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『マネージャーの実像』と組織開発、13のジレンマを超えて

はやいもので本格的にマネジメントに従事しはじめて4年の月日が経つ。ぼくが最初にマネジメントを経験したのは27歳の頃だったが、部下は3名で小さな営業所の所長として仕事をしていた。今では、教育および人事評価サービスの責任者を務めつつ、コンサルタントの長としてマネジメントをおこなっており、責任領域は約10年前と比べて格段に大きくなった。

4年もの歳月が過ぎたということもあり、自身のマネジメントの点検、ふりかえりをしていたところ、ある書籍について思い出した。それはミンツバーグの『マネジメントの実像』である。

本書は著者が1973年に発表した「マネジャーの仕事(原題:The Nature of Managerial Work)」の36年ぶりの改訂版で、実際のマネジャーを観察し、マネジメントという営みを網羅的に分析している。

本書において著者はマネジメントの仕事の全体像を「情報の次元」「人間の次元」「行動の次元」という3つの次元にモデル化している。マネジメントとは、この3つの次元の役割をすべて果たすことであり、マネジャーはマネジメントにおいて、この3つのバランスを保つ必要があると指摘している。そしてこの3つのバランスを取り有効なマネジメントを進めるため方法論を示したうえで、その実践において13のジレンマを提示している。

この書籍を読んだのは、ぼくがまだ30歳もそこそこだったと思うが、今その主張がリアリティをもって理解できる。逆にいえば、読んだ当初はほとんど理解できていなかったということに気づいた。そして、これまでぼくが提供してきた組織開発というソリューションが、いかに粗削りで、マネージャーを困惑させるものだったか、反省を強いられている。どういうことだろうか。

ポイントはこの13のジレンマにある。例えば、「多忙をきわめる仕事の場でどうやって未来を見すえ、計画を立て、戦略を練り、ものを考えれば良いのか」というジレンマがある。「ビジョンや戦略はこうつくれ!」とアドバイスをすることはたやすい。そうではなくて、マネージャーは現在と将来に割くべき時間の配分に頭を悩ませている。「時間さえあればビジョンや戦略の検討だってしたいわ」というマネージャーの声が聞こえてきそうである。

組織開発を専門とするコンサル会社が提供するサービスの多くは研修であり、ワークショップである。最近、勢いをとりもどしつつサーベイなどもあるが、それは研修やワークショップの教材にしかすぎない。多くの場合、研修では理想としての情報が提供される。そして、提供される情報をどう現場に活かすかは受講者に委ねられる。受講者が悩む13のジレンマには触れさえもしない。

組織開発においては、マネージャーを変革のもっとも重要な推進者として位置づけている。それにも関わらず、ぼくたちはマネージャーを取り巻く13のジレンマに向き合ってこなかった。そのように組織開発はそのソリューションの責任から逃避してきた。ぼくは今、そんなことを考えている。

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