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#608 「渋谷労基署長事件」東京地裁

2024年3月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第608号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【渋谷労基署長(以下、S労基署長)事件・東京地裁判決】(2023年3月15日)

▽ <主な争点>
医療サービスを利用せず休養した期間に係る休業補償給付を認めなかった決定など

1.事件の概要は?

Xは甲社の型枠解体工として、マンションの新築工事に従事していたところ、元請会社の現場所長から人格を否定する嫌がらせやいじめを受け、法令により義務づけられている酸素濃度測定が行われないまま地下ピット内作業への従事を強要させられたこと等により、適応障害を発症し、休業を余儀なくされたとして、S労基署長(処分行政庁)に対して労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく休業補償給付を請求した。

同労基署長は上記請求につき、2020年3月25日付で全部の不支給処分をしたが、その後、同処分を取り消した上、請求期間のうち2018年11月30日から2019年1月21日までの53日間(本件期間)および待機期間を除いた期間について休業補償給付を支給する旨の変更決定(本件処分)をした。

本件は、Xが国を相手に本件処分のうち休業補償給付が不支給とされた本件期間に係る部分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

【X、甲社および本件工事等について】

★ Xは、2011年5月に甲社に入社し、型枠解体工として勤務していた者である。

★ 甲社はマンションの新築工事(以下「本件工事」という)の三次下請会社として、型枠解体作業を担当していたところ、Xは型枠解体工事に従事したほか、現場の職長を務めていた。なお、本件工事の工期は2018年6月から2019年3月までの10ヵ月間であった。


【Xの就労状況、本件疾病、本件訴えに至った経緯等について】

[Xの就労状況等]
▼ Xは2018年11月、本件工事の元請会社の現場所長から法令により義務づけられている酸素濃度測定が行われないまま地下ピット内作業への従事を強要された。

▼ Xは同月26日、本件工事とは別の現場に出勤しようとしたが、パニック発作を起こして欠勤した。その後、Xは同月30日から休業し、2019年10月に甲社を退職した。なお、Xに対して、2018年11月30日以降の賃金は支払われていない。

[Xの精神障害の診断]
▼ Xは2019年1月22日、メンタルクリニックを受診したところ、医師は「発症日を2018年11月26日、傷病名を適応障害(以下「本件疾病」という)による抑うつ不安状態」と診断した。

[本件訴えに至る経緯等]
▼ Xは本件工事の現場所長から人格を否定する嫌がらせやいじめを受け、法令により義務づけられている酸素濃度測定が行われないまま地下ピット内作業への従事を強要させられたこと等により、休業を余儀なくされたとして、2019年8月、S労基署長(処分行政庁)に対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)に基づく休業補償給付の請求をしたところ、同労基署長は2020年3月25日付で全部の不支給処分をした。

▼ Xは上記処分を不服として、2020年6月、東京労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という)に対し、労災保険法に基づく審査請求をしたところ、審査官は2021年3月24日付で同審査請求を棄却する旨の決定をした。

▼ Xは2021年9月、本件訴えを提起した。

▼ S労基署長は再審査の結果、労働基準法施行規則別表1の2第9号に定める「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当するため、本件疾病につき業務起因性が認められるが、Xの初診日が2019年1月22日であることから、請求期間のうち疾病の発症日直後の2018年11月30日から初診日の2019年1月21日までの53日間(なお、この期間においてXは医療サービスを利用せずに自宅等で休業していた。以下「本件期間」という)については、療養のため労働することができなかった期間とは認められないとして、2022年1月13日付で上記の処分を取り消すとともに、本件期間については不支給とし、その余の請求期間のうち待機期間を除いた期間については休業補償給付を支給する旨の変更決定(以下「本件処分」という)をした。

▼ Xは本件処分のうち休業補償給付が不支給とされた本件期間に係る部分(不支給部分)を不服として、2022年2月24日付で審査官に対し、労災保険法に基づく審査請求をするとともに、同月28日、本件訴えにつき、不支給処分の取消しを求める旨の訴えに変更した。

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