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占い師ケン 第2話

 繁華街の路地で商売していると、たまに暴力団関係の方から、声を掛けられることがある。まあ、そういうときは格安で占ってあげると、問題ないことが多い。多いということは、ちょっとは何かあるのか?と思われるだろう。たまにはそのちょっとがある。親分さんを占うことになって、事務所までいくこともあった。さすがにビビったが、優しく対応してもらえたので、ほっとした。

 ある時、どうしてもオレの弟子になりたいという女の子が来た。それは無理だと言ったが、聞かない。オレの占いは統計学じゃないし、いくら勉強しても無理なんだ。絶対に弟子は取らないと言っても、執拗にオレの後を付け回すので、困ってしまった。

「本当にいい加減にしてくれ。」
「お願いします、なんでもしますから、弟子にして下さい。」
「だから、何回もいってるけど、オレの占いは絶対に誰にもできないんだ。勉強しても無理だから、あきらめてくれ。」
「いえ、絶対にあきらめられません。毎日来ます。」

これじゃ、商売あがったりだ。オレはゆうこママに相談した。

「そうね、じゃ私んとこで雇ってあげちゃおうかしら。」
「いいの?」
「この前までいたバイトの子が辞めたから、ひとりほしいところなのよ。」
「じゃ、お願いしますね。」
「わかったわ。」

ということで、オレはゆうこママのところに連れて行った。

「じゃ、ここでゆうこママのいうことを聞いてくれ。」
「えっ、私はけん先生の弟子になりたいんです。スナックで働きたいなんて言ってません。」
「あら、なかなか可愛い子じゃない。でも、ここで働けないなら、弟子にしないって。どうする?」
「そうなんですか?」
「ゆうこママのいうことを聞くか、諦めて帰るかだね。」
「じゃ、お願いします。」

オレはゆうこママに目配せした。とりあえずは、助かった。でも、その後はどうする?まあ、いいか。そのうちあきらめるやろ。

 弟子になりたい彼女、井上凛さんはOLをしていたが、オレに占ってもらって人生が変わったらしい。だから、オレの弟子になりたいんだと。まあ、ゆうこママのところで、働かせてもらえば、一応食っていけるし、問題ないだろう。

 たまにゆうこママのところへいくと、井上さんがうるさい。

「いつになったら、弟子にしてもらえるんですか?」
「さあな。」
「いいじゃないの。リンちゃん、がんばってくれているし、このままここにいてくれてもいいのよ。」
「ゆうこママには感謝していますが、私はケン先生の弟子になりたいんです。」
「それは難しいね。」
「また、そう言ってはぐらかすぅ。私は本気なんですからね。」

オレはなんどもだめって言ったはずだ。これから先は、井上さんの口撃をかわすだけにしておこう。

 しばらくは、相変わらずの日常が続いた。まあ、この方がオレは楽でいい。たまぁ~に、恵子も遊びに来てくれるし、ちょっとした事件も起こるので、それなりに楽しく過ごしていた。

 しばらくして、本屋で気になる女性に出会った。悩みを抱えている人はゴマンといるんだが、オレはその人が気になった。見てみると大した悩みじゃない。職場の悩みだ。上司の軽いパワハラと女同士の嫌がらせだ。まあ、こういうことはどこにでも転がっていることだ。でも、オレはその女性のことがなんかとっても気になった。この気持ちは何なんだろう。なんとしても、きっかけが欲しいと思った。でも、あまりにワザとらしいことになりそうで、踏み切れない。そうこうしているうちに、彼女は本屋を出て行ってしまった。オレは、なんか自分の不甲斐なさに嫌気がさした。話掛けることもできないなんて。普段は、占いで知らない人でも、普通に話をしてるじゃないか。オレはそんなことに囚われて、自分の部屋に帰った、その後、いつも占いに出掛ける時間になっても、部屋でそのことばかりを考えていた。

