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雑感記録(154)

【新刊書店巡りをした話】


先日、部屋掃除をしている時に机の片隅からQUOカードおよそ10,000円分を発見した。実際QUOカードを貰ったのはいつだったか忘れてしまったが、せっかく手元にあるなら使おうと思った。しかし、QUOカードって使いどころが僕の中では今一分からない。例えば図書券であったり、そのお店のクーポン、例えばスタバカードなどのようなものであればどこで使用すればいいかがもはや明白なので使用場所に困ることは無い。

ところが、QUOカードはどこでも(という訳ではないが、ある程度は使用場所に自由がきく)使用できるのでその使用場所を考えなければならないという所が1つ手間ではある。QUOカードの裏面を見て、使用可能場所一覧を一応確認する。すると一部の書店で利用できるというではないか。大概、僕がお金を掛けるところと言ったら本ぐらいしかない。「よし、久々に新刊書店でも巡るか」と思い立った。そしてこれまたラッキーなことに誕生日プレゼントで貰った図書券10,000円分を大切にまだ使用していなかったので「ここだ!」ということでおよそ20,000円を元手に新刊書店巡りを敢行することにした。

そう言えば、新刊書店に行くのはいつぶりだろうか。いつも古本屋ばかり通っているから、僕は新刊書店に足を運ぶことは滅多にない。運ぶときは大体トイレを借りるということぐらいだ。トイレを借りるために僕はよく書泉グランデにはお世話になっている。しかし、中のコーナーなどには一切目を向けず古書店街に僕は消えていくのだ。

さて、実際に新刊書店を巡るとしてどこへ向かおうかとなる訳だが、昨日は山手線が一部運休のためアクセスのことを考慮して順序良く巡ろうと計画を立てる。しかし、僕は計画を立てるのは好きだが、計画通りに動くことはあまり好きではない。もう風任せで本屋を巡ることにした。


1.丸善 丸の内本店

まず近くから攻めていこうということで、東西線に乗り神楽坂から大手町まで向かう。神楽坂は人が少なく閑散としていたのに、大手町に着いた途端人がわんさか居る。それはそうか、東京駅に近いから人が多くて当然である。多くの人たちを掻き分け僕は丸善へと向かう。

丸善は大学生ぶりである。だからおよそ…5,6年ぶりだろうか。どんな感じだったかなと思いつつ中に入る。これはどこの本屋でもそうだが、入れば1番最初に僕等をお出迎えしてくれるのは最新刊コーナーである。ここで僕は最近の傾向というか、何が読まれているのかを確認する。なるほど、小説もあったりする訳だが、やはりビジネス書の比重が大きい。小説2:ビジネス書8ぐらいな感じだ。

東京駅に近いということもあり、当然ちゃ当然なのかもしれないと思ってみたりもする。現に休日というのにスーツを着た人たちが多く書店には居た。内心で「お仕事お疲れ様です」と唱えて立ち読みするサラリーマンの後ろを通り過ぎてゆく。それにしてもここの書店の顧客層というのか、非常に落ち着いているのが凄く印象的だった。

2,3階へと順にあがってゆく。書棚を歩きながら、ふとそのフロアの片隅にカフェやアンテナショップ的なお店が並ぶ。僕は何だか不思議な光景だなと思いながら歩く。そしてふと現実をそこで見たような気がした。なるほど、こういう大型書店でも他の業態を取り入れないとやって行けないんだなと感じた。カフェを利用しているのはその殆どがサラリーマン。忙しいサラリーマンの味方なんだここはと感心する。

僕は大概、最初に単行本を見てから文庫本を見に行く人間である。単行本の方が重いし持ち運びには不便だけれども、単行本でしか販売されていない本も存在する。色々と見て回るのだが、さすが大きな書店だけある。大概のものは揃っているような印象だった。実際に回っていく中で「え、これも置いてあるの?」と驚く一面もあった。そういう発見もあるから新刊書店を巡るのは愉しい。

しばらく単行本のコーナーを眺めながら最近の本の傾向だったりを確認しつつプラプラしていた。ふと、大江健三郎の特集コーナーを発見した。何だかこういうのを見つけると嬉しくなってしまう。コーナー自体にはやはり新刊書点なので昔の本を扱っている訳ではないので、一面に『大江健三郎全集』が並べられ、あとは岩波新書から出ている『親密な手紙』、新潮文庫など新刊で集められる大江健三郎の本で溢れていた。

