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大人になって出会い直す『蛇にピアス』

金原ひとみの『蛇にピアス』を再読した。

「スプリットタンって知ってる?」そう言って、男は蛇のように二つに割れた舌を出した―。その男アマと同棲しながらサディストの彫り師シバとも関係をもつルイ。彼女は自らも舌にピアスを入れ、刺青を彫り、「身体改造」にはまっていく。痛みと快楽、暴力と死、激しい愛と絶望。今を生きる者たちの生の本質を鮮烈に描き、すばる文学賞と芥川賞を受賞した、金原ひとみの衝撃のデビュー作。

背表紙より


マセガキだった中2の頃に初めて読んだ時は、
暴力的かつエッチな本だとしか思っていなかった。
派手な髪の若者たちが血を滲ませながらピアスの穴を拡張して、酒飲んで暴れて、性行為して、刺青を入れる…。どれも見たことがない現象ばかりで中学生の私にはさっぱり分からなかった。これが金原ひとみとの出会いであり、純文学との出会いだった。


第130回芥川賞。当時金原ひとみさん20歳!


さて、私は大人になっていた。
再読しながら、作中に出てくる場面をだいたいイメージできるようになっていることに気づいた。日付が変わった後の歓楽街のアンダーグラウンドが優勢になる空気とか、耳たぶにコインほど大きな穴がある男がニードルで客の耳を刺すスタジオの存在を知っている。

ストーリーを追うことに必死にならなくてもよくなった今、改めて読むと途端に心が震えた。

『蛇にピアス』には嘘がないのだ。
出てくる人間たちが皆生きていることを、著者が正確に描写している。ちぐはぐな作り物の登場人物ではなく、本当に絶望したり歓喜したりある時は無だったりする生身の人間なのだ。
しかもその登場人物たちが向こう見ずの未成年なのでむき出しの本能が感じられる。

そういえば、本能だけで行動するってこういうことだったか。忘れていた。

一人称の小説なので出てくる言葉は若者風で、荒っぽくて、語彙少なめ。最初から最後まで派手な女が派手な男達と狂っている様子を彼女と同じ視点で見ることができる。きっとまだ彼女の声は甲高い。

そして、自分ならこうするかも等と考える暇もなく、自分と主人公がほぼ同一になるほどぐんぐん読まされて、突然パッと物語が途切れて終わる。フィクションだったんだと気づく。本能で生きる「生身の人間」がさっきまですぐそばにいたことを思い出しながらやっと自分の「生きる」について考える。

こんな強烈な装置だけど、書くとなるととんでもなく繊細な仕事なんだろうなぁ…!
読後、今度は金原ひとみの凄さにしびれた。
とにかく『蛇にピアス』に出会い直すことができて嬉しかった。涙が出ないタイプの感動もあるのね。

以上、私の大切な本の一つの紹介でした。

蛇にピアスが食糧とともに実家から届いた時。
再読前はエッチな本だと思っていた為
親に送ってと言うのが恥ずかしく
伊豆の踊子のついでみたいなふりをしてた…(笑)

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