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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の八

※其の七からの続きです。気軽にお付き合い下さい。



 剣道には相性というものがある。これは何も剣道に限ったことではなく、普段の生活から人と気が合う合わないとか。相対した時、くみし易い相手と言うものが必ずある。剣道で言うなら動き、体格、雰囲気、とりあえずこんな所を私はまず感じる。

「始め!!」

主審を務める青木あおき先輩の号令と共に気合を入れてジリジリと様子を見る。私はそういうタイプだ。しかし。

「イャーー! コテッ! メン! メン!!」

空気を切り裂くように竹刀を振って攻めてくる。多少荒々しくも、迷いなく烈火のごとく攻めに対して自信を持つ。同じ1年の八神蓮夏やがみれんかはそういうタイプだ。

(受けに回ると不利になる!!)

強烈な攻めをギリギリ竹刀で防いで、自分のペースに持ち込みたい。かと言って、馬鹿の一丁攻めじゃないからこの八神もセンスの塊である。

(……ワザとらしく急に攻めを落ち着かせたな)

私のペースを引き出し、返し技を狙っているのか、その手には乗らない。しびれを切らすと再び烈火のごとく攻めてくる。

(タイプ的には大好きだな。こういう奴と試合するのは)

少し楽しくなった私はあえて八神の挑発に乗り、バチバチと打ち合いをする。

「メーーーン!!!!!」

激しいぶつかり合いの上、強引に攻めてきた八神の当りに耐えられず、先に1本を取られる。結局、時間内ギリギリに私も1本取り返して引き分けで終了。再び琴音ことね先生に呼ばれて八神と一緒に指導を受ける。

「チッ! もう少しだったのにな……」

背中に軽く2、3発のパンチを八神から喰らい、私は適当に離れていく。

(痛いっつーの)

八神はどちらかというとサッパリとかアッサリしている奴だ。最近は少し分かってきた。

「おい藤咲ふじさき! 休憩なんかいらねぇから、次、あたしの相手しな」

間髪入れずに同じく強敵の藤咲と試合稽古をする八神。

(こいつ、どんだけ体にエンジン積んでいるんだ。疲れ知らないのか)

私との試合後だというのに、ほとんど動きに変化がない。

(あんだけ動き回って、まだ動けるのか)

八神と藤咲の試合も良い勝負だ。だが、最初に言った通り、相性というのは必ずある。八神の攻めは藤咲にはあまり通用しているように思わない。冷静に見切った藤咲が2本の面を取り、勝負あり。試合が終われば琴音先生から指導を受ける。総武学園うちはそういった感じで試合稽古を行っていく。

八神おまえの動きは単調なんだ! そんなのが私に通用するか!」

指導を受け終わったらいつもの小競り合い。この光景もだんだん見慣れてきた。まだ八神と藤咲が言い争っている。

「メーン! ヤァァーー!! コテッ!!」
「メン! メン!!」

もう一面ではひかり日野ひのが試合稽古を行っていた。ちょうど男子は休憩中らしく、女子の試合稽古を全員で見ている所だ。

「おぉ~。月島つきしまの面はお手本のように綺麗な打ちだな~」

総監督の大徳千十郎だいとくせんじゅうろう先生が後ろで頷く。

「……。日野も……。背丈はないですが、すばしっこくて、足さばきも上手いですね……」

もう1人、今年から男子顧問を務めるあらし先生も納得している。私たちが使っていた半面は試合稽古が終わったようで、琴音先生も寄ってきた。

「今年の1年女子はかなり良いですよ! 5人共に全員力があって、先が楽しみですから!」

先生同士の会話で褒められたので、私は少し嬉しい。結局、光と日野の勝負は引き分けに終わった。練習終了後。

「それじゃ、全国高等学校剣道大会予選会のメンバーを発表します」

大徳先生が男子の名前から読み上げる。個人戦は支部予選を勝ち抜いた3年生の中川なかがわ先輩と嶋口しまぐち先輩が出場。

「団体戦は……。先鋒は1年生北馬ほくば、次鋒に2年生の徳本とくもと、中堅が同じく2年生の宮崎みやざき、そして副将が3年生嶋口、大将が3年生中川!」

1人ずつ大きな返事をしていく。男子は実力的にほぼ予想通り。宗介そうすけが2年生の上杉うえすぎ先輩を抑えて先発出場する。責任重大だ。

「じゃあ、次は琴音先生、女子はお願いします」

大徳先生が引き下がり、琴音先生へと促す。

「はい。……では」

メモを取り出し、琴音先生も名前を読んでいく。個人戦は男子と同じく支部予選を勝ち抜いた3年生の四天王の先輩方。菅野かんの先輩、西澤にしざわ先輩、宮本みやもと先輩、高橋たかはし先輩。みんな上位を狙えるだけあって意気込む。

「次、団体戦は……」

琴音先生が一呼吸おいてから。

「先鋒、1年生の藤咲ふじさき!」

「はい!」と大きな返事で藤咲が応答する。どよっとその場がザワつく。

「次鋒、菅野。中堅、西澤。副将、宮本。大将、高橋。以上3年生」

「はい」と四天王の先輩方が大きく頷き返事をする。2年生の青木あおき先輩と今里いまざと先輩、渡部わたなべ先輩が顔を合わせて舌を出す。

(2年生の先輩たちは悔しいだろうけど、みんな納得なんだな)

そんな表情が2年生の先輩の顔から見て取れる。しかし、藤咲。

(やっぱり、只者じゃないよな。あいつは)

常に志高く上を目指し、それでいて礼儀も正しい。剣道はただ強ければ良いわけではない。先生方もそれを見越して、藤咲を先発出場させる決断をしたのだろう。八神だけは面白くなさそうな顔をしていた。私は今回、初めて高校の公式試合を見ることになる。中学では全国大会にも出場した私だが、今は試合とかあまり興味がないのは、さすがにみんなには黙っておいた。


                 続く

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