こういうある種のビジネス街でも小さく、こういう場所が設けられているということはそれなりに関心がある人が少なくともいるということである。それにNHKのEテレで大江健三郎の特集を最近放映したということの影響も大きいだろうが、でも文学が好きな僕からすると何だかまだこう言うところで見捨てられていないんだと思うと少し感慨深くなってしまった。

その後、僕は文庫・新書コーナーと人文コーナーをぐるぐる回り丸善を後にする。

〈総評〉
人が多く集まる東京駅すぐそばにもあるに関わらず、人がそこまで多くなくゆったりと本を見て回れて良かった。ビジネス書が多く並べられており、その地域に合わせた本の陳列方法に関心。そう言えど、文学作品も数多くの品揃えがあり満足。個人的に意外だったのは漫画やコミックスのコーナーがあまり幅を取っていない事である。意外と需要があると思っていたが、そこまで広げていない点が好感を持てる。顧客も年齢層がわりかし高く、書店内の雰囲気全体が落ち着いていたような印象。これまた個人的に感動したのは哲学系の本の所で、他の書店ではお目に掛かれない貴重なものを発見出来たところは最高だった。しかし僕は買っていない。値段的に。リピートしたいかと言われると前のめりで「もう1度行きたい!」とはならないが、誰かと連れ合いで「ここ行ってみる?」という感じであれば行くような感じだ。総合的に非常に満足できる書店。


2.紀伊国屋書店 新宿本店

丸善を後にし、次は何処へ行こうかと考えあぐねていた。東京駅からなるべく電車1本で行ける場所が良いなと思った訳だ。それでパッと頭に浮かんだのが新宿の紀伊国屋書店であった。東京駅から丸の内線で1本で行けるのだ。早速僕は新宿の紀伊国屋書店へ向かう。

新宿に着くと先程東京駅とは大分異なる雰囲気である。東京駅よりも人は多い印象だがサラリーマンに加え若者や中年層といった人たちが街を闊歩している。冷静に考えて新宿は何処へ向かうにも中継地点になりやすいし、何より新宿あたりでも色々と散策できる場所は多いのだから当たり前かと思う。先程の東京駅と比較するとやはり若者が多い印象だ。

いざ、紀伊国屋の中へ入る。エスカレーターを上がってお出迎えするのはやはり新刊コーナーたち。しかし、先の丸善とは異なりそんなに大々的にやっているという様子はない。ちょこんと控えめにやっているという印象である。その新刊コーナーをすり抜け、文庫・単行本コーナーへ向かう。

相変わらず岩波文庫の品揃えが神がかっている。そう、紀伊国屋書店の良いところを挙げるとすれば、他の書店と比較し岩波文庫に層が厚いことにある。他の書店で探し無かった作品がここに来ると大概揃っている。大学時代にかなり重宝した新刊書店である。岩波文庫を別に購入する訳でもなく、あのシンプルな背表紙を眺めることに僕は終始した。装丁はそこまで凝っていないのに何故か惹きつけられるものが岩波文庫にはある。不思議だ。

しかし、歩いていると人にぶつかる率が高い。売り場面積が単純に狭いこともあるのだろうが、それにしても人が多い。サラリーマンが多い丸善とは打って変わって、休日の中年層が非常に多い印象だった。若者は外にわんさか居るが、書店には一切いない。何だかこれまた不思議な感覚であった。まあ、今どきの若い子(僕もまだ若い子ではありたいのだけれども…)は本なんか読まなくてもSNSなどで情報収集出来てしまうから、そもそも本なんて必要とされてないんだよな…と思ってみたりする。

紀伊国屋の1番良かったところは、コーナーごとがそれぞれで独立して充実しているということにあった。僕は詩のコーナーを見ていたのだけれども、そこが結構品揃えが良くて感動していた。従前から気になっていた田村隆一の詩集もそこで発見した。即購入!しかも!なんと!『中野重治詩集』も置いてあるではないか!中野重治フリークとしては持っておきたいところである。

