見出し画像

憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の七

※其の六からの続きです。気軽にお付き合い下さい。



 6月に入り、試合稽古が増えた。下旬には全国高等学校剣道大会の東京都予選会がある。女子個人戦では3年生の四天王の先輩方が当然の如く支部予選を通過。団体戦もなんなく本選出場を決めており、レギュラーを決めるために最近は熱の入った緊張感のある練習が続く。

「メーーン!!!」

赤旗3本が上がり面ありの1本。2年生の青木里佳子あおきりかこ先輩。

「コテーー!!!」

こちらは白旗3本上がり鮮やかな小手あり1本。同じく2年生の渡部早百合わたなべさゆり先輩。

「ドォォーーー!!!」

相手の竹刀を返して綺麗に胴打ちを決める。今里奈緒美いまざとなおみ先輩だ。2年生。

(2年生はこの3人の先輩は強いな。今回は誰がレギュラーになるのかな)

団体戦支部予選では青木先輩がレギュラーを勝ち取り先鋒を務めた。青木先輩は期待に応えて危なげなく勝利。試合の流れを総武学園うちへと引き付け、支部予選突破の立役者となった。だが、2年生以上に目立った選手がいる。

「キィェェーー!!! メーーン!!!」

思わずみんながオォォーと唸るほど力強く、そして圧倒する。

(やっぱ、あいつか……)

学年関係なく、高校剣道に慣れてきているあいつ・・・はもう間違いなくレギュラークラスだ。

「……おい!」

呼びかけられたので、振り向く。

「次の私の相手をしろ! 四天王の先輩方以外じゃ、手応えがない!」

藤咲莉桜ふじさきりお。私と同じ1年生だが、すでに高校で活躍している雰囲気や貫禄がある。

「……まぁ、いいけど」

入部してからなにかと因縁をつけられつきまとわれる。

(こいつ、私のストーカーかよ)

いつも嫌みを言われっぱなしなので、たまにはやってやろうかという気になる。礼をして、1、2、3歩。ゆっくりと竹刀を抜刀して蹲踞をする。

「始め!!」

主審を務める青木あおき先輩の合図で私は気合を入れる。

「イャャーー!!」
「キィィェェーーーー!!!」

並々ならぬ藤咲の闘志が伝わってくる。少しずつ剣道の感覚を取り戻している私だが、ずっと鍛錬を怠っていない藤咲との間には大きな差がある。

「メーーーン!!!」

一瞬考え、半歩下がってしまった私は藤咲に綺麗な面を喰らわされる。

「面あり!!」

赤旗3本上がり、2本目の合図が開始される。

(くそっ。やられっぱなしも嫌だな)

1本取り返そうと私が果敢に攻めると、藤咲もそれに呼応おうこする。激しい打ち合い。

(……? なんだ? 藤咲。急に攻めや打ちが雑になったぞ)

剣道の感覚が戻ってきているのか、最近は間や呼吸を感じることができるようになってきた。激しくぶつかり合い、鍔迫り合いで目と目を合わす。その目は恨みでもあるかのように、私を捉える。

(こいつ、私を殺すつもりか? 殺意がありすぎる)

離れてなお、果敢に攻めてくる藤咲。

(1本取っているのに、そんなに焦る必要ある?)

攻め続ける剣道。しかし、私が小学校より見てきた藤咲こいつはそれをあまり得意としない。4分の試合時間も3分は過ぎたか。そんな折。

「コテッーー! !!」

強引な攻めは息切れを起こしてきたか、藤咲の動きがやや鈍くなる。

(……イケる! ここか!!)

肩で息をして、少し足が止まる藤咲。

「メーーン!!」

今日一番、私の渾身の面が藤咲の面をかすった。タイミングはバッチリだったが、打ちが浅い。残心を取り、審判を見るが私の白旗が1本しか上がっていない。3本のうち、2本の旗が上がらないと1本とは見なされない。

(ダメか……)

そのまま試合時間終了の笛が鳴り、私の1本負け。竹刀を収めて礼をする。

雪代ゆきしろ、藤咲、ちょっと来なさい」

琴音ことね先生に呼ばれて、すぐに駆け付ける。先生は少し怪訝そうな顔をして開口一番。

「あなたたちは剣道をしているのでしょう? なに? 今の中盤からの雑な打ち合いは。剣道は喧嘩じゃないのよ!」

言われて反省。たしかに、私も熱くなってしまった所がある。

「……すみません」

藤咲も俯くように謝る。琴音先生も私たちの思いを知ってからなのか、次の言葉がなかなか出てこない。私と藤咲の関係は剣道を続けている者なら知っている。中学時代は石館いしだて中の雪代か、江戸川第5えどがわだいご中の藤咲か。大会で藤咲こいつを意識しない時はなかった。それが何の縁か、高校では同じチームメイトになった。

「……いつも言っている通り。藤咲は熱くなりすぎて自分自身を見失わないように。特に雪代と稽古する時は。そんなんじゃ、高校でもっと強い相手と戦った時、勝てなくなるわよ」

私との試合でアドレナリンが抜けきっていないのか、体全体で息をして琴音先生の声も半分くらいしか頭に入ってないように感じる。

「雪代は今はそれで良いわ。けど、藤咲と稽古する時は打ちも動きも雑になる。意識するなというのは無理だけど、相手に合わせて剣道をすることはないわ。そこだけは意識しなさい!」

「はい」と答えて琴音先生に礼をしてからその場を離れる。離れ間際、一瞬、藤咲と目が合うがまだ何か言いたそうだ。並んでゆっくり歩きだす。

「……まだ何かあるの」

ボソッと小さな声で藤咲に問いかける。

「こんなお前に……」

藤咲も聞こえないぐらいの小さな声で何か言っていた。ようやく一息つこうと思ったら。

「先輩! 琴音先生!! 次、あたしがこいつらと試合稽古してもいいですか!!!」

ハキハキ明るく元気に声をあげる奴がいる。

「お~、良いよ~、まだ時間あるし」

青木先輩がさっそく審判旗の準備をする。

「だってよ! どっちからやる? あたしは連戦でも構わないぜ!!」

相手はコンコンと小手を合わせて準備万端。

(そうだ。こいつもいるんだったな)

試合稽古になるとどうしても藤咲だけを意識してしまうが、私たちと同じくらいに実力があるのがもう1人いる。同じ1年の八神蓮夏やがみれんか

(本当、部活の時間は気が休まらない)

総武学園そうぶがくえん高校は都内で中堅どころの剣道部。世間ではそんな評判を受けているが。

(どこが中堅どころの剣道部だ。これだけの面子が同じ高校に集まって)

そんな私の思いもいざ知らず。とりあえず、私が先に八神と試合稽古をすることとなった。


                 続く

この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?