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2022年12月【Wakanaの本キロク】

見つけていただきありがとうございます。
ここでは、私が読んだ本を月毎にまとめて紹介しています。皆さまの本選びの参考になれば幸いです。

こんにちは、Wakanaです。
2022年ラスト、12月の本キロクをお届けします!
年末だから、といって特に変わり映えの無いいつも通りの読書記録ですが、楽しんでいただけますように!

今月読んだ本

今月読んだのは全部で10冊。⑨⑩はまとめて紹介します。
①原田マハ『サロメ』
②中村航『絶対、最強の恋のうた』
③やまじえびね『女の子がいる場所は』
④小川洋子『約束された移動』
⑤大前粟生『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
⑥井戸川射子『この世のよろこびよ』(『群像』2022年7月号より)
⑦ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』
⑧中村航『いつかこの恋を、幸せにかえるために』
⑨午後『眠れぬ夜はケーキを焼いて』
⑩午後『眠れぬ夜はケーキを焼いて2』



①原田マハ『サロメ』


現代のロンドン。日本からビクトリア・アルバート美術館に派遣されている客員学芸員の甲斐祐也は、ロンドン大学のジェーン・マクノイアから、未発表版「サロメ」についての相談を受ける。
このオスカー・ワイルドの戯曲は、そのセンセーショナルな内容もさることながら、ある一人の画家を世に送り出したことでも有名だ。
彼の名は、オーブリー・ビアズリー。
保険会社の職員だったオーブリー・ビアズリーは、1890年、18歳のときに本格的に絵を描き始め、オスカー・ワイルドに見出されて「サロメ」の挿絵で一躍有名になった後、肺結核のため25歳で早逝した。
当初はフランス語で出版された「サロメ」の、英語訳出版の裏には、彼の姉で女優のメイベル、男色家としても知られたワイルドとその恋人のアルフレッド・ダグラスの、四つどもえの愛憎関係があった……。
退廃とデカダンスに彩られた、時代の寵児と夭折の天才画家、美術史の驚くべき謎に迫る傑作長篇。

Amazonより

戯曲『サロメ』を手掛けたオスカー・ワイルドと挿絵を描いたとされるオーブリー・ビアズリー。そして、オーブリーの姉であるメイベル・ビアズリー。
オスカー・ワイルドとの出会いが、彼らの運命を決定的に変えていく。

ファム・ファタルは魔性の女、逃れられない女という意味があるけれど、これはオスカー・ワイルドがその役割を担っているように感じて。でもオム・ファタルとはまた違うかなぁ、難しいけれど、間違いなくこの小説のキーパーソンだ。

それぞれの止めようのない欲望や嫉妬、憧憬がねっとり絡みついてくるような印象が文章を通じて伝わってきた。『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』のような美術ミステリの要素を備えつつもサスペンス要素もあって、ぞわぞわしながら読んだ。最後の結末は色んな読み方・考察の余地が残されているような終わり方だったと思う。原田マハさんの美術小説はやっぱり面白い!



②中村航『絶対、最強の恋のうた』


恋はスタンプカードのようなものだ、と私は思う。キスをして、好きだと思って、何かをわかり合って、やさしい気持ちになって――。そんなことがある度に、私たちはスタンプを押す。いつまで続くのかな? 密やかな気分で私は思う。このカードはいつか、かけがえのない何かと交換できる。そんな日がきっとくる。その日まで、私たちは小さな声で歌うのだ。最強の恋のうたを歌うのだ――。
大ヒットしたロングセラー「100回泣くこと」に続く、初恋青春小説の誕生。

Amazonより

「住む部屋を一つにするのが同棲や結婚だとしたら、と、私は考える。そういうことの一番の始まりは、一つの傘に二人で入ることかもしれないな。」

優しいきゅんをくれる小説だった。やっぱり中村さん好きだなーと思いながら、少しだけにやにやしながら読んだ。
どこかの投稿で書いたことがある気がするけれど、中村さんの恋愛小説は、恋人同士の、あるいは恋人になる前の男女の会話の平和さが本当に心地よい。私自身がこんな会話を誰かとしたいというよりも、たとえばカフェの隣の席に座っている男女が少し小さめな声でそういう会話をしているのをこっそり聞いてにっこりしたいなと思う。

最初から最後まで穏やかに物語が進んでいくという感じで、劇的な展開があるわけではないのだけど、読んでいて心が穏やかになった。中村さん、やっぱり好きだなぁ(2回目)。



③やまじえびね『女の子がいる場所は』


「わたしたちは結婚しないと生きていけないの?」
一夫多妻が認められているサウジアラビアに暮らす10歳の少女サルマ。同級生の姉は、顔も見たことのない8つ年上の人と結婚する。外ではヴェールが必要で、大好きだったサッカーはもうできない。
モロッコ、インド、アフガニスタン、そして日本……国も宗教も文化も違う10歳の少女たちの物語。

