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読書メモ:いまこそ税と社会保障の話をしよう

基本情報

『いまこそ税と社会保障の話をしよう』
井出英策(慶應義塾大学経済学部教授)
2019年12月19日発行

「税」の話となると、増税か減税か、また、「消費税」たまに「所得税」がのことで、全体の話ではなく、パーツの話が多いと思い、全体的なことを勉強したいと思い、手に取った一冊である。
講演式で書かれており、冒頭に著者の問題認識・課題を話し、会話形式で議論を深めていく本書。著者の生い立ちを起点にした社会に対する課題から税と社会保障に関する考え方を独自の視点で解説されている。

構成

第1章 勤労国家・日本~「働かざる者食うべからず」の自己責任社会
第2章 僕たちの社会は変わってしまった~大転換する日本経済
第3章「頼りあえる社会」は実現できる~ちょっといい未来を想像してみる
第4章「経済の時代」から「プラットフォームの世紀」へ

感想

増税か減税だけを聞かれれば、多くの人にとっては、手元にお金が残る減税を選択するはずである。また、消費税は買い物をする度に目にするし、会社員であれば、毎月の給与明細で所得税を見ているので、この二つに関しては、比較的関心を持ちやすいだろう。
本書では、その前提となる日本「社会」の成り立ちから振り返り、現在の状況を整理した上で、著者のめざす社会、そして、社会保障の形を提示している。

「働かざる者食うべからず」ということは、私自身小さい頃から当たり前のように受け入れていたが、大人になってから少し違和感を感じるようになった。なんらかの事情で働きたくても働けない人たちが現実に存在しており、そのような人々の存在価値を「経済的価値」だけで図っている気持ちの悪さを感じるようになったからである。

著者は、働いて稼ぎ、自己責任や自助努力の名の下に自分で自分の将来設計をしないといけない国家を「勤労国家」と名付けた上で、疑問を投げかけている。
そして、90年代に入りバブルがはじけ、日本経済の構造が変わる中で、著者の考える目指すべき社会を提示している。
それは、具体的には北欧をモデルに消費税を増税し、社会保障サービスに回し、徹底的に暮らしを保障する社会である。
消費税は、確かに逆進性が高く低所得層に厳しくなるが、逆に富裕層からも公平に徴収することができる。また、現金給付だともらえる人ともらえない人で分断を生み、対立を生むことになる。暮らしに関わるサービス(教育、介護等)給付であれば、目に見えない上で必要な人しか使わないため、さらに少ないコストですむ

著者は一時期民進党の政策立案に関わっていたことが書かれているが、残念ながら分裂してしまい、今は政党と関わることはしていないとのことである。

著者の提示した社会像、税と社会保障の形は細かい箇所で気になることはあるが、消費税の増税が必要であったとしても大きな方向性としては理解できるものである。
目指すべき社会・社会保障のために、税がこれだけ必要ということであれば、議論は可能だろうし、本来はそういう議論をしていかないといけないはずである。

だが、本書が発行された当時よりも政治への不信が高まっている現状では、現実的には議論さえ難しいと思うが、「実現可能性のある政策と政策を闘わせる王道へ」立ち返る政治をして欲しいと一市民として願わされた一冊であった。


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