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#482 法律上の親子関係と養育費請求の権利濫用

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【 今日のトピック:法律上の親子関係と養育費の権利濫用 】

今日,自分のブログを見返してみたら,めちゃくちゃ勉強していてビビりました。

手前味噌ですが,↓の自民党の歴史シリーズ,とてもオススメです。

せっかく仕入れた知識も,今では結構忘れていますが,読み返して少し思い出しました。

やっぱり,茂木誠先生,めちゃくちゃいいです。最近YouTubeの動画もあんまり見なくなってしまいましたが,また見るようにしましょうかね。

さて,今日は,なんか難しそうなテーマですが,少しずつ解説していきます。

まずは「法律上の親子関係」からです。

当たり前ですが,人間には,必ず父親と母親がいます。ここでいう「父親」と「母親」は,生物学的な意味です。

つまり,あらゆる人間は,最初は,たった1つの精子とたった1つの卵子ですが,その「たった1つの精子」を提供した人が,生物学的な意味での「父親」で,「たった1つの卵子」を提供した人が,生物学的的な意味での「母親」です。

だから,あらゆる人間に,「精子提供者」という意味での「父親」と,「卵子提供者」という意味での「母親」が必ず存在するのです。

しかし,精子提供者,つまり,生物学的な父親が,必ずしも「法律上の父親」とは限りません。

同じように,卵子提供者,つまり,生物学的な母親が,必ずしも「法律上の母親」とは限りません。

僕は別に,養子のことを言っているのではありません。僕が今日話題にしているのは,養子ではなく,実子です。

「実子」とは,その漢字の意味するとおり,「実の子ども」を指します。

実子から見た親を「実親」と呼びますが,「実の親」として,多くの人は,「精子提供者」と「卵子提供者」を意味すると思うでしょう。

しかし,法律の世界では違います。精子提供者ではない男性が,法的に「実親(実父)」であるという状況は,あり得ます。

同じように,卵子提供者ではない女性が,法的に「実親(実母)」であるという状況もあり得ます。

普通の感覚と違う,と思われるかもしれませんが,法律は,生まれた子どもに法的に親がいないという状況をなるべく回避したがっているのです。

今の医療技術をもってすれば,生まれた子どもの母親も,父親もすぐには判断できない,という状況が十分あり得ます。

父親がすぐには判断できない,という状況は,昔からありました。

出産は女性の単独作業なので,生まれた子どもは,生んだ女性の子どもであることは間違いないのですが,その父親が誰なのかは,すぐには確定できません。

そこで,法律では,生んだ女性が結婚している場合は,父親は生んだ女性の夫であると,とりあえず認めることにしました。

そうすれば,生まれた子どもに法的に父親がいない,という状態を回避できるからです。

仮に生んだ女性が結婚していなければ,法律上の父親を,「認知」という手続きで確定する必要があります。

「認知」によって,法律上の父親が確定するまで,生まれた子どもには,法的に父親がいない状態が継続します。

どこかに生物学的な父親(精子提供者)がいるはずですが,その弾性も法律上の父親ではないので,法的な養育義務は負わないままです。

これは子どもにとって不都合なので,相手の男性が自発的に認知してくれない場合は,「裁判認知」といって,無理やり「認知」させる方法(無理やり法律上の父親にさせる方法)が用意されています。

そして,今の時代は,父親が不明なケースだけでなく,母親が不明なケースも出てきました。「代理母出産」です。

代理母出産では,生んだ女性と卵子提供者が別です。

今までは,「生まれた子どもの母親は生んだ女性」という図式が崩れることはなかったのですが,医療技術の進歩によって,かつての常識からは考えられない事態が起こるようになりました。

ただ,日本の最高裁判所では,代理母出産であっても,「生まれた子どもの母親は生んだ女性」という図式を崩さない,と結論づけました。

その結果,卵子提供者と母親がズレる,という事態が,日本の法律では想定されている,ということになります。

しかしながら,「精子提供者と父親がズレる」という事態は,昔から存在しました。

先ほどは,「認知」についてお話しましたが,これは,法律上の父親が「存在しない」状態を解消し,法律上の父親を「作り出す」という手続きです。

これに対し,法律上の父親が存在するのだけれども,その法律上の父親が生物学的な父親ではない場合に,法律上の父親を消去する,という手続きがあります。

「嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)」と呼ばれるのですが,父親が,自分の実子として戸籍上登録されている子どもについて,その「父」の欄に書かれている自分の名前を消去する手続きが用意されています。

というのも,先ほど説明したように,結婚している最中に生んだ子どもの父親は,生んだ女性の夫であると,とりあえず認めると法律に書かれていて,その結果,生まれた子どもは,生んだ女性の夫が父親として戸籍上登録されてしまうのです。

しかし,実際は,生まれた子どもの生物学的な父親が,生んだ女性の夫ではないこともあり得ます。

生んだ女性が不倫していて,その不倫相手が父親である,というケースです。

その場合,↑の「嫡出否認」という手続きで,生んだ女性の夫は,自分の子どもであることを否定することができます。

否定した後,その子ども「父」の欄は空欄となります。法律上の父親がいない状態となるのです。

父の欄を埋めるためには,「認知」が必要になります。生物学的な父親(精子提供者)に対して「認知」を請求し,その人が認知を了承するか,あるいは,了承しない場合に「裁判認知」によって無理やり認知させれば,法律上の父親が確定し,「父」の欄が埋まります。

