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ちゅっちゅ、ちゅっちゅ、中学生

小学校6年生になった娘がドラムを叩く。

数年前の夏休みに行ったお祭りで、たまたま知り合った友人のお宅に誘われるがままお邪魔して、たまたまそこにあったドラムセットを、たまたま叩いてみたら、電撃が疾ったようだった。音楽バカの夫は二の足も踏まず自宅に電子ドラムセットを購入し、娘は以来週一回レッスンを受けている。親バカ承知で言うが、なかなかセンスも良く、飲み込みも良いし、何より叩く姿がカッコイイ。

そんなドラムレッスンの先生が開催するセッション会に先日参加してきた。先生が集めた音楽仲間のプロミュージシャン達がミニライブを行い、その後生徒さん達が各々持ち曲をミュージシャン達に混じって披露する。ミニライブのテーマは『Puffy』。『愛のしるし』からはじまり、『これが私の生きる道』、『サーキットの娘』、『渚にまつわるエトセトラ』、そして『アジアの純真』というラインアップであった。最近SNSでリヴァイブしているそうで、歌うのはハタチ前後の可愛らしいお嬢さんふたり。ルックスもPuffy仕立てである。大学時代からJ -POPを、もうずうっと聴いてこなかった私は、プルーストのマドレーヌのごとく、12歳時分にぐわあっと引き戻された。隣に座る娘も小学6年生。親娘して目を輝かせ、手拍子を打ち、大いに楽しんだ。ミニライブの後、娘がセッション曲『Pretender』を披露し、他の生徒さんもそれぞれの選曲で続いた。

予定していた曲を全て終え、参加者が少し帰ったあたりで、ヴォーカリストとして歌を担当していた女性の娘さんがギターを弾くと言うので、私の娘も一緒にドラムで合わせた。はじめて会う中学1年生と、小学6年生がフィーリングだけで演奏を始める。曲のクオリティーなんかより、音楽っていいなぁとしみじみ思わせるものがそこにあり、今日の仕事は終えたはずの、ミュージシャン達も次々と楽しそうに演奏に加わっていった。それを見ている私は、なんだか懐かしいような甘酸っぱい、初恋に似た感情に陥り、一瞬「しまった」と思った。誰にかもわからないが「恋に落ちた!?」と思い、周りを見まわしたが、そこに恋の対象はいない。私は12歳に戻ったまま、新しい世界の扉の前に立つ気分を娘を通じて、再び感じていたのだった。

今まで幼少期について多く書いてきた。あの頃の私はある程度成仏したのではないかと思う。もうnoteに書くこともあまりないなと思っていた近頃であった。そこに『Puffy』によって揺り起こされた思春期の私が胸の戸を叩く。私の事も忘れないでよと。

あまり楽しい思春期ではなかった。とても窮屈で劣等感をたくさん抱えて、拒食気味にもなった。ずっと自分にとって自分は刷新せねばならない対象で、好きだったはずのものを恥じ、再構築が必要なほど自分で自分が好きではなくなっていた。それでも今の私より、彼女は自分に正直であり、心の所在もはっきりしていたと思う。中高一貫の女子校に通う過程の中で置き去りにした自分と、その後NYに行くことでさらに痕跡を消した自分。成長の通過儀礼くらいに思って、ちっとも気を配ってこなかった、その女の子がぼんやりとした声を上げている。以前心のありかについて書いたが、もしかしたら抹消したはずの、思春期の私がその心への地図を持っているのかもしれない。

そんなことを、興奮冷めやらぬセッション会の夜、布団の中で眠れずに考えていた。



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