ショートショート 君は今

一点の曇りしかない空を見つめ、
失踪した君のことを考えていた僕は、
一面に広がるコスモス畑へと視線を移した。

君は今、何をしているだろうか。
お煙草中かな。
上品な君は、
「お煙草してきていいですか?」
ってよく言うほどの
ヘビースモーカーだもんね。
そう考えると今君は、
お煙草中じゃないかな。
僕はそう予想しておく。
どうか至福の時を過ごしていてほしい。

なんて思ったところで僕は、
「死」
について考える。
実は先日、
僕の敬愛する人がお亡くなりになった。
その一報を受けた時、
僕は一瞬だけ、
「ざまぁみろ!」
なんて思った訳だけど、
それは本当に一瞬だけだ。

そのあとすぐに、
「そんな……嘘だ……」
と膝から崩れ落ちた。
そこからはもう、涙涙の涙涙でしかない。
涙を一日中流したよ。
あまりにもそれは悲しすぎた。
もう本当に辛い。
今でもまだその現実を受け止めきれていない。

とは言え僕は、
現実に忠実でありたいと思っている。
だから敬愛する人の死は、
夢でも嘘でもあってほしくない。
今僕は、そんな風に思っている。
現実には無抵抗だ。
抵抗する気力もない。

まぁしかし、
本当に、
「死」
ってなんだろう?
いずれ僕にも訪れる現実なのは間違いないけど、受け入れ難い現実だ。
とても恐ろしいよ。
死にたくない。

でも、
その時が来たら何の抵抗もせず死んでいこう。
僕はどうしたって現実に忠実なんだ。
現実を困らせたくはない。
その時が来たら、
サヨナラだ。

で、結局、
「死」
ってなんだろう?
今のところの僕じゃ全く分からないな。
公園で遊んでいる子供達に聞いてみようかな?
ハッピーオーラ全開で子供達に、
「死」
とは何か聞いてみようかな?
意外と良い答えが聞けるかも知れない。
ただ、不審がられるリスクがある。
そこら辺は気をつけないといけない。

って、そう言えばだから、
失踪した友人は元気にしているだろうか?
幸せそうにお煙草を吸っていることだろうと予想はしたけど、やっぱり心配だ。
大体なんで失踪なんかしたんだ?
もう失踪してから三年は経つぞ。
まさか死んだりしてないだろうな。
死んでないなら親御さんの為にも安否だけは知らせてあげてほしい。
親御さんは物凄く心配している。

この前も親御さん二人は、街頭で君の顔写真を配りながら情報を求めていたよ。
明るく元気に街頭募金している人達の手前で、同じく君のお父さんが明るく元気に君の情報を求めていたよ。
お母さんの方は、白くてもふもふした小型の犬を抱えながら君の情報を求めていたよ。
親御さんは、ずーっと心配している。
あれはあまりにも不憫だ。

生きているのなら
その知らせを届けてあげてほしい。
出来れば白くてもふもふした猫を抱えながら、
「僕は元気です」
って動画でメッセージを送ってあげてほしい。
親御さんを安心させてやれ。

って、この思いは君に届くかな?
まぁ、届かないよな。
本当どこ行ったんだ?

君が失踪してからと言うもの、
僕は度々、
君のお家を訪れさせてもらっているよ。
「帰って来ましたか?」
というような感じで度々
訪問させてもらっているよ。
その度にケーキが出てくるから僕は嬉しい。

ただ、フルーツケーキが出てきた時は少し不機嫌な態度を取ってしまった。
あれは反省している。
申し訳ない。
でもまぁ、そういう態度を示せるくらいには君の親御さんとの仲を縮めている。

実はもう数え切れないほど、
君のお家に泊まってたりするんだよね。
勿論、泊まる時は君の部屋さ。
中々、寝心地が良いよ。

泊まるってことは君のお家でお食事をするってことだから、君のお母さんが作ってくれるお料理で好きなお料理も出てきた。
それは何かって言うと、シチューだよ。
あれはお店の味だね。
本当に美味しいよ。

ちなみに君のお父さんとは最近よく釣りに行かせてもらっている。
僕はセンスがあるらしい。
まぁ確かに魚の声が聞こえるし、
センスがあるんだと思う。

しかしなんだかこう思うと、
君のお家の息子になったみたいだ。
まぁ、このまま君が帰って来ないなら
君に遠慮せず、
そのように振る舞わさせてもらおうかな。
じゃあ君のお家にはあとで行くとして、
とりあえず公園で遊んでいる子供達に
ハッピーオーラ全開で、
「死」
とは何か聞いて来よう。


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