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ゲーム依存について私が思うこと~学校での相談で、どういった支援ができるのか~

スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの立場で、「ゲーム依存」を改善していく上で、自分が提案したり、一緒に取り組めることを整理してみたいと思います。
 
参考文献としては
・『ゲーム依存からわが子を守る本』(監修)花田照久、八木眞佐彦 大和出版 2019年
『ゲーム障害について』(独)国立病院機構久里浜医療センター 依存症対策全国センター 樋口 進
などを踏まえております。

基本的には、上記の本や資料に書いていることがとても参考になると感じています。
踏まえてどんなプロセスで支援ができるといいか考えてみたいと思います。
 


踏まえたいプロセス


①    まずは、本人やご家族から今の状況に関して傾聴し、対話の場を作っていく。
②    ゲーム依存(インターネット依存)の状況をチェックリスト等でアセスメントする。
③    ゲーム依存が起こっている原因や背景、メリット・デメリットを一緒に考える。本人のストレス反応特性、成育歴、今抱えている強い持続的なストレスはないか、現在の健康状態、やっているゲームの特性など一緒に把握する。※できる限り本人も同席の元。
④    具体的な改善のためにどうすればいいか一緒に考え、実践して、振り返る。
 
というプロセスを、本人を中心に、ネットワークメンバー(ご家族や学校の先生等)などにもご参加頂き、定期的に話し合いの場を作りながら実施できるといいなと思います。
 
 

①傾聴と対話

まずは、しっかり傾聴と対話をしたいと思います。最初は保護者の方から話を聴くのが多いのですが、できればご本人にも対話の場に参加して頂き、本人の気持ちを尊重しながら話し合いの場を作っていけるといいなと思います。また、話し合いの場は、関係するご家族や必要に応じて担任の先生などにもご参加頂けるようにしたいと思っています。
本人のゲームに対する思いを聴いたり、家族の心配な気持ちを話したり、ゲームをすることのメリット、デメリットなどもそれぞれの視点から安心して語れたり、お互いに不安を感じずに安心して過ごすにはどうすればいいのか話し合いができるといいなと思います。

「未来語りのダイアローグ」「リフレクティング」「オープンダイアローグ」などの対話の枠組みも活用できればと思います。
 
 

②のゲーム依存(インターネット依存)のアセスメント


これに関しては、ピッツバーグ大学のキンバリー・ヤング博士が作成した2つのスクリーニングのチェック表があるとのことです。
1・Diagnostic Questionnaire (DQ)
https://www.ask.or.jp/article/353 NPO法人ASKのホームページ
 
2・IAT : Internet Addiction Test (インターネット依存度テスト)
https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/iat.html 久里浜医療センターのホームページ
 
DQの方が簡単にできるので、そちらをやって現状を把握できるといいなと思います。
 
実際にゲーム障害があるのかどうかに関しては、診断基準として、DSM-5の「インターネットゲーム障害」と ICD-11の「ゲーム障害」があり、この診断基準もインターネットで見ることができると思います。ただ、こちらの診断は医師が行うものなので、今回は脇に置いておきます。
 
 

③ゲーム依存が起こっている原因や背景を一緒に考える。

これに関しては、本人とネットワークメンバー(ご家族や学校の先生等)で一緒に対話的な枠組みの中で話し合えるといいなと思います。
 
学校や家庭での人間関係の強いストレスや、過去の強いストレス体験、持病や発達特性等によって感じやすいストレス、今の健康状態に関してなどを、本人やネットワークメンバーの立場から、それぞれの気持ちや視点が尊重される形で、共有してもらえる場が設けられるといいなと思います。

おそらく、立場によって、原因や背景と思っていることが違ったりすると思います。実は、本人以上に保護者が強い葛藤を抱えている場合もあるかもしれません。

こういった対話を重ねる中で、本人を中心とした人との関係がより安心できるものに変化していくといいと思っています。
 
 

④具体的な改善のためにどうすればいいか一緒に考え、実践して、振り返る。

これに関しては、まず主体的に本人からアイデアを出してもらえるといいと思います。また、ネットワークメンバー(ご家族や学校の先生等)からも、協力できそうなアイデアが提案されるといいと思います。安心できる関係性の構築、自己肯定感の向上が対話を通してできるといいなと思います。
 
