード』(1994年)といった傑作が生み出されていく。

CGを主役にした

『ジュラシック・パーク』の主役は恐竜だった。

1991年に公開された『ターミネーター2』で、CGによって描かれた液体金属アンドロイドは、実に滑らかな動きで衝撃だった。しかし、CGを使った描写は、液体金属のような無機質な物体であり、脇役や小道具に限定されていた。

『ジュラシック・パーク』は、動く生物、恐竜という有機物をCGで描き、それを主役的な位置づけにした。その点が画期的だった。

CGによる恐竜のリアルさに加え、『激突!』『ジョーズ』から続くスピルバーグの恐怖を煽る演出も冴えわたり、『ジュラシック・パーク』は大ヒット。自身の『E.T.』が持つ世界歴代興行収入を自身で塗り替えるという離れ業をやってのけたのである。

CGは、映画表現の可能性を広げ、その後、技術進化とともに、あらゆる映画でCGが用いられていくようになる。

人の死に方を変えた

『シンドラーのリスト』(1993年)は、ナチスによるホロコーストから、多くのユダヤ人を救ったシンドラーを描き、大きな感動を受ける作品だ。

しかし、その感動以上に衝撃だったのは、この作品で描かれた「人の死に方」だった。

それまで映画において、銃を撃たれた人間は、銃弾の方向に吹き飛んだり、叫び声を上げたり、わかりやすく、そして、わざとらしく描かれていた。

しかし、『シンドラーのリスト』は違った。銃で撃たれるユダヤ人たちは、銃弾を受けると、銃弾の方向とは関係なくバサッと崩れ落ちる。銃弾を受けたことを機に、それまで生きていた人間が、意思を失ったただの個体へと変化した様が見せつけられるのである。

人の死を生々しく描いたそれらシーンは、極めて衝撃的だった。

これ以降、映画において人の死はリアルに描かれていくようになっていく。近頃の映画では、リアルでグロテスクなアクション・シーンが多数見受けられる。それらは、1980年代に流行したスプラッター・ムービーよりもはるかにリアルでグロかったりする。

このような「リアルな死に方」の最初の作品、それは、スピルバーグの『シンドラーのリスト』である。

ストーリーの構成を変えた

『プライベート・ライアン』(1998年)は、『シンドラーのリスト』で見せたリアルな死に方を、戦闘シーンでも用いて、非常に迫力のある映像を見せてくれる。

冒頭、ノルマンディー上陸作戦でのこのリアルな戦闘シーンは、以後の戦争映画、また、アクション映画等に多大な影響を与えている。

また、『プライベート・ライアン』ではもう一つ、画期的だった点がある。

『プライベート・ライアン』は、冒頭、ノルマンディー上陸作戦の戦闘シーンが描かれる。普通だったら、クライマックスに持ってくるような激しい戦闘シーンである。つまり、最大の見せ場だ。その最大の見せ場を、映画冒頭にもってきたという点が、画期的だった。

それまでの映画では、前半は助走であり、段々と盛り上がっていき、クライマックスで最大の見せ場が登場する。

しかし、冒頭で見せ場を設けることで、観客の心は作品世界へと鷲掴みにされる。冒頭でこれだけ凄いシーンを見せられたら、これからどんな展開になるのだろう。さらに、クライマックスではもっと凄いシーンが見られるのではないか。そんな期待が膨らむのである。

『プライベート・ライアン』以降、冒頭に派手なシーンを持ってくる作品が増えた。スピルバーグの『宇宙戦争』(2005年)では、開始間もなく、宇宙人に襲撃される派手なアクションシーンがあるし、『レディ・プレイヤー1』(2018年)でも、最初、迫力あるカーレースシーンが登場する。

また、マーベル作品では、決まって冒頭に派手なアクションシーンが登場する。

偉大すぎるスピルバーグ

このように、スピルバーグは映画界に圧倒的な影響を与えてきた。

それまでの常識を覆す驚きを生み出し、そしてその驚きは、新たな映画界の常識となっていく。この40年、映画界はほぼその繰り返しだったと言っても過言ではない。あえて極端に言ってしまえば、現在、普通となっている表現方法やストーリー構成を用いた映画の多くが、スピルバーグの亜流である。

現在スピルバーグは75歳。しかし、彼の撮影スタイルとして有名な早撮りで、まだまだ作品を作り続けてくれることと思う。

今年公開される『ウエスト・サイド・ストーリー』、また、その後作っていく作品で、どんな驚きを与えてくれるか、楽しみで仕方ない。

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