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発達障害者の「疲れ」について。

よく「発達障害者は疲れやすい」と言われます。中には週5日フルタイムで働くことも難しい当事者の方も少なくありません。力仕事など特段体力を使うわけでもなく日中普通に過ごしているだけなのに疲れてしまうという方も多いでしょう。
私も例外ではありません。おそらく「疲れた」と「めんどくさい」というのがこれまでの人生の中で最も口にする頻度の多かった言葉ではないかと思っています。

発達障害者の特性のうち「他者とのコミュニケーションの困難」に比べて「易疲労性」や「体力のなさ」についてはあまり知られていません。
何でいつも疲れた顔してるの?
どうしてそんなに疲れるの?
何でいつもゴロゴロ寝てばっかりなの?
というようなことを言われた経験のある当事者は多いのではないでしょうか。

では何故発達障害者は疲れやすいのでしょうか?個人的には以下のような発達障害の特性が当事者を疲れさせてしまうと考えています。

当事者の「疲れ」を引き起こす発達障害の特性

発達当事者がすぐに疲れてしまう原因としては次のような特性が挙げられると思います。全て持っている人もいれば当てはまるのは一部だけだけどその分特性が強いという人もいると思います。

①感覚過敏
発達障害の当事者の多くは何らかの感覚過敏を抱えています。特に聴覚に過敏のある人が多いと言われています。多くの人にとって気にならない程度の雑音が酷く気になって気が散ってしまい目の前の作業に集中できなかったり眠れなかったりします。他の人がちょうどいいと感じる明るさが眩しすぎると感じる視覚過敏の人も少なくありません。
過敏に反応すること自体エネルギーを消耗するのですが、そのことを我慢することでさらにストレスを溜めてしまいます。

②低緊張
発達障害の当事者の中には低緊張のために姿勢を真っすぐ保つのに余計なエネルギーを必要とする人がいます。こういう人にとって「姿勢を真っすぐ保ちながら前を向いて授業に集中する」というのは決して楽な事ではありません。
私も学校ではしょっちゅう猫背を注意されていたので、授業中は猫背にならないように気をつけていたのですが、そうすると今度は先生の話が頭に入ってこないので後でどんな内容だったか思い出すこともできず閉口したものです。集中力の配分が難しいのも発達障害の特性の一つだと思います。

③自律神経の不安定
発達障害の当事者は自律神経の調節が上手くいかず常時「身体の調子が悪い」と感じている人が少なくありません。①の感覚過敏とも関連しますが、気温・気圧・湿度の急激な変化に自律神経の調節が追いつかずに体調を崩してしまいがちです。原因不明の頭痛や腹痛に悩まされることも多いです。子供の場合は汗をうまくかくことができず、夏の暑い日でも汗で熱を発散できず体内に溜め込んでのぼせてしまう子もいます。
(ただ自律神経は年齢と共に成熟する面もあるので、40代のほうが10代20代の時より身体が楽になるということはあると思います)

④睡眠障害
発達障害の当事者は、日中の疲れを抱えているにもかかわらず、寝つきが悪かったり眠りが浅かったりするなど「眠りの質が悪い」人が少なくありません。睡眠時間自体は充分に取れているにもかかわらず毎日のようにリアルな夢を見てしまい熟睡した感じがしないという人もいます。このため睡眠で解消するはずの日中の疲れが充分に解消できず、次の日に引きずってしまう悪循環になってしまうのです。
私も若い頃は毎日のように夢を見たり金縛りに悩まされていました。

⑤集中することによる消耗(ADHD)
ADHDの当事者は常に脳内で多動状態にあり周りの些細な刺激や情報にいちいち反応しては注意がそれるため、継続して特定の作業に集中するために余計なエネルギーを必要とします(逆に「過集中」で本人は疲れを忘れて何時間も目の前の作業に没頭することでエネルギーを使い果たしてしまうタイプのADHDもいます)。
私の場合は集中するために無意識のうちに息を止めることが多いです。そのためついついため息が多くなってしまい周りから「ため息ばっかりついてるね~そんなに仕事つまんないの?」と心配されてしまいます。息を止めてしまうと脳に充分に酸素が行かないのであまりよいことではないですよね。

