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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十四

※其の二十三からの続きです。気軽にお付き合いください。



 「始め!!」

宗介そうすけの合図でひかり四日市よつかいちの試合が始まった。「悔しいなら剣道で負かせてみて」と言った光。何かを吹っ切ったか剣道で相対した四日市。並々ならぬ雰囲気の中、私たちはただただ黙って試合を見入る。

「イヤァーーー!!!」
「キィェーーー!!!」

気合は互いに十分。勝負のポイントはどこになるのか想像もつかない。これは2人の戦い。日野ひの八神やがみの試合で体がほぐれたか、四日市がやや優勢に試合を運ぶ。しかし、連戦になっているので四日市は体力が尽きかけはじめている。

(今度はフェイクじゃないな)

剣道をやったのもおそらく久しぶりなのだろう。何があって剣道と決別し、相馬そうまという不良グループと喧嘩ばかりになってしまったかはわからない。激しい打ち合い。ジリジリとした展開。面越しに見える互いの表情は『絶対に負けない。負けてたまるか!』この一点だ。

「コテッーー!!!」
「メーーーン!!!」

一進一退の攻防。どちらも熱くなっている。光はいつも以上に気合が入っているのか技でなく、力が前面に出ている感じだ。四日市もあれほど言われて思うことあるのか、日野や八神の時以上に強引な攻め方をする。

ガシン!!!

鍔迫り合いで面金(顔面を保護する部分)をぶつけ合い、そして互いに睨み合う。勝負と言うより死闘に近い。互いに譲れないもののために。

「はぁ……はぁ。強いね! 四日市さん」

鍔競り合いで不意に光が声を出す。

「……しゃべってんじゃね! はぁ、はぁ。お前は許さねぇ!!」

四日市も呼応する。本来は試合中に話しかけるなど絶対にあってはならない。けど、これは勝負であり試合ではない。光が間合いを取り、バランスを崩した四日市に、琴音ことね先生直伝の「突き」技を放つ。四日市の突き垂れに掠る。

「……っつ!! お前ぇーー!!!」

急に光に突進して再び鍔迫り合い状態になる。だんだんと剣道から離れた展開になる。

「突きを打ったな!! 『突き』を!!!」

いきなり力任せの展開になり、光も動揺する。

「なによ! 高校では『突き』も有効打の1つよ!! 当り前じゃない!!!」

ガチャガチャとした展開になり、これはもう剣道どころではなくなってきた。

「突きを打ったなぁー! 私に!! 私たち・・・に!!!」

周りは急に狂ったかと思うほど四日市が豹変しだした。

あれは・・・わざとじゃない! わざとじゃ!! それをどうして!!!」

鍔競り合い状態から四日市が叫ぶ。光が力で負けないよう踏ん張る。

(……私たち・・・?)

クルっと相手の力を利用して光が受け流す。完全にバランスを崩した四日市に光が快心のメンを打つ。

「メーーーン!!!」

ドッと互いにぶつかり激しく転倒する。

「光!!!」

私が思わず試合場に入り、「大丈夫か」とみんなも駆けつける。

「お、おい! 月島つきしま!!」

宗介が心配そうに光を起こそうとする。

「……だ、大丈夫。ちょっと激しくぶつかっただけ」

光は大丈夫そうだが。

「うぅ……。くっ……うぅ」

四日市の方が起き上がらない。だが、起き上がるより前に面越しに涙が床に落ちる。

「あぁ……。うぅぅ。……あぅ。ひろき・・・。ごめん……」

みんなが四日市の方を見る。

「ごめんよ……。私のせい・・で。うぅ……ひろき……」

泣いたまま立ち上がらない四日市。もうただ事でないと悟った私たちだが、どうすることもできない。

「あぁぁーー!!! うぁぁーーー!!!」

とち狂った。錯乱した。と言った表現が適切なのか。四日市こいつの中の何かが壊れた。全員金縛りにあったように動けない。光が近寄り、四日市の面紐をほどいてあげた。

「あぁ……!!! うぁぁぁ……!!! わぁぁぁん……!!!」

うずくまったまま泣き続ける四日市。光はそのまま背中を撫でてあげた。

「……大丈夫? 四日市さん」

今の今まで戦ってた相手に寄り添う光。こんなことが出来るのは光しかいない。

「……おい。日野、八神。養護教諭の先生を呼んで来い。このままじゃ、こいつ」

藤咲ふじさきが日野と八神に呼びかける。

「……あ、あぁ。古都梨ことり、行こうぜ!」

2人はすぐに先生を呼びに行った。

「ごめん、ひろき……。ごめんよ、私のせいで……ひろき」

体力を使い果たしたか、崩れるように横になった四日市を光が介抱する。その光に抱きつくように泣き続ける四日市。やがて養護教諭の先生が来て、保健室へと運んだ。これはもう大事になると思うものの、今は誰もそんなことは言わない。その後の練習をこなすには精神的にきつかったが、終わった後はさすがに気になり、1年生全員で保健室へと行ってみた。

(四日市。こいつも何か事情があるんだろうな)

そんなことを思いながら、コッコッとドアをノックして私たちは保健室へと入った。


                 続く

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