見出し画像

フルリモート組織で「全体性」を育てる方法

NPOグリーンズもフルリモートワーク3周目に突入した。基幹事業はWEBマガジン運営なのでもともと「リモート前提」のチームだったけれど、コロナ前は週1くらいでオフィスに集まってたし、ランチも一緒に食べれば、リアルイベントの終わりには打ち上げもしていた。

2020年3月に初の緊急事態宣言が発令されてから現在に至るまで「リアルに集まった」のは3回くらいしかない。その間、メンバーの新加入や移住が進み実質的に「多拠点チーム」になってきた。

整理のために、現在事業に携わるコアメンバー(社員+業務委託)のエリアを列挙してみるとこんな感じだ。いい感じに日本列島に散らばっている。

東京/荻窪・四谷・下北沢、千葉/いすみ・茂原・鷺沼、神奈川/茅ヶ崎・鎌倉、長野/御代田、鳥取/大山、兵庫/神戸、京都、三重/松坂、岡山、広島/鞆の浦、福岡/津屋崎、熊本/南阿蘇村、沖縄/石垣島(二拠点も含む)

さて、いきなり脱線するが、みなさんはマリオカートをやったことはあるだろうか。マリオカートは同じコースを3周するなかでタイムを競い合う。初チャレンジのコースの1周目なんて、それはもうひどい有り様である。池に落ちるわ、ドッスンに踏み潰されるわ、壁にぶつかりまくるわ。あらゆるヒューマンエラーを繰り返すなかで、ようやく走るべきコースの全容がつかめてきて、周回を重ねるごとに少しずつマシな走りができるようになってくる。

小学2年生の頃は人生の1/3をマリカーに費やしてたと思う。

フルリモートワークの導入も、マリカーみたいなもんだと思う。1年目は、初めての取り組みに多くの摩擦や池ポチャを経験しつつも少しずつチーム全員で学んでいく。2年目で改善を繰り返しようやく走り方が分かってきて、3年目でようやく快走できるようになる。

グリーンズもフルリモートワークを3周目に突入するなかで、ようやく本当に大事にすべきことが見えてきた。それは「全体性(ホールネス)」である。

「全体性(ホールネス)」という言葉が広まったのは、フレデリック・ラルー氏の著書である「ティール組織」の中でその考え方が紹介されたからだ。

書籍では「全体性(ホールネス)」はこのように説明されている。

偽りの仮面を被る必要がなく、ありのままの自分で仕事に出かけることができるようになる状態

引用:ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

少し分かりづらいが「not 全体性」を考えるとイメージが付きやすい。以下は、僕の解釈における「全体性のない」職場の特徴だ。

<全体性のない職場の例>
・職場にプライベートなことを持ち込むことが許されてない
・メンバーが「本当に好きなこと」を話せる環境がない
・職場で見せる「顔」と職場の外で見せる「顔」が全然違う
・メンバー同士が業務以上の人間関係を持たない
・その日の体調不良を伝えられない
・自分自身の感情やニーズを共有できない

「全体性のある職場」は、上記の項目をひっくり返したような職場だ。噛み砕いて言うなら「人間まるごとで関われるような職場」とも言えるだろう。メンバーが自分らしさを全て会社に持ち込めている状態だ。

そんな「全体性(ホールネス)」が職場に育っていけば、フルリモートワークだとしても素晴らしいチームワークが生まれることを2周目が終わった今、感じている。

しかしながら、フルリモートワークで「全体性」を育てることは、非常に難しい。リアル出勤の日々では、ランチ雑談や、退勤後の飲み会といった非公式コミュニケーションの場で、人間まるごとで関わる機会がそれなりに担保されていたからだ。