 突然の電話に、オレは飛び上がった。こんな時に鳴ると本当にびっくりする。

「どうしたの?今日は。」
「え、何が?」

ゆうこママだ。

「今日はお休みなの?」
「えっ、そんな時間だっけ?」

しまった、時間を忘れてた。

「病気じゃないのね?」
「うん、大丈夫。」
「じゃ、たまには休んだら?」
「わかった、そうする。あ、あとでそっちに行ってもいい?」
「いいわよ、いらっしゃい。」

まあ、占いの仕事にいくか、いかないなんて、オレ次第だから、本当はたまに休んでもいいっちゃ、いいんだけどね。

 オレは未だに本屋で出会った女性が、気になって仕方がない。なんでこんなに気になるんだろう。気が付いたら、遅い時間になってしまった。オレはゆうこママの店へ行った。

「あら、いらっしゃい。」
「こんばんわ。」
「師匠、遅いですね。」
「いつものでいい?」
「お願いします。」
「めずらしいわね。ケンちゃんがお休みしたなんて。」
「だよね、365日休まなかったもんな。」
「どうしたの?」
「日中に見かけた女性が気になってね。」
「大変な運命を持ってる人?」
「いや、そんなことはないんだ。ごく普通の悩みだよ。」
「じゃ、アレしかないわね。」
「ゆうこママ、絶対そうですよね。」
「アレって?」
「こういうことは本人がわからないのよね。」
「えっ、教えてよ。」
「一目ぼれですよ、師匠。」

えっ、そうなのか。そういえば、なんか胸がキュンとする。

「そうかな。」
「そりゃ、そうでしょ。間違いないわよ。」
「キュンキュンしてるんじゃないですか?」
「確かに。」
「やっぱり。」
「で、で、どんな人?」
「うまく言えないですよ。」
「じゃ、一度連れて来なさいよ。」
「そんな、簡単に声を掛けれたら、こんなに思い悩んでないですよ。」
「思い悩んでるんですって。」
「ケンちゃんにも、やっと春が来たわね。」

なんかいいように遊ばれている気がする。その夜は、オレの話で盛り上がった。

 次の日も本屋に出掛けた。昨日会った時間にだ。でも、普通はそう毎日、本屋に来ないだろう。当然、出会えることはなかった。ここから、オレの本屋通いは始まった。まあ、出会えること皆無だった。でも、なんかまた会いたかった。見ているだけでもよかった。それから2、3ヵ月が経って、占い師のオレのところに、彼女が来たのだ。彼女は、職場の同僚の女性と、二人でオレのところにきた。

 待ちに待った彼女に会えたオレは、胸の高鳴りを押させることができなかった。こういう時、この占い師の衣装はありがたい。ドキドキしていても、わからない。

「あの、お願いできますか?」
「いいですよ。」

今回はこの同僚の女性の方だ。

「あなたの方ですね。」

ビクっとしてた。このまま、今の職場で働くのがいいのか、転職した方がいいのかだ。

「あの私・・・」
「何も言わなくて大丈夫です。」
「えっ、そうなんですか?」
「転職すべきかどうか、悩んでいるんですね。」
「すっごい。」
「はっきり言っていいですか?」

オレのこの同僚の女性への言動が、こちらの女性にどのように映るのか、気になった。

「はい、お願いします。」
「あなたをお誘いしてくれている人は、とってもいい人なんですが、その会社は3年後倒産します。」
「えっ?本当ですか?」
「今の会社は倒産しません。」
「じゃ、転職しない方がいいと?」
「いえ、転職しないと、未来の旦那様に会えないです。」
「あなたは転職して、すぐに未来の旦那様と恋人同士になります。彼は、自らの手で会社を興していこうとします。あなたはそれをサポートして下さい。2年も経たないうちに、二人とも会社を辞めて、新しい会社を立ち上げます。その会社は3年我慢すれば、しっかり成長していきます。」
「なんで、そんなことがわかるんですか?」
「信じるか信じないかは、あなた次第です。私はあなたの未来を予言しただけですから。」

横で聞いていた彼女は、どうみても疑心暗鬼の表情を浮かべていた。

「じゃ、もし、転職しなかったら?」
「あなたは8年間、現状維持です。」
「彼氏は?」
「できません。」
「ずっとですか?」
「いえ、その8年間は、ということです。」
「いつ彼氏ができるんですか?」
「8年後、ようやく付き合える彼氏ができますが、その彼氏は働きません。だから、あなたはその彼氏を食わせるために、また懸命に働かないといけなくなります。」
「じゃ、結婚は?」
「その彼氏とは結婚しません。」

