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小さな黒い箱

小さな黒い箱  2019年7月12日

 ジョージ・ハヤシは新宿の高層ビルの9階で開かれているカルチャーセンターの一教室にいた。小説を書く講座は8種類で、ジョージ・ハヤシが参加しているのは改造・修復・添削のクラスだ。痛んだ古い美術品を修復するように、小説にも修復というものがあるのだ。近年これがブームになっていて、とくに劣悪な修復が流行している。
「さてジョージ・ハヤシが今回選んだ作品はなんだ。」講

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高い塔の男

高い塔の男  2019年7月1日

 ミスター山田は雲の上で朦朧としていた。いま自分が雲の上にいるのか、それとも雲と同化しているのかと聞かれると、はっきりわからない。雲に同化すると、惑星を取り巻くすべての雲が自分の手足になり、あらゆる方向からの情報を直接受け取ることができる。雲の成分は地上に生きている生き物の成分とほとんど同じだが、重い成分が減り、軽い成分が増えるというふうに比率が変わってくるので

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対話篇、12感覚の坂

対話篇、12感覚の坂 (17) 2019年4月28日

「ところでカウント君はおとめ座は視覚に対応すると説明していたね。今日はこの12感覚についてもう少し詳しく教えてほしい。そもそも感覚は本質ではない。意識とか生命というものが本質だとして、それを包み込む重たい被膜みたいな質量性が感覚だとすると、それは受動的で中身がないものなので、感覚の意見を聞くことなく一方的に改良したり変えたりすることも可能だと

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対話篇、ハヌマーン (16)

対話篇、ハヌマーン (16)  2019年4月22日

 カウントとケスラーは新宿東口にあるトルコ料理店にいた。カウントは偏愛するフュムスだけを注文し、お店に特別に用意してもらったジョロキアをふりかけて、スプーンでちびちびと食べていた。ケスラーはお店のお勧めを注文し興味なさそうに食べている。偏食者と食べ物に関心のない二人組は、このお店からするとあまりいい客ではないようだが、実は常連なので店主はこ

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対話篇、エニアグラム (15)

対話篇、エニアグラム (15) 2019年4月16日

 いつものようにカウントとケスラーはカフェで会っていた。このカフェは、カウントの好きな蜂蜜が置いてあり、それをコーヒーに多めに入れる。ケスラーは持参のブランデーをコーヒーに0.5ミリの高さ加える。熱いコーヒーからはブランデーの香りが立ち昇るが、いまのところ周囲の客に気づかれたことはない。ネット記事ではこのカフェの客には年収一千万円以上の女子が

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対話篇、夢の六角堂(14)

対話篇、夢の六角堂 (14) 2019年4月6日

 三月も終わりに近づき、お花見の時期になった時、ケスラーはカウントをお花見に誘った。千駄ヶ谷から千鳥ヶ淵までタクシーに乗り料金は2330円。平日の昼にもかかわらず千鳥ヶ淵にはもうたくさんの花見客が詰め掛けていた。しかし見たところ、日本人は少なく外国人ばかりがカメラを持って歩いている。日本人は平日は会社にいるだろうから、この時間帯に外を歩いているの

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