その後、僕はマナーの悪い中年層の間をすり抜けレジに本を持ち、およそ20分程待たされ購入した。

〈総評〉
とにかく人が多い。販売面積が狭いにも関わらずあれだけの本を詰め込んでいことに単純に凄さを覚えた。品揃えは正直そこまでいいとは言えないが、最低限の品揃え+αというところでは良いのかなという印象。特に哲学コーナーは品揃えがあまりにも手薄すぎると感じると同時に現実を見せつけられている気がして少々辛かった。顧客層も外を歩く若者たちは目もくれずといった感じで、中年層が多めだ。だからタチが悪い(つまりは無礼千万な客が多いということだ)。作品充実度で言えばまあまあだが、顧客層という観点から言えば何だか残念なような気がしてならなかった。


3.ジュンク堂 池袋本店

紀伊国屋書店を後にし、次はジュンク堂書店に行こうと実は決めていた。とりあえず新宿三丁目駅まで向かい、副都心線で池袋に向かうことにした。しかし、これが地獄の始まりだった。

副都心線で池袋駅で下車し、地上のJR線の東口へ向かおうとすると何だか怪しい人…というか僕が苦手な所謂ウェイ系みたいな人たちばかりが生息。皆が皆お構いなしに自由みたいな感じがした。1番哀しいなと思ったのは目が見えない人が杖で足元の点字ブロックをコツコツしながら歩いていて、僕はぶつからないように歩いていたのだけれども、横からズカズカと歩いてきたギャルがその目の見えない人にぶつかって倒れそうになったのだ。危ないと僕は思ったのでぶつけられた方を支えた。「大丈夫ですか、出口まで行けますか?」と聞いたが、その方は「大丈夫です」と一言だけ言って杖をコツコツしながら先へと進んで行く。

そりゃそうだ、目が見えないんだからいきなり声を掛けられたら恐怖でしかない。それにこんなに人が沢山居ては何をされるかたまったものではない。物騒な世の中なのだから、そそくさと立ち去ることの方が正解なのである。それにしても冷たい世の中だなと池袋駅を歩きながら思う。1人でこの冷たい世界を生きていくのは大変だと痛感する。それにしてもあのギャル「すみません」の一言もなかったよな…。

池袋東口までの道のりは長い。気分悪いことがあってサッサと駅から抜け出したいのに出られない。それは場所が分からないとかではなく、単純に物理的な問題、つまり人がゴミゴミしている。本当にゴミ溜めみたいな場所だなと思う。もしかしたら、いや、もしかしなくても、僕は池袋が嫌いだ。

そんなこんなで何とか池袋東口へ到達し、小走りでジュンク堂へ向かう。さっさとこんな場所から離れようと思って気が焦っていたのか、はたまた早く本が見たかったからなのか。いや、その両方だろう。それでジュンク堂へ着き本を眺めることにした。

ジュンク堂に行くと、今度は先程の書店とはかなりガラリと印象が変わる。中年層よりも若年層の方が多い。しかも、いかにも本が好きですみたいな感じの若者が多い印象を受けた。何だか僕は居心地の良さを感じる。それは先程の喧騒後のこれだったからというのもあるだろうが、本が将来性を持っていると実感できたのはここが初だ。

品揃えに関してはもはや言うことなし。かゆい所にも手が届くとは正しくこういうことを言うのであると感心する。ジュンク堂書店の池袋本店は大学時代からよく利用していたので言うことは正直ほぼないのだが、それにしてもやはり最高の書店であるということは事実である。ただ1つ欲を言わせてもらうのであれば、上の本取りやすいようにしてくんねえかな…。それだけである。

そうしてジュンク堂で本を数冊見繕い、スムーズにレジに向かいジュンク堂を後にする。

〈総評〉
これは一言で。
書店自体は何も言うことない程最高すぎるが、立地が最悪すぎる。以上。


4.三省堂 神保町店

ジュンク堂書店を後にした後、さすがに疲労感が半端では無かったので都電に乗り早稲田大学へと向かう。とりあえずタバコ休憩がしたかった。都会では喫煙所というと落ち着いて1本も吸えたものではないので広く殆ど人が居ない所へ避難したかった。それで早稲田大学の図書館外にある喫煙所で一服し、最後に神保町へ向かった。

しかし、僕の記録を読んで頂いている稀有な方はお気づきかもしれないが僕は毎日神保町に居る訳だ。休日も神保町に行くのか?と思われても仕方がないが、好きなのだから仕方がない。自分の好きには従順でいたい。再び東西線で九段下まで向かう。毎日見慣れた光景だ。

三省堂書店は現在工事中で仮店舗でやっている。前までは古本を一周して最後のゴールが三省堂書店という回り方が出来るのだけれども、今ではそれも困難である。だからこういう日じゃないとむしろ三省堂書店まで行かない。ただ、これだけは言わせて欲しい。三省堂書店に辿り着くまでの誘惑が尋常じゃない!

