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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十八

※其の十七からの続きです。気軽にお付き合いください。



 練習が終わり、帰りの電車で私とひかりは今日のお昼にあった出来事が忘れられなくて、2人でスマホをいじる。

「……やっぱり、雪代ゆきしろさんも気になった?」

おそらく検索事項はだいたい同じだろう。

「……うん、まぁ。別に放っておいても良いんだろうけど、反射的に一発叩いちゃったし」

私もスマホと睨めっこしてスライドする。

「さっきから2人して何やってんだ? 推し活の検索でもしてんのか?」

事情を知らない宗介そうすけに光が簡単に説明する。

「うぇ! 総学そうがく不良カルテットに絡まれたのか!!」

総学不良カルテット?なんだそれは。

「知らねえのか? なんでも今年の1年女子でアウトローなのが進学校の総武学園そうぶがくえんになぜか入学してきて、見えないところで喧嘩や他校とつるんで悪いことしたりしているって噂だぜ」

こういうのは噂なのでどこまで本当かわからない。ただ現に私や光はその現場を目撃した。

「しかも、学校成績も上位らしくて先生方もよほどのことがない限りは、ほとんど見て見ぬふりしてんだとさ」

なるほど。まさに令和の不良と言ったところか。

「うーん。やっぱり、あの動きだけで剣道を絡めるのは無理あるよね」

光が諦めたようにスマホから目を離す。

「そうは言っても、距離の取り方が絶妙に上手いだけで、そいつも喧嘩慣れしているって言うなら、空手や合気道、なんなら女のボクシングだって可能性はあるだろう」

たしかに宗介の言う通りだが、あの動きは剣道だ。ペンケースを片手に相手の急所を突くのは他の武道では考えずらい。

「もういいじゃねぇか。別に剣道部に影響出るわけでもないし、雪代が反射的に身を守ろうとして叩いただけだろう。月島つきしまも巻き込まれただけだから、なにかあっても関係ねぇよ」

まぁ、私や光もスマホで検索したって意味がないのはわかっている。情報も少なすぎるし、今日の出来事を気にしすぎてもしょうがない。期末試験も近いわけだし、そっちに集中した方が良い。

「剣道やっててもそれだけで強いとも限らないし、第一そんな奴なら中学の時、雪代も月島も都大会で少しは覚えもあるだろうしさ」

たしか四日市よつかいちとか言ったな。名前もそこそこ珍しいし、都大会まで出場してないにしても中学の時どっかで記憶がリンクしそうなものだが。

「次は~~〇▽◇駅~~、千葉県方面へのお乗り換えは~~」

千葉県。私は咄嗟に閃いた。総武学園高校は都内でも端っこの方角に位置しており、隣の県から通っている生徒も少なくはない。もう一度スマホを取り出し、検索してみる。

「あっ、あった!!!」

電車内だが少し大きな声を出してしまった。光と宗介も私のスマホを覗き込む。

「う、うそ! 本当だ!」

光が驚き、さらに宗介が記事を読み続ける。

「しかも四日市こいつ! 中学の千葉県大会、個人戦で準優勝してるじゃねーか!」

驚いた。なんとなしに閃いて検索したが、まさかヒットするとは。銀メダルを片手に納まる写真も載っている。

四日市美静よつかいちみせい。千葉県立柏東かしわひがし中学剣道部。中学3年で個人戦準優勝……」

私が読み上げて、一瞬3人で言葉を失う。電車の動く音だけが耳に入る。

「ちょっと待って」

私は更に気になることがあるので検索する。

「……やっぱり。個人戦で各都道府県で準優勝以上の者は全中(全国中学校体育大会)に出場しているんだけど、四日市こいつの名前がない」

去年の全中の個人戦組み合わせを検索したが、千葉県代表で四日市という名前がない。

「どういうことだ? 怪我でもしたのか」

さすがにそこまではわからないが、これには驚いた。

「なんで剣道部に入らないのかな?」

光が純粋に言ったのはわかる。

「あっ……。そっか。雪代さんみたいな例もあるもんね」

剣道を続ける辞めるは個人の自由だ。私も剣道とは一度縁を切った。やりたくない。辞める。この一言ですべてが終わる。でも。

「……なにか理由でもあるのかも」

似たような立場の私だから言えた一言かもしれない。中学時代は全中まで出場した私。千葉県大会で準優勝するほど実力ある者。縁を切ると言っても、心にどうしても染み付き残る。後悔と言うものが。目的もなく辞めるのは案外辛いものだとも。

「まぁ、もう6月も終わろうとしているし、今更入部希望なんてのもないだろうな」

宗介が締めて、ここで3人別れた。気にしなければなんてことのない日常。ただ、昼間見たあの光景がどうも頭から離れない。一方的に絡まれて追い詰められて。状況は違えど、似たような感情を抱くのは自然なことか。そんなことを考えて今日は終わるのだが、なんとなくこのままで終わらないような気がするのは、気のせいだろうか。


                 続く

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