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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十

※其の九からの続きです。気軽にお付き合い下さい。



 6月中旬。ついに全国高等学校剣道大会東京都予選会が始まった。いわゆる都大会だ。2週に渡り、先に個人戦が行われ、残念ながら男子3年生の中川なかがわ先輩と嶋口しまぐち先輩は共に3回戦負けでベスト64止まり。一方、女子の3年生の四天王の先輩方はそれぞれ4回戦でのブロック決勝を勝ち抜き、全員ベスト16まで勝ち上がってきた。

(凄い! 残り16人のうち、総武学園うちの高校が4人も占めている)

応援している全部員が思っていることで、後ろの席では観客も。

「今年の総武学園そうぶがくえん女子は強いの多いな!」
「四天王とか呼ばれているんだっけ?」
「あの高橋たかはし宮本みやもとはかなり良いぞ」

先輩方が活躍すると私たちも嬉しい。しかし、都大会のベスト16ともなるとレベルは格段と一気に上がる。

「1年生。こっから先は目見開いてしっかり見ときなよ!」

青木あおき先輩に言われて私たちは会場に注目する。菅野かんの先輩の相手は武蔵女子学院むさしじょしがくいん高校。言わずと知れた剣道の名門高校。個人、団体共に12年連続でインターハイへと出場している。ここまで調子の良かった菅野先輩も防戦一方になる。

「ファイトです!! 菅野先輩!!!」

みんなで観客席から拍手とオォォーー!!!という歓声で盛り上げる。しかし、名門高校のレベルは次元が一つ、二つと違っている。

(ここまでの差があるのか)

『無敵』武蔵女子学院高校の剣道はそんなイメージだ。強い菅野先輩の奮闘も空しく、メン2本取られて敗れてしまう。隣のコートでは西澤にしざわ先輩が果敢に攻めている。

「西澤先輩。ちょっと、分が悪いね……」

今里いまざと先輩が本音をこぼす。相手が暁大学付属第三あかつきだいふぞくだいさん高校の選手。こちらも剣道の強豪高校だ。

「コテッ! !!」

西澤先輩のバランスを崩した無理な打ちを見逃さずに、相手が面を確実に決めてくる。ベスト16以上ともなると少しのミスが勝敗を期す。結局、西澤先輩も2本負け。残りは宮本先輩と高橋先輩。琴音ことね先生が2人に一言二言、助言している。

「西澤先輩の相手。決して負けるような相手じゃないぞ」

藤咲ふじさきが腕を組みながら分析する。

「お前な! じゃあ、ここまでの実力の相手に藤咲おまえは勝てるって言うのかよ!」

でた。八神やがみと藤咲の小競り合い。

「……ふん」

あれ。いつものようにゴングが鳴らない。今日は藤咲が大人しい。

「おかしいね。藤咲、いつも蓮夏に食って掛かるのに」

日野ひのがわざとらしく藤咲の前へと立つ。

「邪魔だ! 見えん! どけ、日野!」

日野を強引にどかして試合を見入る藤咲。

渡部わたなべ先輩。……その。今、宮本先輩が戦っている相手って……」

ひかりが渡部先輩と話しているうちに、今度は宮本先輩の試合が始まった。

「ん~。あぁ、西荻総合にしおぎそうごう高校ね。都立だけどあそこは強いんだ~」

たしかに強いが、宮本先輩も負けてはいない。これは互角だ。

「イケるイケる! 宮本先輩!」
「ファイトでーす!」
「間合い! 間合い! 大事にー!」

レギュラーではないが、残りの2年生。村松茜むらまつあかね先輩と西尾理華にしおりか先輩、そして半田奈保はんだなほ先輩。拍手で応援する。

(高校の都大会上位ともなると、レベルが高い。中学までとはまるで違うな)

呆気に取られた。無我夢中でやっていた中学時代。しかし、高校になればレベルは更に上がる。

「おい! 雪代ゆきしろ!」

急に八神が話しかけてきた。

「な、なに……」

八神が光をどかして私の隣の席へと座る。

「なにじゃねぇ! お前、全中出てんだろ! どうなんだ! 今日の大会を見てみて」

こんな形で八神と話すとは思ってもみなかったが、素直な感想を言う。

「……正直、レベルは高い。特にあの、武蔵女子学院は頭一つ抜けている……」

全員で他のコートで試合をしている武蔵女子学院の選手を見る。名門だけあって応援団の数も凄く、また息の合った拍手に歓声。どれをとっても超一流だ。不意に前に座っている藤咲が振り返り、私を見る。

「な、なに……。藤咲」

睨みつけるようにいつまでもその視線を離さない。

「……私はな。本来、武蔵女子学院に行くつもりだった」

それだけ言ってなおも視線をズラそうとしない。その凄みに私は身を引く。

「はいはい。喧嘩しないの! 今日は3年生の先輩の応援でしょ!」

今里先輩が仲介に入ってくれる。コートに目を戻すように無理やり藤咲の顔を戻させる。

「八神も! 雪代の隣に座っていると、またあんたたちは喧嘩するから、ほら、月島つきしま。席変わる」

青木先輩が八神の腕を引っ張り、光を私の隣の席へと戻させる。なんだか私たちの関係や性格をつかまれてきたようで、少し申し訳ない。結局、宮本先輩は延長の末、1本取られて敗退した。

(残りは高橋先輩か……)

高橋先輩の相手は東第一あずまだいいいち高校。東第一高校も強豪校なのは、みんなが知っている。


                 続く

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