ねえ、この占い師、眉唾よ。オレが気になっている彼女が、占っている彼女に小声で言った。聞こえてるって。

「わかりました。ありがとうございました。おいくらですか?」
「あなたが出せるだけでいいです。」
「じゃ、これで。」

オレは五千円を頂いた。オレが気になっている彼女には、印象が悪かったみたいだ。かなり凹んだ。でも、今回は名前をゲットした。彼女は室田未希(むろたみき)さんといった。だが、オレは印象が悪いことを嘆いた。

「ああ、ショック。」
「どうしたの。」
「せっかく会えたのに、いい印象じゃなかったみたいなんだ。」
「あらら。」
「師匠、占いは天下一品なのに、こういうことはまるでだめですね。」
「落ち込むわ。」
「少しは情報取れたの?」
「名前だけね。」
「よかったじゃない。」
「でもどこに住んでいるかもわからない。」
「あんまり、やり過ぎると、ストーカーで訴えられるよ。」
「だろ?最近は何もできない。」
「可愛そう。」
「当分、落ち込むわ。」
「今までも、落ち込んでたじゃない。」
「そうだよな。」
「で、なんて名前?」
「室田未希さん。」
「師匠、それ直接聞いたわけじゃないでしょ?」
「そうだよ。」
「なんで、わかるの?」
「だから、オレにしかできないこと、だからだよ。」
「じゃ、私どうしたら、師匠みたいになれるの?」
「だから、何回も無理って言ってるだろ?」
「え~っ、そんなぁ。」

今頃、言うか。

「占いだめなら、どうするの?」
「どこにもいくとこないので、ゆうこママ、お願いします。」
「了解、ずっと雇ったげる。」
「は~い、ありがとうございます。」

 それからまた、オレの悶々とした日々が続いた。なんで、自分の将来のことはわからないんだろう?オレの占いは、他人しか無理なんだ。でも、未だに未希さんのことを思うと、キュンとしてしまう。また、会えないかなぁ。

 2週間も過ぎただろうか、オレは占いの仕事を終え、炉端に向かった。店に入ると、未希さんが目に飛び込んできた。あの時の友人と一緒だ。オレはその近くに座った。よく聞こえる。オレは聞き耳を立てながら、注文した。

「どう思う?あの占い師、絶対おかしいよ。」
「そうかな。」
「普通は、あんなに詳しく言えないもん。」
「でも、何も言わないのに転職のこと、言い当てたわよ。」
「どこかで、聞いていたんじゃない?」

そんなわけないだろ。

「転職先の知り合いのことだって、言い当てたし。」
「う~ん。でも、なんか眉唾なのよね。」
「私は信じられるような気がするの。」

同僚の方がオレを信じて、未希さんは信じてないのか。二人は延々とその内容について、話をしていた。

「そろそろ、帰んなくっちゃ。」
「もう、そんな時間?」
「帰ろう。」
「うん、お勘定は?」
「持った。」

二人は出ていった。あ~あ、また、進展なしか。ふと、見ると、パスケースが落ちている。オレはそれを拾い上げた。

 室田未希、26歳、歳はオレより上か。社員証も入ってる。〇〇物産株式会社、総務部、ああ、あそこか。定期と社員証・・・だけか。明日にでも会社へ持って行ってあげよう。考えれば、これは直接話をすることができるチャンスじゃないか。なんか、ワクワクしてきた。

 翌日、オレはそのパスケースを持って、〇〇物産へ向かった。

「あの、総務部の室田さんをお願いします。」
「はい、少々お待ちください。」

オレはかなりドキドキしている。これで彼女と初めて話ができるんだ。彼女がやってきた。

「室田ですが。」
「あの、昨日、居酒屋でコレを見つけたもので。」
「あ、私の・・・」
「はい、お返しします。」
「ありがとうございます。」
「では、これで。」

 オレは、にこやかな顔をしてオレを呼び留めて、お礼にって、言ってくる彼女を想像していた。だが、オレの耳に飛び込んできたのは、受付の女性との会話だった。

「これって、あぶないんじゃない?」
「似たような映画もあったじゃない、〇〇を落としたばっかりにって。」
「だよね。」
「気を付けた方がいいわよ。」
「わかった。」

(つづく)

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