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【1年の総まとめ】 2020年、北アフリカのリビアで起きたこと


こんにちは🕊

2020年4月より、このnoteではLibya Updatesとして毎週金曜日、1週間のリビアに関する動きを整理する記事を出していました。

今回は2020年の総まとめとして、この1年間、同国をめぐりどのようなことが起きていたのかを改めて整理してみようと思います。

国内の動き新型コロナウイルスの影響国際社会の動き今後の展望の4つの視点から1年のできごとを振り返ります。
概ね時系列にまとめていますが、テーマに合わせて前後している部分もあります。

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1年を振り返ると
✓ 軍事侵攻は終了するも、市民の犠牲や生活への打撃が続く
✓ 新型コロナの感染拡大の一方、停戦合意が何度も破られる
✓ 国際社会は紛争の当事者への軍事支援の停止に合意も、トルコやロシア、UAEなどが武器輸出や傭兵の派遣を継続
✓ 和平交渉の動きもあるが、先行きは不透明


■背景はこちら


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リビアのこれまで
40年以上続いたカダフィによる独裁体制が2011年に崩壊。新たな政府樹立を巡り、衝突が続いてきた。
現在は首都トリポリを拠点とし、国連の仲介で2016年に樹立した国民合意政府 (GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府 (HoR) が分裂している構図だ。
HoRが支持するハフタル将軍率いる勢力が2019年4月、トリポリへの侵攻を開始した。GNA側の民兵組織らが応戦し、武力衝突に発展。GNAにはトルコ、ハフタル勢力にはUAEやロシアなどがつき軍事支援などを行ってきた。
6月はじめにGNA勢力がトリポリを奪還し、ハフタル勢力は同地域より撤退。停戦へ向けた協議が進む一方、現地での戦闘を繰り返してきた。


国内の動き: 続く戦闘と市民の不満の高まり

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昨年4月に始まったハフタル勢力による軍事侵攻は今年の序盤まで続いた。
同勢力は支配地域を拡大し、5月頃まで首都でGNAの拠点であるトリポリ近郊での攻防を続けていた。

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そうしたなか6月、GNA政府がトリポリ全体の支配を回復したことを発表。
ハフタル勢力は同都市から撤退し、両者は国連の仲介のもと、停戦に向けた交渉を再開することに合意した。

だがその後、首都トリポリから約400km離れたシルトが主戦場となり、戦闘は再開。複数回に渡り停戦に向けた動きもあったが、前線では断続的に衝突が続いてきた。


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この間、多くの市民の犠牲が生まれている。
GNAは7月以降、首都から東南に65キロほどのところにあるタルフーナで少なくとも8か所に集団墓地があることを突き止めており、これまでに女性や子どもを含む200名以上の遺体を発見している。

同地区は一時期、GNA勢力との前線となっていた。この時、ハフタル勢力を支持する現地の民兵組織「カニヤート」が多くの市民を連れ去ったと見られている。
集団墓地の捜査活動は現在も続いている。


権利のために声を上げる人も攻撃の対象となってきた。
第2の都市ベンガジでは11月、女性法律家で活動家のハナン・アルバラッシ氏が武装勢力に銃撃され、死亡した。犯人は分かっていない。

アルバラッシ氏は人権問題や政治の腐敗について訴えてきた人物で、ハフタル勢力に批判的な姿勢を示してきた。メディアやSNSを通した積極的な発言も行っていたという。


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さらに市民を苦しめてきたのが、石油の封鎖だ。
ハフタル勢力が今年1月から8ヶ月間、国内の油田につながる港を封鎖しており、以前は日量120万バレルだった生産量が10万バレルにまで落ち込んでいた。石油・天然ガスの輸出国であったリビアではディーゼル燃料などを輸入する状態が続いていた。

9月に封鎖は解かれたものの、損失は大きい。
リビア国営石油会社 (NOC)は 8月、2020年の石油産業の損失が79億米ドルに上ることを発表している。

封鎖されていた間に使われなかった施設の修復も今後の課題となっている。


この結果、夏頃をピークに全土では停電が多発。
これも一つの要因となり、GNAの拠点のトリポリでは8月、数百名の市民が抗議運動を起こし、政府の腐敗のほか、生活水準の悪化を訴えた。