三省堂書店まで歩いて向かう道中、気が付けば古書店に入っていて数冊買っている。これはQUOカードや図書券が使えないので自身の出費である。自分自身でも「おいおい、何してるんだよ…」と思いつつもその状況を愉しんでいるのだから厄介だ。今更辞めようなんて気も全く、微塵も1ミリも思わないのだけれども…。

古書店との誘惑に敗北しながらなんとかして三省堂書店に辿り着く。その時には既に自身の背負っているリュックにはパンパンの本が詰まっている。正直かなりヘトヘトである。ここから本をしっかり見て回れるか心配だったが、案の定しっかり見て回れなかった。何が置いてあるのかなぐらいしかもう見る余裕はなかった。

店内に入ると人はそんなに多くなかった。以前は、古書店帰りに寄っていく人たちが多い印象だった。皆片手に古書店で購入した本を袋に入れてぶら下げながら本を見ている光景があったが、今ではそれは皆無である。まあ仕方がないよなと思いつつ店内を散策する。しかし、先程の3店舗と比較すると圧倒的本の少なさ!これにはさすがに参った。

しかし、よくよく考えて見ると別にそんなに置いてなくてもいいような気さえしてくる。ここに来るまでの間に古書店がわんさかあり、そこで探せば事足りてしまうからだ。そこで買えなかった本を補うような形であればいいのだから本はそこまで多くなくていい。「三省堂書店、やり方がうまいな~」と1人勝手に感心してしまった。

店内はかなり狭いが、それでも本が見にくいとかそういった印象は決してなかった。人もそれなりに居るが落ち着いている。ただ1つ、まあこれは贅沢なことかもしれないが、古書コーナーを設けて欲しいなと思ってしまった。以前の三省堂書店は4階のフロアに古書コーナーがあって、そこも結構面白い本ばかりが並んでいたので愉しみの1つだったのだが…。まああと3年後だから!それまで我慢しよう!

ここでは本は購入せず、ヘトヘトになった身体にむち打ち帰路へとつく。

〈総評〉
神保町の新刊書店と言えば!みたいなところがある書店なので期待して行ったのだがちょっぴり残念かな。でも仕方がないよね、仮店舗だから置ける本には限りがあるし、書店員さんも厳選して置かなければならない。お店の雰囲気は依然と比べてやはりどこかこじんまりとしてしまった感じだ。だけれども何故か落ち着く。顧客層も多分だけれども仮店舗になってから随分と減ったんじゃないのかな…と分かるぐらいには盛況していない感じだった。現状では最低限の新刊が欲しいということであればここで十分だが、古書店を巡った後でここに来ると物足りなさを感じてしまうだろう。しかし、あと3年だ。3年我慢すればまた前のような、あるいはそれよりもグレードアップした三省堂書店が出来るだろう。それに期待しようではないか。



11/18戦利品

これが昨日の戦利品たちである。これらについてはまた読み次第、何か書ければいいなと思っている。それにしても吉増剛造の『怪物君』という詩集を探しても中々見つからなかったのだが、さすがジュンク堂書店。素晴らしい。

田村隆一の『腐敗性物質』も読んでみて結構個人的には好みの部類の詩集だった。ただ戦後感が凄く強いなという印象も受けた。それが良さなのかもしれないが、僕はどうも吉岡実と比べがちだが、あの人も一応は戦後詩人な訳でしょう。うーん…まあ、いいや。

ベケットの『ワット』は大学時代に「異化作用」を勉強した時だっけかな?その時に読んだ記憶があって、読みたいと思っていたので買えてラッキー。併せてロブ =グリエの『弑逆者』を買えたのは激アツ!確か初期作品だったような気がするので、それを読める機会があるのは非常に有難いことこのうえない。

まあ、一応こんな感じです。全く参考にはならないかもしれないが、書店選びの一助となれば。

よしなに。

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