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【書評】 彼女は今もここに生きている。 打ちのめされるようなすごい本-米原万里


最近、偏っていた自分の読書を何とか修正しようと、読書指南本を読み漁っている。そうして面白そうな本を発掘しては、すぐに購入して未読本置き場へと積んでいくのだ。お分かりの通り、この方法ではまだ本来の問題解決に至っていない。しかし、これらの書評本から一際光を放つ本を見つけたのでここで紹介したい。それは米原万里氏の「打ちのめされるようなすごい本」である。

この本を書いた米原氏は、幼少時にプラハのソビエト学校で学んだ経歴を持ち、帰国後主にロシア語通訳として活躍した才女である。彼女はエッセイスト、作家としても高い評価を得ており、私が初めて彼女の作品を読んだのは3年前のことだった。当時その本は衝撃的な読書体験をもたらしたこともあり、そんな彼女の本だと聞いてますます期待は高まっていた。結果的にこの本はそれをやすやすと上回り、結果的に私に7冊もの書籍を買わせることになった恐ろしい本である。

この本の何がよかったかを述べると、それは圧倒的な質かつ量、量、量である。

紹介された本はおよそ360冊。本の最後に書名索引があって便利なのだが、その分量は何と7ページ弱に及ぶ。そしてその内容も驚くことなかれ、非常に多岐にわたるのだ。ロシア語通訳と言う彼女の職業柄、ロシア文化や言語、さらに政治、マスメディアに関する書籍がずらりと並ぶ。また二つの文化を渡り歩いたからであろうか、それぞれの教育を比較した言及や、愛を学ぶための教育媒体など、日本にいてはわからないような新しい知見が非常に多い。特に日本の初等教育への意見は極めて興味深いものだった。それらの真面目(?)な話題に加えて時折文学への鋭い書評がキラリと光るのもいい。そんな隅々まで楽しめて人を飽きさせない絶妙な本なのだ。

他人の頭の中を覗きたい。誰だって1度くらいはそう思ったことがあるだろう。そんな願いをこの本は叶えてくれる。さらにそれ以上の価値を私たちにもたらしてくれるのだ。本の中には時事的な話題も含まれているため、個人的にはもっと早くに出会いたかった。しかしそのタイミングはもちろん変える事ができないし、著者の米原氏も今はすでに故人である。

しかし悲しんではいられない。むしろ私たちは彼女に感謝し喜ばねばならないのだ。彼女という素晴らしい人間がこうして本を残してくれたのだから。

数々の素晴らしい物語と、彼女の言葉がいまだ息づくこの本を。



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