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エッセイ『父の初めての趣味』

数年前に定年を迎えた父。

仕事一徹だった父。
長い間、仕事一筋だった父に定年が訪れた。
家族は心配していた。趣味という趣味がない父が定年を迎えてしまったら・・・何もすることの無い日々が続いてゆくことになるのではないか、と。
老いが加速するのではないか、と。

「何か趣味を見つけたらどう?」
「これはどう?」「あれは?」と、皆が色々勧めたけれど何一つ心に響くものはないまま定年の日はきてしまった。
そして、予想した通り何もしない毎日が来てしまった。

これではダメだ!と、今は有難い事に別の仕事に励んでいるけれど。
やっぱり趣味があった方がいいんだろうなぁ・・・と気がかりだった。

そんな時、「料理」がハマるんじゃないだろうかとふと思った。
父に、料理を始めたらどう?と勧めてみたものの断られた。
日を空けて勧めてみたものの断られた。

今でこそ男性が料理をするなんて驚くような事ではないと思うのですが、私の父が料理をするという事は驚く事!なのです。
なにせ60年以上、包丁を握ったことは数えるほど。(果物の皮をむくとき以外は)

だけど、料理だけはハマる気がした。
料理を始めてみたらどう?と勧めてから、数年断られ続けたけれどそう確信があった。
だから思い切って「プレゼント」として調理グッズと父が好みそうなメニューが載っている料理本を渡すことにしたのです。

「要らない」と言われ、ムダになる事を覚悟で💦

そしたらなんと父の料理が始まった!!

初めて食べた父の料理の味は、とても温かく感激だった。
「玉ねぎと鶏肉の煮物」一品だけだったけれど、作ってくれた嬉しさで美味しさひとしおだった。

メニューは何でもいいのだ。
内容は何だって良いのだ。
作ろうとしてくれた事が嬉しかった。
今では趣味となったが、「趣味」が見つかったことが嬉しかったのだ。
趣味は料理でなくても良いのだ。
何か「楽しい」と思える事が見つけられた事が嬉しかったのだ。

「将来の夢」や「仕事」もそうだけれど、
見つけようとして見つかるものでは無いと思う。
探そうとして探しても、見つからない時は見つけられない。
無い時はない。
だからこそ、見つけた事は本当に喜ばしい事だと思う。

そして私にも。
「今日は何をつくるんだろう♪」と考えながら父が料理をする日が来るのを待つ楽しみが出来た。(月に数回気まぐれに訪れるお楽しみ)
有難い。
これからも父の趣味を見守りつつ応援したいものである☆彡

追伸
初めて料理をしようとした日。
料理本の一行目。
「玉ねぎを切る」を目にして、「玉ねぎの皮ってどうやって剥くの?」と訊ねた父。私の父のレベルはそれくらいの初心者だった。
お湯を入れるだけ、またはレンジでチンの工程しかしたことが無かった。
それが、玉ねぎと鶏肉の煮物が出来上がるのだから!スゴイ事!!


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