そのため、フルリモートワークでは「めっちゃ意識的に」取り組まないと「全体性」は育まれない

この2年でグリーンズとして試行錯誤してきた中で「これは効いたぞ!」という取り組みをいくつか紹介してるので、チーム運営している方に参考にしてもらえると嬉しい。

<目次>
①チェックイン・チェックアウト
②偏愛コーナー
③エンパシーサークル
④「いかしあうチーム」研修

①チェックイン・チェックアウト

グリーンズでは伝統的に取り組んで来たことだが、フルリモートワークになったことでより丁寧に取り組むようになった。グリーンズはこのような目的で行ってる。

◎チェックイン
会議冒頭で参加者が一人ずつ「今日の気分・体調・最近の出来事」を話す

◎チェックアウト
会議終わりに参加者が一人ずつ「感想・感じたこと」を話す

チェックイン・チェックアウトは30分の打ち合わせだろうが、2時間のセッションだろうがほぼ必ず行う。コアメンバーだけでなく学生インターンでも、等しく発言の機会がある。

リアル会議なら、会議前後で雑談する機会も少しはあるが、オンライン会議の場合はZoomと繋がってる時間しか話せない。そのため、体調不良に気づくこともできなければ、会議の内容に納得いったのかモヤッったのかどうかも察する術はない。だからこそ、チェックイン・チェックアウトの時間をより大切にしている。「人間まるごと」で会議に参加するためには必須の時間だと思う。

さらなる発展版として、「ディープチェックイン」なるものも行っている。毎週火曜日午前にコアメンバー全員で行う「全体会議」ではチェックインの時間を冒頭に20分も設ける。三人一組にブレイクして、持ち時間長めにしてゆっくり行う。大人数のチェックインだと手短に話して本当の自分の状態も省略してしまうので、週一回くらいはこういう時間も良い。

②偏愛コーナー

先に紹介した「全体会議」では第2火曜日に「偏愛コーナー」という企画も行っている。毎月一人、誰にも理解されないかもしれないけど愛してやまない「偏愛」を語る。20分間一方的に語り、のこり15分間はQ&Aタイム。

これまでどんな偏愛が語られてきたかと言うと「ビカクシダ」「散歩中に出会う変な風景」「未来少年コナン」「魚の血抜き」「サッカーのディフェンス」「言葉遊び」「楽曲制作」「バリ島」「スティールパン」「スケボー」「フィッシュマンズ」などなど。グリーンズの仕事とはまったく関係のない話が喜々として繰り出される。

トリニダード・トバゴ発祥の打楽器「スティールパン」について熱く語るメンバー

正直な話、この35分はどの会議よりも面白い時間になる(笑)そして、仕事中には知るよしもなかったお互いの興味関心に触れる機会にもなる。偏愛を知ることができると、その人のことを職場外の部分も含めて理解でき、「人間まるごと」で興味を持てるようになる。

この「偏愛コーナー」が仕事と全く関係ないかと言われるとそうでもない。「旅行が大好きでしょうがない」というスタッフがいた場合には「じゃあグリーンズでそういう仕事をつくれないだろうか?」という雑談につながったりする。個人的な偏愛が、目の前の仕事とシンクロしたら、とんでもないエネルギーになるだろう。そのための布石のような時間なのかもしれない。

③エンパシーサークル

こちらは全体会議の第4火曜日に取り組んでいるものだ。エンパシーサークルとはNVC(共感コミュニケーション)で取り組まれる、感情とニーズに寄り添うグループワークだ。

まず準備として、参加者全員が手元に「感情リスト」「ニーズリスト」を用意する。(NVC Japanからダウンロード可能)

NVC Japanが無料公開してくれている「感情」「ニーズ」リスト

各自リストの準備ができたら、グリーンズでは3人一組になって、一人10分ずつで以下のルーティンを行っている。

①1人目が「モヤモヤしたこと」や「嬉しかったこと」といった最近の出来事を3分間で話す

② まわりの二人はそのエピソードをただただ聴く(質問や感想なし)

