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褒めるのなら出版してくれよ

14年程勤めているコールセンターの仕事だが、ここ最近少し大きな出来事があり、今年の秋で別のセンターに移動するか、もしくは転職するか決めなければいけない事になった。その後社内で色々対策が検討され、とりあえずは一旦今の仕事を続ける方向で話は進んでいるのだが、14年ぶりに「転職活動」が視野に入り、とりあえずここ最近求人サイトを見る機会が増えたのだ。色々な仕事があるのだなあと見ているとふと、本の「自費出版」の営業職を募集している会社があった。
へえ!今もまだそんな営業があるのか、絶対にやりたくないな…とふと過去の出来事がフラッシュバックした。

というのも、私が「小説的な物」を書いて投稿していた2000年代初頭、賞に落選した応募者をカモに自費出版を勧める営業がものすごく多かった時代で、何を隠そう私も某出版社の自費出版?(少し形式は違うが必ず本が一冊は出せ、他にも執筆の仕事が回ってくるという体のサークル的なもの)にひっかかった事がある。その出版社の「超短編大賞」的な公募に応募し、後日出版社の方から直々に電話があり、「佳作でした」と言われ、色々褒められ、二十歳の私は言いくるめられてしまい、お金が全くないにも関わらず親に内緒で高額のローンを組んで結局一年払い続けて解約してしまったという苦い思い出があるのだ。人生でお金がらみで失敗した時によく「勉強代」と言うが、これぞまさに「高い勉強代」だった。

私が加入したそのサークル的な物は、別に詐欺というわけではない。一応ごく一部の大型書店にその会に入っている人が出した本のコーナーもあった。実際に加入後すぐに「幸せをテーマに原稿用紙2ページ程の短編を書いて下さい」と依頼があり、返送すると後日他の同じ会に入っている人達の短編と合わせて一冊の本となり送られてきた。一時期アマゾンでも売られていたので一応商業流通していた事になる。もちろん印税などはなかったが、謝礼として図書カード二千円分も送られてきた。
また本が一冊必ず出せる、というのも本当だった。加入したからにはもう本を出すしかないと思い原稿を送ると、後日一応赤ペンでチェックされた原稿と書評がちゃんと返ってきた。ただ、これもかなりゆるーい物で今考えると本当に「てきとー」に対応されていたのだなと思う。賞も取れやしないずぶずぶの二十歳の素人が書いた小説にちょちょっと赤ペンを入れ「こことここをちょっと直したらすごく良いですよ。そんなにたくさん直すとこもありません。この調子でいきましょう」的な事を書き、本を出させ、おそらくだが途中解約させないようにしていたのだなと思う。結局私は途中で嫌になり、本も出版せず、一年払い続けた後に途中解約した。隠していたが実は母親にもバレており、がっつり叱られた。

それ以外にも別の出版社の賞で二次まで通って落ちた時に、頼んでもいないのにかなり立派な「見積書」が自宅に届き、連日自費出版のお誘い電話がガンガンかかってきていたのも覚えている。

勧誘してくる人は皆口々に私の作品を褒める。簡単に「才能があると思います」なんて言う。酷い人は「ほら、よかったですよあの作品。えーーと、すいませんなんだっけ、ちょっと日がたってるから忘れちゃいましたけど、とにかく良かったですよ才能を感じました」なんて失礼な事ぶっ込んでくる。
身の丈をわかっている大人ならこんな事言われてもきちんと断れるだろう。「あら嬉しいわそんなに褒めて下さるのならおたくで出版させてあげてもかまわなくってよ」などの嫌味の一つでも言えるだろう(無理か)
だが当時私は二十歳そこそこで、色々あって就活にも失敗し、少し前まで何者にでもなれると思っていたのに、急に何者にもなれないんだという現実を突きつけられ、田舎の実家で親のスネをかじり、母親の貯金箱からこっそり500円玉を抜き取るような絶望的な日々を送っていたので、「もうこれにかけるしかない!!」だなあんて錯覚してしまったのだった。

今となってはいい思い出で、よく友人にも「昔こうゆう事があってさ〜」なんて笑いながら話しているが、当時は本当に落ち込んだ。自費出版自体を否定するわけではないが、勧誘する相手はぜひ見極めてほしい。ある程度、お金に余裕がある大人で、人生に一度くらいは自分の本を出してみたい、思い出を作りたい、など思う人にはいいと思う。でも今の時代は自費出版以外にも様々な媒体で自分の作品を読んでもらえる機会が増えているのだから、早まって判断せず、まずはお金のそれほどかからない方法でチャレンジしてみてもいいと思う。私のような「高い勉強代」を払ってしまう若者が一人でも減る事を祈る。

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