HoRの拠点であるベンガジをはじめとした東部の複数の都市でも9月、生活状況の悪化や政治の腐敗を訴える市民の抗議運動が拡大した。


世界銀行によると、2019年のリビアの世界の若者の失業率は50%で、北アフリカ地域最悪。こうした状況も抗議運動を引き起こすことにつながった。


新型コロナウイルスの影響: 感染拡大と市民の犠牲

新型コロナの感染拡大状況

リビアでは新型コロナウイルスの猛威も続いている。
12月29日 (現地時間) 時点で、同国では累計98,913人の感染者が確認されいている。累計死者数は1,440人


最初の新型コロナウイルスの感染者がリビアで確認されたのは3月24日。5月頃までは、感染者数は数十人規模で推移してきた。
爆発的な感染拡大が始まったのは6月で、新規感染者数は高止まりの状態が続いている。

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同国の人口は約689万人。

情勢不安の続いてきたリビアでは、パンデミック以前より医療保険制度がきちんと整備されていない状態が続いていた。感染者に対応するための病床や医療器具なども不十分だ。

医療の現場は混乱の1年であったという。
トリポリの病院で働くモハメド医師は4月のミドル・イースト・アイの取材で、新型コロナ感染者の対応を振り返り「ほとんどの医療関係者は感染症の対応について全く訓練を受けていないため、みんなパニック状態に陥っている」と話している。
「どうしたら良いか誰も分からないために、みんな勘を使い、自分たちが正しいと思うことをやるしかない」


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だが、パンデミックの中でも戦闘は続いた。

グレーレス国連事務総長は3月末、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全世界での停戦を呼びかけた。

その数日前、GNAとハフタル勢力は一度は停戦に合意。だが直後にハフタル勢力側の攻撃により破棄され、実現に至らなかった。

各国の停戦の状況をウォッチしてきたオスロ国際平和研究所もこうした事例は稀であると言及。「人道的な停戦の最悪と思われるシナリオを代表する」と述べている。


写真はリビアの様子を伝えてきたフォトジャーナリスト、アムル・サラフディエンさんが4月に投稿したもの。


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リビアの人びとを苦しめるのはそれだけではない。
国内では4月から5月を中心に医療施設などの攻撃への攻撃が多発したとともに、6月以降は地雷の爆発が相次いだ。
リビアでは長い間、新型コロナウイルスよりも紛争で命を落とす人の方が多い状態が続いていた

WHOは今年6月の時点で、同年に入ってから医療施設や医療従事者に対して21 件の攻撃が起きたことを確認している。

ほとんどがハフタル勢力によるものであると考えられている。


さらにトリポリ周辺では5月以降、少なくとも70人が地雷により命を落とし、125人が負傷している。この中には子どもも含まれるという。

ハフタル勢力が6月に撤退した際に設置していったと見られており、現在、GNA軍やトリポリの市民が協力して撤去にあたっている。

地雷とともに、小型の爆弾が思わぬ形で設置されていることも問題だ。
GNAが発見したり被害が報告されているものの中には、くまのぬいぐるみやたばこの箱に爆弾がつなげられ、手に取ると爆発するようになっているものがあったという。
家の植物や階段の手すりの周りにワイヤーが取り付けられ、引っかかると先についている手榴弾が爆発する装置も見つかっている。

2019年4月に始まった軍事侵攻により、今も15-20万人がトリポリから避難している。
だが、残された武器が人びとの帰還を阻んでいる状態だ。


国際社会の動き: 「あらゆる新兵器システムの実験場

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国際社会では1月、大きな動きがあった。
昨年4月から続いてきた軍事侵攻を止めるため、トルコやロシア、欧米諸国のほかエジプトなど12ヵ国の首脳らがドイツのベルリンに集結。武器禁輸の遵守のほか、紛争の当事者への軍事支援の停止を確認した。

だが実際にはこれらは守られることがなく、その後も各国による紛争への関与が続いた

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昨年末にリビアへの派兵を決定したトルコは、今年も一貫してGNA政府への軍事支援を続けてきた。
ハフタル勢力のトリポリ撤退には、同国が大きな役割を果たしたと考えられている。

同国がGNA側へシリア人兵士を送っており、その中に未成年が含まれていることをNGOなどが指摘している。


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対して、ハフタル勢力を支援するロシアは民間軍事会社(PMC)、ワグナー・グループを通して、800人から1,200人の傭兵をリビアへ派遣しているとされている。

