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『三体』劉 慈欣 著:世界的ベストセラーの現代中国SF、異星人も地球人と同類?

「翻訳書として、またアジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門」で受賞した、中国作家による「三体」三部作。その第1作の日本語版が本書だ。

文化大革命で若き科学者に起こった悲劇で幕を開け、そこから一気に現代へと飛んで、科学者たちに次々と降りかかる怪事件が語られる。さらにVRゲームの世界も描かれ、徐々に謎の正体が姿を現すが――。

物理学の永遠の問いや、宇宙のどこかにいる異星人との交信、そして地球を滅亡へと導く人類の愚かさや絶望感、などが編み込まれた、壮大な物語。

「ええーっ」と驚く展開ながら、なんとなくこれも「アリ」だと思わせてしまう特異な筆致に舌を巻く。うそっぽいのに、妙な現実感を伴うディティールの確かさがある。

三部作の第1作ということを忘れていて読み終わり、「ここで終わりか」と思ったら、訳者あとがきで、まだまだ続くと分かり、「翻訳が出たらすぐ読まねば」という気になった。

映画化もされて、文筆業で巨万の富を築いているはずだが、昨年読んだ作家インタビューでは、いまだにつつましい家に住み、発電所のエンジニアとして働く兼業作家とあった。確か、現実とのつながり、淡々とこなす仕事が必要だと述べていた気がする。賢明な人なのだろう。

立原 透耶 監修、大森 望/光吉さくら/ワン・チャイ 訳


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