憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十三
※其の十二からの続きです。気軽にお付き合い下さい。
6月末の土曜日。先に男子団体戦の試合が行われた。我が総武学園男子剣道部の前評判は高くはない。支部予選を突破し、都大会まで勝つ進むと初戦から中堅高校レベルと当たるので初戦で敗退、または2回戦で強豪高校と当たり、だいたいベスト64で終わってしまう。それだけ東京都の高校は数が多く、1つ勝つだけでも大変なことなのだ。しかし、今年は即戦力と言われている1年生の宗介が先鋒で先発出場をしているので、例年に比べて層が厚いらしい。
「お~、北馬ー! いいね~」
渡部先輩が手放しで褒めて、宗介は気合十分でさっさと2本勝ちを収める。しかし、次鋒の徳本先輩と中堅の宮崎先輩の2年生コンビがパッとしない。2人とも2本負けをしてしまい、早くも1勝2敗となり、追い込まれる。
「徳本も宮崎も頑張ってはいるんだけどな」
「どうもあの2人は初戦だと固いというか……」
「エンジンかかるのが遅いんだよ」
「ときどき稽古相手してやっているんだけどね」
3年生女子四天王の先輩たちも心配そうに見守る。今の2、3年生の先輩方は私たち1年生と違い、男女ともに結束力が高い。チームワークと団結力が自慢で、たまに自主練習では男女ともに一緒に稽古もしていた。
(本来ならこれが正しい男女の在り方な気もするが)
そんなことを考えていたら、副将の3年生、嶋口先輩が見事に2本勝ちで勝負を2勝2敗のタイに戻す。本数も互いに4本ずつ。勝負は大将戦までもつれた。
総武学園高校
2勝2敗 本数4
先鋒 次鋒 中堅 副将 大将
北馬 徳本 宮崎 嶋口 中川
メメ メメ ??
ココ コド ??
大木 氷山 二宮 飯山 笹間
先鋒 次鋒 中堅 副将 大将
千代田東高校
2勝2敗 本数4
試合終了ギリギリで中川先輩が小手を先取し、そのまま時間切れの1本勝ち。かろうじて初戦を突破した。続く2回戦は本二色高校。総武学園男子とほとんど同じレベルで試合は1回戦と同じく大将戦までもつれ込む。
「コテーーーッッ!!」
重く響く中川先輩得意の小手打ちが再び決まる。これには応援している私たちも歓喜の声を上げる。
「おーー! やったぁ~! 今日は男子も良い感じじゃん!」
私も思わず嬉しくなって声を上げる。
「団体戦、男子は久しぶりにベスト32まで勝ち上がってきたなぁ」
今大会、怪我で唯一、補欠にも入っていない2年生の上杉先輩も女子の応援団と一緒に観客席から応援する。
「男子は全員で8人しかいないので人数もギリギリ。上杉先輩も早く怪我治してくださいね! 登録は補欠入れて7人は必要なんですから」
光が上杉先輩を励まし、先輩も申し訳なさそうに頭をかく。
「次勝てば男子も団体で初のベスト16なんだけどなぁ。ここまで勝ち上がると必ず強豪高校と当たっちゃうんだよなぁ」
コート決勝を勝ち上がるとベスト16入りだが、ここを勝ちあがるのが難しい。総武学園男子がAコート決勝戦まで勝ち上がり、ここまで男子が勝ち残るのも久しぶりだと先輩方は言う。相手は港中央高校。男女ともに強豪高校だ。私と光は観客席を降りて、少し遠目から男子のミーティングを眺める。総監督の大徳先生も一言二言に熱が入り、若手顧問の嵐先生も身振り手振りで発破をかける。
「光!!」
光が声をかけられて、思わず私も振り返る。
「あーー! 静香!! 久しぶりー!!」
どうやら光の友達のようだ。中学時代の同じ剣道部で、幼少より一緒に剣道を始めたらしい。私にも紹介してくれた。
「えっ!!! 雪代響子!? さん? あの石館中の!? 噓でしょ!?」
光の友達だけあって、なんとなく雰囲気も似ている。会話もそこそこにひたすら驚かれる。
「うん! 今は同じ総武学園だよ! って、あれ? 静香ってたしか……」
市川静香。港中央高校の女子剣道部員だそうだ。
「あちゃ~、港中央は次の総武学園男子の相手だよ。まぁ、今日は私たちが勝負するわけじゃないけどね」
久しぶりに会ったのか、光と市川さんで話に花が咲く。どうやら中学を卒業する時に高校の都大会で会おうと約束していたらしい。仲が良さそうなのを見て、なんだが私も嬉しくなる。
(いいな。中学の友達がいるっていうのは)
遠目に見ていた男子のミーティングも終わり、光に応援席に戻るよう促す。
「じゃあね! 光! 今度また地元の道場で一緒に稽古しようね! あっ! 雪代さんも機会があったらおいでよ! 私にも稽古つけてよ」
光同様、素直な子だな。こんな友達、私も中学で欲しかった。初対面だったが、思わず私も手を振り別れる。しかし、Aコート決勝戦。港中央高校は強かった。女子も強いが、男子は常にベスト8の常連高校。総武学園男子が敵うはずもなく、調子の良かった宗介もあっさり敗れて、0勝5敗の大敗で男子団体戦は今大会を終えた。
続く
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