傭兵の中にはシリア人も含まれ、事実上、シリア人同士がリビアで戦っている格好だ。

さらにGNAの内務大臣は4月、ワグナーグループがGNA勢力に対して化学兵器の一種である神経ガスを使用した疑いがあると非難した。
ハフタル勢力がトリポリに残した地雷からもGNAによると見られるものが見つかっている。

ロシア政府はリビアへの直接の関与を否定。ただ、ハフタル勢力を支援しているとの見方は専門家やメディアからも根強い。

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UAEもハフタル勢力への支援を続けている。
同国は44名が死亡した昨年7月の移民・難民の収容施設への空爆のほか、今年1月に軍士官学校の候補生26名が死亡した爆撃に関与したと見られている。

ハフタル勢力に対する武器の提供も判明している。
国連のレポートによると、今年1月から4月までに、同国から150機以上の飛行機がハフタル勢力の支配地域へ向かったという。他にも、ジェット燃料を船で輸出していることが分かっている。

さらに、UAEも外国人傭兵のリビアへの派遣を行っている。
国際NGO、ヒューマン・ライツ・ウォッチは11月、スーダン人男性少なくとも270人ほどがUAEの企業に「警備員」の名目で雇われ、リビアで戦闘に参加させられていることを明らかにした。


この他、エジプトなどもハフタル勢力を支持する姿勢を示してきた。
同国のほか、ロシアやトルコなどからは停戦を模索する動きも見られたものの、いずれも形にはならなかった。


諸外国がドローン武器や化学兵器、外国人傭兵をリビアへ投入していることを受け、ステファニー・ウィリアムズUNSMIL暫定特使は同国が「あらゆる新兵器システムの実験場」になっていると言及している。


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こうした動きを追及する動きもある。
EUはリビアに対する武器禁輸を徹底するため、4月に「イリニ作戦 (Operation Irini)」を開始。9月には北東部のデルナから150kmを通行していたUAEの商船を拿捕し、11月には同水域でトルコの商船に対する調査を行った。


さらに国連の人権委員会では6月、2016年以降の同国の人権などに関わる状況について調査するチームの派遣が決定した。
国連では2011年と2015年にも捜査が行われているが、いずれも1年程度で終了している。

だが10月、資金不足により捜査の開始を先送りすることを発表している。


その他にもICCは12月、市民への暴力を捜査するためのチームが3回の訪問を終了したことを発表。
同組織による声明によると、3回の訪問では主にトリポリ南部のタルフーナの集団墓地に関する調査を実施したという。


和平交渉と不確かな未来

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和平へ向けた希望もあるが、先行きは不透明だ。
UNSMILは10月末、GNAとハフタル勢力側が「永続的」な停戦合意に達したことを発表した。
合意では、3ヶ月以内に全ての軍勢力や外国の傭兵が撤退することを決定。その他、全土で封鎖されている道路の開通や空の移動も再開することなども定めた。

複数回の交渉を経て11月し、両者は来年12月24日に大統領と議会の選挙を行うことでも合意した。
一方、それ以外の点では大きな進展がなく、今後の見通しも立たない。


さらに国内では武力衝突も起きており、停戦は徹底されていない様子だ。

北西部では12月に学校の近くで襲撃事件が発生し、生徒らが3人が死傷する事件も起きるなど、市民は安全とは程遠い状態に置かれている。

2021年は紛争に関わる国内の勢力とともに、国際社会が停戦の実現へ向けどこまで具体的な行動を起こすことができるかにかかっている。


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Libya Updatesのシリーズは、リビアを巡る国内外の動きをなるべく正確に日本語でシェアするとともに、現地の人びとの置かれた状況、そうしたなかで立ち上がる人びとの姿をお伝えできればという思いで始めたものです。

日本ではどうしても報道される機会の少ない同国。
一から分かりやすく日本語で整理することは難しく、どれだけの人に伝わる文章で書くことができたか分かりません。
ですが今後もできる限り、続けていくことができればと思います。


このシリーズの写真を提供してくださったリビアの写真家、ヒバ・シャラビさんにもこの場を借りて、感謝をお伝えしたいと思います。


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