子ども,または生んだ女性は,そうやって確定した法律上の父親に対し,養育費を請求できるようになります。

自分の子どもであることを否定した父親は,その子どもに対する養育義務からは解放されます。

ただ,「嫡出否認」は,期間制限があります。子どもが生まれたことを知ってから1年です。

もし仮に,同居する妻が子どもを生んだ場合であれば,子どもが生まれた日から1年です。子どもが生まれた瞬間に,子どもが生まれたことを,父親も「知る」からです。

この期間制限が過ぎた場合,父親は,自分の子どもであることを否定することはできなくなります。

その結果,自分が精子を提供していない子どもの「法律上の実父である」ことが確定し,養育義務を負担することになります。

子どもが未成年の場合に養育義務を負担しますし,子どもが成人になっても,親子関係を否定できないので,「扶養義務」は負担し続けます。

これが,今の法律の結論です。

生物学的な親子関係と,法律上の親子関係はズレてもいい,と法律では考えられているのです。

ズレが生じてしまうことよりも,生まれた子どもに法律上の父親がいない,という状態をなるべく回避するのを優先しています。それによって,子どもの養育に支障が出ないようにしているのです。

嫡出否認の期間制限は1年なのですが,生まれた子どもが,生んだ女性の父親ではないことが,客観的に明らかな場合(例えば,夫と別居中で性的な関係を持ちようがなかったり,夫に性的不能であったり)であれば,嫡出否認の期間制限を過ぎても,「親子関係不存在確認」という手続きで,親子関係を否定することは可能です。

しかし,DNA鑑定で生物学的な親子関係がないことが明らかであっても,それだけで親子関係を否定することはできません。あくまで,夫婦に性的関係があり得なかったという「客観的な状況」があって初めて,「親子関係不存在確認」を利用できます。

だから,夫婦が同居している場合は,基本的に,子どもが生まれて1年経過したら,自分の子どもであることを覆せなくなります。

その結果,生物学的な親子関係がなくても,子どもの養育義務を負担することになるわけですが,この養育義務は「養育費」というお金の問題を発生させます。

生物学的な親子関係がなかろうが,法律上親子なので,妻と離婚した後,妻が親権者となって子どもを引き取った場合,生物学的には実子ではない子どもに対し,養育費を支払う必要があります。

ただ,最高裁の判例で,生物学的な親子関係がない法律上の実子に対し,父親が養育費支払わなくてもいいケースがありました。

この判例は,母親からの養育費請求が「権利の濫用」であるという理由で,母親の養育費請求を認めませんでした。

事案としては,母親が,夫の子どもではないことを,夫がまだ嫡出否認が可能な時期に察知したにもかかわらず,あえてそれを隠蔽し,その結果,父親が実子であることを否定できなくなったとのことで(実際に,父親は,親子関係不存在確認の訴訟を提起しましたが,その訴訟では敗訴しています),なおかつ,父親が,母親との同居当時,毎月150万円以上も生活費を自由に使わせていて,それに加えて,既に,毎月55万円の婚姻費用を支払うとの審判が出ていた,というケースでした。

こういうケースで,母親が,父親に対し,生物学的には実子ではない子どもの養育費の支払いを求めるのは「権利の濫用」とされました。

「権利の濫用」ということは,本来,父親は,生物学的には実子ではない子どもであっても,法律上実子であれば,養育費を支払う義務を負っていることが前提となっています。

つまり,母親は,本来,父親に対し,生物学的には実子ではない子どもについても,養育費を請求できる「権利」があるのです。

ただ,↑の事案では,

・まだ嫡出否認が可能な時期に夫の子どもではないと母親が察知したにもかかわらず,その事実を隠蔽した結果,嫡出否認が不可能となり,親子関係を否定できなくなった

・母親は同居当時十分すぎるほどの生活費を貰っていた

・婚姻費用を毎月55万円父親が支払っていた

などの事情が考慮されて,生物学的には実子ではない子どもについては,養育費を支払わなくても,子どもにとって不利益はないから,母親からの養育費請求が「権利の濫用」となりました。

【 まとめ 】

「法律上の親子関係」と「生物学的な親子関係」のズレは,主に父親で問題となります。

母親でズレが生じるのは,代理母の場面で,まだまだかなりレアケースです。

先ほど書いたように,今の法律では,ズレが生じるのはやむを得ません。

いくら「ズレ」ていても,法律上の親子関係(実親子関係)があるのであれば,法的な養育義務は負担してしまいます。

最高裁で,養育費の支払いを「権利の濫用」と認めた事案もありますが,既に書いたとおり,この事案はかなり特殊です。

妻が夫の子どもでないことを隠蔽するのはそれなりにあるでしょうが,夫がめちゃくちゃ高収入で,養育費を支払わなくても子どもに不利益はない,なんてケースは,よっぽどだと思います。

↑の最高裁判決は,全く一般化できないでしょう。

ですから,「ズレ」があっても養育費を負担しなきゃいけない,という結論は,今後も続くと思います。

それではまた明日!・・・↓

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