③ エピソードの共有が終わったら、聞き手はどんな「感情」を感じたのかリストから選んで、話し手に共有する

④ 話し手は、まわりから選択された「感情」を聞いてどんなことを感じたのか話す

⑤ 聞き手は次に、話し手の出来事を通じて「どんなニーズが満たされたのか or 満たされてなかったのか」について考え、リストから選んで話し手に共有する

⑥ 話し手は、まわりから選択された「ニーズ」を聞いてどんなことを感じたのか話す

最初に3分話をして、7分で感情とニーズの話をするところまでが1ルーティン。一人目が終わったら、二人目、三人目と同じことをする。

NPOグリーンズのエンパシーサークルで話されるエピソードは、仕事に関係することもあるが、プライベートな話も多い。パートナーとのケンカ、親との関係、友達との話。

メンバーの「モヤモヤしたこと」や「嬉しかったこと」の話に耳を傾けることで、その人が大切にしたいことや性格について、理解を深めることができる。また、話し手においても、自分の話をメンバーに受け取ってもらえることで、安心感や信頼が育ってくるように思う。

エンパシーサークルは、組織のメンバーが「仕事以上」の人間関係になるためにとても良いきっかけを与えてくれると感じる。

チームの中に、エンパシーサークルを経験したことのある人がいれば、ぜひその人の手引きで一度やってみることをオススメしたい。寄り添う姿勢さえあれば、難しいワークではない。

ちょうど「グリーンズの学校」で、はなたかみどりさんが講師を務める「NVCの教室」が4月4日に開講します。NVCを学びたい方は是非。


④「いかしあうチーム」研修

こちらは番外編というか上級編なのだが、インナーテクノロジー研究家 三好大助くん(@dice344)に全面的なサポートをいただき、1年間にわたって「いかしあうチーム」をテーマに社内研修を実施してもらっている。

大助くんは様々なチームに関わりながら個人と組織の変容に取り組んでいる。その中で、チームで社会に良い結果を生み出すためには、以下のような「サイクル」が必要だと理論立てている。

<いかしあうチームのサイクル>
①内観(わたしとつながる)
②対話(みんなとつながる)
③ビジョン(ほしい未来とつながる)
④アクション(社会とつながる)

この4つの「つながる」がサイクルとして回ることで、個人と組織が変容しながら、社会的インパクトも創出し続けられるという考え方だ。

多くの組織での取り組みは「左半分」の意識にとどまっていることが多いと思う。(グリーンズもずっとそうだった)

「なにをするのか?何を目指すのか?」といった「外向き」の意識だけにとどまり、チームに関わるメンバー同士の関係や、メンバー個人が自分自身とつながるような「内向き」の意識はほとんど重視されない。

グリーンズではこの1年間、「内向き」の意識を高めるために、月1回3時間、大助くんの導きのもと「メンタルモデル」「NVC」を中心にレッスンとワークを繰り返してきた。

メンバーが「内向き」の意識を高めることを通じて、自分と相手の感情やニーズを大切にしたコミュニケーションができるようになったり、メンバーそれぞれの「思考と行動」のパターンを理解できるようになってきた。

「人間まるごと」で関わるためには、自分自身の内側とつながりながら、他者と関わる技術が必要不可欠なのだと大助くんには教わった。「全体性のある組織」になるための土台となるようなアップデートができたように思う。

具体的な話は、greenz.jpの記事で来月くらいに公開する予定なので、そちらを楽しみにしておいてもらえると!

***

というわけで、フルリモート組織でもチームワークを発揮するために「全体性」の観点から工夫してきたことを紹介させてもらいました。もし、皆さんのチームでも「人間まるごと」な職場のために取り組んでることがあれば @little_shotaro まで教えて下さい!

植原正太郎 NPO法人グリーンズ 共同代表
いかしあう社会づくりのヒントを発信するWEBマガジン「greenz.jp」を運営するNPOグリーンズで健やかな経営と事業づくりに励んでます。2021年5月に家族で熊本県南阿蘇村に移住。暇さえあれば釣りがしたい二児の父。

Twitterやってます。よかったらフォローしてね→ @little_shotaro

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?