Amazonより

「国も宗教も文化も違う少女たちに降りかかる『女の子だから』」

コミックをほとんど読まないのだけど、この帯文に惹かれて手に取った。
モロッコ、インド、アフガニスタン、日本に住む女の子たちの日常がそれぞれ切り取られた作品。

漫画だからさらさらと読めるけれど、書いてあることは私の中にずっと残ることになるだろうなと思った。

私が置かれた環境はとっても恵まれているなとも感じた。
女の子だからこうしなさい、ああしなさいと言われたことはそんなにない(ズボンばっかり履かないでスカートも履きなさい、は言われたことがあるけれど)。衣食住が不自由なく保障されていて、自分の気が済むまで勉強ができて本が読めて。

間違ったことを言っているわけじゃないのに、現代では受け入れられない価値・考え方なら「違う」「間違っている」とされてしまう。旧い考え方を無理に継承するべきではないけれど、今では当たり前のことが当時はまったく当たり前ではなかったという事実・歴史があることを前提に考える必要があると改めて思えた。
今ではあり得ないような考え・価値を刷り込まれ、それこそが正しいと思わされ、生きることを強要されてしまった人たちがいたこと。
じゃあ「今の時代は昔と違って良い/良くなった」だけで済ませるのはあまりにも自己中心的な考え方なのかもしれない。だって一昔前を生きていた人たちからしたら、悔しくて堪らないだろう。

描かれた子たちのように、私もかつては「女の子」で、年齢的には「女性」になりつつある。
きっと今の時代は、女性でも社会進出や仕事がしやすくなっている。だからといって、その、考え方によっては「贔屓」のような扱いに気持ちよさを覚えるのではなく、自分の考えをもって、性に囚われずに意見を表明できるような人間になりたいと思う。

世界を、自分のこれからを、じっくりと考えさせてくれた漫画だった。



④小川洋子『約束された移動』


こうして書棚の秘密は私とB、
二人だけのものになった――

ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。
Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く……「ダイアナとバーバラ」。今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕……「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。

Amazonより

全体的に文章が密やかというか、ひっそりしたというか、そんな感じ。聞いてはいけない話をこっそり聞いているような感覚で読んだ。この密やかさに美しさや優雅さがあることを少しだけ分かったような気がした。

短編集で、どの話も「移動」がテーマ。それはモノだったり人だったり、人の一部だったり。それも、騒がしくなく、静かな移動。

文章の書かれ方が、どことなく外国文学を思わせた。エンタメ小説のような読みやすさはそんなに無くて、どちらかというとひとつの文章を何回も読んで反芻して理解していくような。

小川洋子さん、多分今回の小説が初めて。がつがつはしていないけれど読み応えがあって濃密な読書体験ができたなと思ってるからこれ以降も、自分が惹かれたものから読んでいきたいな。あと今回読んだ小説はとにかく装丁が美しくて大好き。



⑤大前粟生『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』


恋愛を楽しめないの、僕だけ?
"男らしさ""女らしさ"のノリが苦手な大学二年生の七森。こわがらせず、侵害せず、誰かと繋がりたいのに。
ジェンダー文学の新星!
鋭敏な感性光る小説4篇を収録。

Amazonより

4つの短編集のうち、表題作についての感想を。

私にとって、間違いなく今年読んだ中で1、2を争うくらいの面白さだった。こんなにもページをめくるのがもったいないと思いながら読むことになるとは思っていなかった。それぐらい、影響力のある本だったし、私のことを私以上に言語化してくれている本だと思った。ちょっと刺さりすぎてびっくりしている。

どこかに、誰かに、「安心」を求めることが悪いことじゃなくて、必要なことなんだっていうのを伝えてくれていると思った。どんな人にも多かれ少なかれそういう存在があるし、その存在に縋って生きることは悪いことじゃない。私は主人公の気持ちがすごくよく分かるし、自分にも似たようなところがあるからこそここまで刺さったんだと思う。

大前粟生さん、好きだな。これからも追っかけていきたい…!



⑦ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』


ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。

Amazonより

ずっと読みたかった小説を、この年末にやっと読んだ。面白かった!外国文学を殆ど読まないから読めるかどうかが少し心配だったけれど読みやすかった。

チェイス・アンドルーズが死体となって発見されたところから物語が始まり、そこからは、彼が亡くなった後に操作が少しずつ進められていくのと同時にカイアの幼少期時代からの話が同時進行で進んでいく。過去と現在が交互に描かれていくのとは少し違い、過去が現在に追いついていき、次第にひとつになるような時間の進み方。これまでに見たことのない時間の表現のされ方だなと思い、そこも新鮮で良かった。

ノンフィクションを読んでいるようなリアリティがあって、ミステリーの要素もある小説だと思う。最後の方は緊迫した裁判のシーンが続いて読み応えがあった。

著者のディーリア・オーエンズは小説家であると同時に動物学者でもある。動物学者という側面を持つ彼女だからこそ描ける雄大な自然描写や、主人公であるカイアと動物たちとの触れ合いの描写が美しかった。

決して楽しい話では無いし、めちゃくちゃ重たい小説だったけれど、読んで良かったとすごく思える小説だった。外国文学を読むきっかけをくれた本!