⑥「外モード」による消耗(ASD)
ASDは仕事や社交の場でしばしば定型発達のようにふるまう「外モード」で他人に接することがあります。しかし本来こだわりが強く変化を好まない特性があるため、この「外モード」でいることを「本来の自分が否定されているように感じる」と必要以上にストレスに感じることが多いです。そのため家に帰ると疲労困憊してしまい同居している家族やパートナーとろくろく口を利かずに一人好きな事をして過ごす「内モード」に切り替わってしまうのです。

精神的にいっぱいいっぱいなので他人に関心を向ける余裕がない

ASD(自閉症スペクトラム)はしばしば「他人に興味がない」と見られることがあります。そのことで他人を気遣えない、他者とコミュニケーションが取れない、自分のことしか考えないという印象を周りに与えてしまいます。
しかしASD当事者が他者に関心を向けられないのは「常に自分のことで精神的にいっぱいいっぱい」だからであると個人的には思っています。低緊張、感覚過敏、体温調節の困難、睡眠障害、自律神経の不安定さでいつも具合が悪くすぐ疲れてしまうので、自分の気分や体調がついつい気になってしまうのです。

他人に意識や関心を向ける余裕を作るにはできるだけ日々の生活におけるストレッサーを避ける工夫が必要かもしれません。賑やかな場所はできるだけ避ける、むやみに仕事を引き受けない、一人で作業する時間を確保するというのが大事だろうと思います。
変化を嫌い外部環境に過敏に反応しやすく自律神経のバランスを崩しやすいASDにとって、本来は人一倍規則正しい生活習慣(食事や睡眠等)を心がけた方がよいのですが、社会人の人付き合いには深夜までの飲み会など健康によくないものも多く線引きが難しいと感じます。

さらにADHDがあると疲れているにもかかわらずついつい目先の刺激を求めて時間を忘れてのめり込んでしまいがちなので注意しないといけません。睡眠不足はADHDの特性(不注意、集中の困難など)を強めてしまいます(以前かかっていた医者曰く「睡眠時間が4時間切ると定型者でもADHDのような不注意や集中力低下が見られる」そうです)。充分な睡眠時間の確保はADHDにとっては特に大事です。

「友達と遊んで元気をもらう」は定型向きの疲労回復方法

実家時代、週末に家で一人ゴロゴロしていた私を見て母はよく「休日は友達と遊ばないとリフレッシュできないよ?」と小言を言ってきたものです。それに対して「土日つぶして友達と会ってたらますます疲れるじゃん」と反発したものでした。
母にとって友人とは「何の気兼ねもなく思ったことを言い合える関係の人」なので会って話せばリフレッシュにはなるでしょうが、私にとって友人とは「親しき中にも礼儀あり」というか「親しき中にも定型の常識あり」という感覚を持っていますから、やはり「外モード」を使うことには変わらないのです。
根っからの社交好きで普通にしててもどんどん友達が増えてしまうタイプの定型発達者の母からすると、友達と遊ぶのにすら余計な気を遣ってしまう私はちょっと変わっていると思っていたようです。
それでも一人暮らしを始めるようになって土日に外に遊びに行くようになったのは変化の一つではあります。若い頃に比べて感覚過敏や自律神経失調が改善し体力がついたというのもありますが、どうやら一人で自由きままに行動できる時間が確保できればずっと家でゴロゴロしてなくてもリフレッシュできるものなのかもしれません。

多数派向けの世間の常識に惑わされず自分に合った疲労回復方法を確立することが、発達障害者の生きづらさのひとつを軽減する早道となります。

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