さくら (いぶきⅵ

明後日の方向に走り始めました
ちいさな目です。沢山の光の中で、
芽吹くのですか
たくさんの、
たくさんの光の粒子が
わらっています

新しくおろした靴で
とんとんと
アンティークの回転木馬に腰掛け
てをつなぎます
そのてはとてもちいさくて
とてもあたたかくて
天気が良いから
おそとでお茶を淹れましょう
欠けた中国茶碗の
表面に浮かび上がるはっぱを吹いて
チョコレートよりもあまい
空気を胸いっぱいにすいこんで
咲きますか、まあだだよ、さきますか
ずっとそこにいて下さい
すぎていく光が
のみこまれる影と同じ温度でも
印画紙に焼き付ける妖精のちからで
たくさんですか
もう、すこしだけ
影の木馬が回転します

輪ころがしの街が
灯りはじめたころ
まいごになりましたか
まあだだよ
と、いって
影の中にとざされていきます
こおりつくきせつでした
ころんで
おでこをうって
妖精が後ろ髪をひっぱります
わたしは背中を向けて
まいごになりました
はなの房を摘み取って
台所の床になげつけました
輪ころがしのまま
夕闇になって
とおりすぎていきます
まあだだよ、と さきますか
蛹のようなひふから
たしかな拍動がつたわってきます
わたしが、まいごにならなくても
春はくるのでしょう
ちいさなおててがほら、
ほころんでいきます

明後日の方向に走り出して
たくさんの瞳です
そらが、かわが、うみが
かすんで
せかいのびねつが
あがって
まあだだよ
わらっています


※2017年頃に書いた、処女詩集「そして彼女はいったー風が邪魔した」に収録しなかった作品です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?