「誰かに触れるというのは自分の一部を手放すことであり、それはもう戻ってこない。」

「カイア自身、自分が嘆いているのはチェイスを失ったことではないと分かっていた。辛いのは、幾度もの拒絶によって自分の人生が決められてきたという現実なのだ。」



⑧中村航『いつかこの恋を、幸せにかえるために』


就活苦戦中の大学生・なつきは、社会人の彼氏・亮平との将来を夢見ながら北海道旅行を計画、楽しい夏休みになるはずだった。でも待ち合わせ場所に彼は来ず、スマホには「別れよう」のメッセージが……! 皮肉にもそこは「幸福駅」。突然の失恋に呆然とするなつきは、母を喪った不思議な父子と遭遇、一緒に旅をすることになった。帯広から襟裳岬、釧路へ――喪失を抱えたなつきと父子が旅の果てで見たものとは?

Amazonより

なつきの物語が、最後には槙田さんの物語にもなっていて、2人の交わり方がやさしいなぁと思った。
遥希が放つ言葉が、背伸びをしたものではありながらもちゃんと本質を突いていて、おおー!と拍手。

私には今、恋人がいる。
恋人がいるという状態でまさかこの本を読むことになるとは思わなくて、どんな気持ちになるんだろうと思いながら読んだ。

かつて、恋人がいた。
でもその人は、私からお別れした。

その後、本気かどうかも分からないままに告白をしたことがあって、断られて、ということがあった。

「初恋なんてのはさ、ただの予行演習なんじゃないのかな?」
「恋は練習できない。でも予習はできる」

今、私に恋人ができたのは、予行演習と予習を綿密に行ったからなのかなぁ、なんて思う。

私の方から別れを告げたことを、大方は消えてくれたけれど、心のどこかに後悔はずっとあって。
それは恋人ができたことで解消されたと思っていたけれど、この本を読んで、今のありがたさを知って、やっと引っかかりから解放されたと思っている。

大切な人を、今大切にしないでどうする!と改めて思えた、恋の良いところもしんどいところもやさしく教えてくれた本だった。



⑨午後『眠れぬ夜はケーキを焼いて』⑩午後『眠れぬ夜はケーキを焼いて2』


大変なことは多いけれど、
これだけたくさんのケーキをつくれるのならきっと大丈夫。
そう思うのです。

Twitterで大人気の作家・午後(ごご)さんが送る
眠れなくて不安な夜の過ごし方を提案するコミックエッセイ。
パウンドケーキやスコーン、ガトーショコラ、プリン、豆腐アヒージョなどのレシピ付き。

Amazonより


「こんな夜に焼くのは、明日につながるようなケーキがいい」
第8回料理レシピ本大賞コミック賞受賞作の第二弾!

Twitterで人気の作家・午後さんが描く
眠れなくて不安な夜の過ごし方を提案するコミックエッセイです。
バナナケーキ、レアチーズケーキ、ホットケーキ、ジャムなど、
孤独な夜のおともとなるレシピを、心に残るエッセイとともにお送りします。

Amazonより

装丁とタイトルに惹かれて買ったもの。コミックエッセイだったから1時間も経たないくらいですぐに読めた。

とにかくお菓子がぜんぶおいしそうすぎる!章の最後にレシピが書いてあって、私でも作れそうだ…!と密かに作りたい欲が増している。

午後さんの考え方、綴る言葉が本当に素敵で、心の中にすっと入ってくる感じが心地良い。しんどくなったら、この本を読みたくなるだろうなと思った。それくらい、何度読み返しても色褪せない言葉たちがたくさん詰まっているエッセイだった。続編、また出ないかなあ。



キロク後記

今年の1月から突発的に始めたこの読書記録も、なんやかんや続けられて良かった!
感想を言語化するようになってから、よりその本の奥深くを知りたいと思うようになったし、自分が思いも寄らない思考に意識が飛ばされることもあって、それがすごく楽しかった。

自分が普段は考えないようなことを考えさせてくれる機会になる。自分が知らない自分の一面に気づける。だから私は本を読むのが好きだなと思う。

いつもかなりの量をひとつにまとめているので読み辛さ満載ですが、少しでも覗いてくださった方、読んでくださっている方、いつもありがとうございます!来年もどうぞよしなに…!


お読みいただきありがとうございました!☀



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