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幼馴染「何?」男「アッ…ソノ…(久しぶりに一緒に帰ってやってもいいが?)」[2]

男「えっ(パアァ)そ、そうだな!帰ろう!一緒に!2人で!」

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男「(幼馴染…ふふっ…一緒に帰りたいだなんて…別に俺は毎日一緒に帰ってもいいんだぞ。)」

幼馴染「ねぇ…聞いてる?」

男「ん?」

幼馴染「私、男には他の友だちも作ってほしいなぁって」

男「え、うーん…でも、別に俺は幼馴染がいれば…」

幼馴染「友だちじゃなくても、誰か他の人とも話したらいいのに。」

男「う…まあ…善処します。」

幼馴染「うん。」

幼馴染「あ、家着いたね。」

男「あ…」

男「ま、まあ、俺はもうちょっと話しててもいいんだけど…」

幼馴染「でも勉強もあるし。」

男「偉いなぁ幼馴染は。で、でも、たまには息抜きも必要だぞ!あ、そうだ、近くの自販機で飲み物でも買わないか?(アセアセ」

幼馴染「うーん」

男「な、なんなら、今なら、奢っちゃおうかな…なんて…」

幼馴染「いや、別にそれはいいけど。」

男「そ、そっか…」

幼馴染「やっぱり今日はもう勉強するね。男も勉強したほうがいいよ。」

男「う…」

幼馴染「じゃあね。(ガチャバタン」

幼馴染の家の扉が閉められた。

男「……ちぇっ」

男「まったく…せっかく卒業式の日なんだし、もうちょっと付き合ってくれてもいいのに…」

男「…まあ久しぶりに一緒に帰れたし…話せたし…ふふっ…今日はいい日だな…」

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その日以来、幼馴染とは話していない。
中学に上がって、幼馴染の友だちはさらに増えた。
そして幼馴染から俺に話しかけることは無くなった。

まあ、別に友だちは多いほうがいいだろう。
そっちのほうが楽しいのかもしれない。

ただ、たまには俺のことを気にしてくれても良くないか?
今高2だから、もうちょっとで5年だぞ…?

せめて正月とか、ハロウィンとか、クリスマスには一緒に過ごすとか…

…せめて…俺の誕生日とか。

毎年ちゃんとパーティーの準備してるんだぞ?
まったく…。

前までは一緒に過ごしてたのに…。

…1人だと…案外寂しいんだぞ…。

そんなことを思いながら、
今日も幼馴染と女友だちの帰り道をこっそりつける。

幼馴染が通った道を通るから、幼馴染の新鮮な匂いをかすかに感じる気がするし、最近はこれが外での唯一の癒やしである。

男「(まったく…今日は初めて勇気を出して話しかけたのに…もうちょっと聞いてくれてもいいじゃないか。…まあ、久しぶりに話せたから良しとするか。これは偉大なる進歩である。ふっふっふ…この調子で話しかければ…またいつか…一緒に…。)」

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幼馴染が女友だちと別れて家に入るのを見届けると、しばらく時間をおいたあとに俺も自分の家に入る。

男「(ガチャ)ふぅ…今日も疲れたな…」
猫丸「男おかえり!」
男「ただいま猫丸」

こいつは猫丸。
幼馴染が幼稚園のときに誕生日プレゼントでくれた猫のぬいぐるみだ。

幼馴染が他の友だちを作れと言うから、
俺は猫丸を2番目の友だちとしている。

いわば頼れる相棒だ。

え?ほんとに喋ってるのかって?

…まあ、実際はただの俺の脳内会話なんだけど。
(俺が幼馴染以外と話せるわけないじゃないか。怖いし。)


猫丸とはいろんなことを話している。

今年の幼馴染はこんなにかわいいとか、

幼馴染にどうやってアプローチしたらいいかとか、

幼馴染の今年の誕生日プレゼントは何がいいかとか
(小学校以来渡せてないが)、

あと、たまに学校の目立たない場所で一緒にお昼を食べたりもしている。

つまり、正真正銘の友だちである。


男「おい猫丸、今日はすごいぞ!ついに幼馴染に話しかけたんだ。実に5年ぶりだぞ!」

猫丸「!?すごいじゃないか男。ついに第一歩を踏み出したんだな。」

男「ああ、長かった…この5年間どうやって話しかけようかずーっと考えてたからな。努力が実ったよ。ふっふっふ…このままいけば…いずれはまた幼馴染と一緒に過ごせるぞ!今日はパーティーだパーティー!」

そう言って俺は厳重な鍵が付いた自分の机の引き出しをあける。

引き出しの中には、
幼馴染のあるゆる写真、いつか幼馴染と行きたいところリスト、幼馴染に向けて書いた大量のラブレター(まだ1つも渡せていない)、幼馴染から貰った誕生日プレゼント、小学校のときに幼馴染がくれた単なるメモ書きから、幼馴染が給食で牛乳を飲むときにビニールからストローを取り出したときのそのビニール片まで、多種多様な幼馴染グッズが入っている。

なんでそんなメモ書きやビニール片まで入っているのかって?十中八九、間接的に幼馴染の手の温かさと香りを感じることができるかもしれないからである。

普段はそういったこまごまとした物で幼馴染成分を吸収するのだが、今日の俺は違う。

俺はその引き出しの中からひときわ輝く宝物を出した。

幼馴染が小学校6年のバレンタインにくれた手作りクッキーである。

腐ってるって?

そんなことは愛の前には関係ないのさ。

せめて冷凍庫に入れておけって?

それじゃあ幼馴染の風味がかすんでしまう。

とにかく俺はこの神々しい食べ物を今までもったいなさすぎて食べれなかった。

しかし今日、俺は世紀の大進歩を遂げたのだ。

この進歩はクッキーを食べるに値するであろう。

慎重に袋を開け、形が崩れないようにゆっくりとクッキーを取り出す。

男「ふふ…美味しそう…なーちゃんの手作り…なーちゃんが触ったクッキー…いただきます!」

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その後俺はしばらくトイレから出てこなかった。

続く

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