私がご提案できることとしては
・ゲーム以外で、家族で一緒に楽しめたり、運動できる時間の提案。その振り返り。

・安心できる対話によって、家族内で抱えている葛藤をお互いに言語化し、相互のストレスを軽減するような話し合いを継続して一緒に行うこと。

・心理教育的に、ゲーム依存が起こっているメカニズムを理解するサポート。

・一緒にルール作り(目安)を行い明文化すること。お互いに不安を感じず、楽しく過ごせるための指針作り。及びその定期的な振り返り。

などだと思います。
 
必要に応じて専門的な医療機関を薦めたいと思いますが、すぐに予約で満杯になる病院が多いようです。ご自身で相談する場合は、精神保健福祉センター、保健所、子ども家庭支援センター、久里浜医療センターから医療機関の一覧などが参考になると思います。
 
私が、ご家族等で一緒にやる活動として一番お薦めしたいのは、遊んだり一緒に運動することです。

運動だと、例えば、朝の時間に、散歩+ランニング、家の中でできる有酸素運動(体操+エクササイズorダンス)を、ご家族で一緒に行い、習慣化することを提案したいと思います。

健康面(生活習慣病)の改善と、前頭前野の自己制御機能の改善という点でも運動がお薦めできると思います。
 
参考資料「ゲーム障害について」を見ると、「ゲーム障害により、前頭前野の機能障害が起きる」点や※、ゲーム障害の精神障害合併率で神経症性障害に関連する症状(パニック障害、社交不安、広場恐怖、強迫性障害等)も少なくない点を考えると、運動で前頭前野の機能を改善したり、海馬の機能を改善して、偏桃体の過剰反応で起こる不安や怒りを制御することができる「運動」を習慣化できるといいと思います。

※前頭前野の機能障害は、10代ではまれとの記述もあります。『ゲーム依存からわが子を守る本』p28
 
私の中でのイメージとしては、軽いリズム運動で「セロトニン」を出してドーパミンを制御できる状態にしつつ、心拍数を上げる運動でやる気と多幸感を感じる適正な「ドーパミン」の分泌ができるといいなと思います。

※ゲームや動画などの刺激の強い報酬系で急激にドーパミンが分泌されて、その後の離脱症状により焦りや不安、無気力状態で不快になり、そこから抜け出すためにより強い刺激を求めて依存してしまうメカニズムも説明できるといいなと思います。

また、運動を他者と一緒に行うことで安心を感じる「オキシトシン」の分泌もあるといいなと思ったり、運動を続けることで前頭前野と海馬の機能の向上も期待できるので、不安や怒りのコントロールをするためにも、半年くらい運動習慣を継続できるといいと思います。
 
それ以外にも、例えば夜の時間に、家族で一緒にカードゲーム、ボードゲーム、テレビゲーム等をやって、一人で昼夜逆転してゲームをする活動を代替して、安心感や、楽しさ、信頼関係を感じる一緒にやるあそび体験ができるといいと思います。
 
あと、必要時応じて大事だと思うのは、こういった関わり方はしない、こういった言い方はしないなど、お互いにしないことを確認したり、お互いに接し方の工夫や言い方の工夫、距離の取り方なども確認できるといいと思います。


困難な場合


本人が話し合いの場に参加するのが困難な場合や、本人が行動変容をする気がなく現状維持を望んでいる場合、家族関係が困難な場合、改善はしたいが、継続して生活習慣を変えていくのが困難な場合など、現状を改善していく上で、実際には難しい壁が多々あると思います。

本人のゲーム依存に関して心配している方(ご家族や先生、支援者等)の話を傾聴しながらご提案したり、本人を対話の場に招待するような提案や、働きかけ方の提案をするなどしてサポートを継続的に行っていけるといいと思います。

時間はかかるとは思うのですが、関係者がお互いに安心を感じるような場を作っていきたいと思います。


 

参照文献
・『ゲーム依存からわが子を守る本』(監修)花田照久、八木眞佐彦 大和出版 2019年
・「ゲーム障害について」 (独)国立病院機構久里浜医療センター 依存症対策全国センター 樋口 進 https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/000759309.pdf
・『運動脳』アンデシュ・ハンセン (著)、 御舩由美子 (翻訳)、 サンマーク出版 、2022年


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