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フィンランド人との国際結婚について〜市役所訪問編〜

 これから書いていく国際結婚に関することは、フィンランド人と結婚した私の実際の経験に基づいている。だからもしかしたら、情報が古かったり間違っていたりするかもしれない
 また、国際結婚に興味があって、やっとこさ私のnoteに辿り着いた方もいるかもしれない。しかし、フィンランド人との結婚という、かなり稀なケースであるためあまり参考にならないかもしれない。
 それでも当時の私のようにひたすら情報を必要としている人や、好奇心旺盛な方のお役に立てれば幸いである。

 まず始めに質問させて欲しい。

 結婚において、大切なこととは何だろうか?
 
 友人や親族を大勢招待して、チャペル貸切で開催する盛大な結婚式を挙げること?
 一生の思い出に残るような、最高のハネムーンに行くこと?
 夫婦の記念日を大切にして決して忘れることなく、必ず二人で祝うこと?
 「一に辛抱、二に忍耐、三四がなくて五に我慢」と、とにかく我慢すること?
 それとも、相手の収入、職業、学歴だろうか?
 

 結婚で何が大切かと聞けば、十人十色の答えが返ってくるだろう。
 私は国際結婚をすることになる前までは、結婚で大切なことは結婚式を挙げることだと思っていた。なぜなら、私の家族はみんな結婚式を挙げていたからだ。
 18歳まで住んでいた実家には、タキシードを着た父と純白のウェディングドレスに身を包んだ母の結婚写真が飾られていた。祖父母の家には両親の写真に加えて、叔母と叔父の結婚写真も飾られていて、子供ながらしげしげと眺めていた。
 ちなみに当時の叔父は、平成初期に流行ったキムタクのようなロングヘアーで色白、そして顔の彫りは日本人にしては深い方だった。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で、美しいヴァンパイアを演じたブラット・ピットに超似ていた。
 
 髪がフサフサでスラっとしたタキシードをカッコよく着こなす父と、体重が現在よりも30キロ少ないためウェストのくびれがはっきりとわかるウェディングドレス姿の母。そして、世界中の女性を虜にする甘いマスクのブラット・ピット似の叔父。
 見目麗しい家族の結婚写真を見ている内に、いつしか私も自分の子供に見せても恥ずかしくないような、素晴らしい結婚式を挙げたいと思うようになっていった。
 しかし、ひょんなことから国際結婚をすることになってしまい、こうした私の結婚に対する考えは大きく変わることとなった。 
 
 では、冒頭の質問を少しだけ変えてみよう。
 国際結婚において、大切なこととは何だろうか。
 
 
お互いの文化や価値観を尊重し、相手を思いやること?
 駐在員の妻・夫として、少しでも早く現地の生活に慣れること?
 毎日パートナーに愛を伝えて、キスを欠かさないこと?
 言語力を高めて、お互いにしっかり意思疎通出来るようにすること?

 ずばりお答えしよう!
 国際結婚において大切なこととは、七面倒臭い書類手続きを円滑に進めることである!
 いかに迅速に必要な申請作業等を進められるか
に、全てがかかっていると言っても過言ではない。 
 
特に日本人の配偶者ビザを取得して日本で夫婦一緒に暮らしたいと思っているカップルにとっては、避けては通れない道である。  
 

 実際に私が国際結婚をするにあたり、軽くネットで国際結婚に関する手続きを調べただけでもその複雑さと必要書類の多さに目眩がしたほどである。
 もちろん個々のカップルが置かれた状況は千差万別であるから、一概に正しい国際結婚の形を示すことは不可能に近い。しかし、国際カップルとして最終的にどのような形に落ち着きたいのか、早めにゴールを定めておくことは必要不可欠だと思う。
 私の場合、結婚後しばらくは妻と日本で暮らす予定だったので、妻の配偶者ビザの取得を最終目標とした。
 
 もうこの時点で結婚式を挙げることなど、どうでもよくなっていた。むしろ、結婚式なんてお金はかかるし、自分達の華やかな私生活を人に自慢するだけの低俗な風習だと思い始めていた。
 SNSを開けば、頼まれてもいないのに毎日のように誰かが自分の近況を報告してくれている昨今の状況だ。
 私は朝起きるとしばらくは、ベッドの中でスマホを見ていることが多い。この前も起きてすぐに眠気とスマホ画面からの強い光のせいで焦点の定まらない細い目を開き、Instagramのアプリを起動し、フォローしている芸能人や知人たちのインスタストーリーをぼーっと眺めていた
 Instagramのことをよく知らない人向けに簡単に説明すると、インスタストーリーとは、投稿した写真やショートビデオを24時間だけ他人からも閲覧可能にする機能である。また、閲覧していても数秒すると、別のアカウントの投稿が次々と表示されるのだ。
 しばらく次から次へと流れてくる旅行に行っただの、高級寿司を食っただのというどうでも良い投稿を眺めていると、「婚姻届」と書かれた用紙の写真が画面いっぱいに表示された
 しかも目ヤニで霞む目を擦ってよく写真を見てみると、「婚」「姻」「届」の1文字毎にまるで1文字を1つの円で囲むかのように指輪が1つずつ、計3つ置かれていることがわかった。
 そして、このようなコメントが添えられていた。
入籍して〇〇(夫の姓)になりました!
 投稿主は、私の小学校時代からの友人のミカちゃんであった。ミカちゃんは承認欲求が強く顔が可愛いことを鼻にかけて、よく自分のプライベートなことを投稿していた。
 たまにSNSに自分のプライベートなことを投稿するのは、「あくまで記録のためであって決して私生活を見せびらかしたいわけではない」などと戯言を言う輩がいる。もちろん、そんなことが嘘であることは、火を見るよりも明らかだ。
 では一万歩譲って、みんなは記録のためだけに投稿しているとしよう。
 
しかし、今回のミカちゃんに至っては、24時間しか閲覧不可能な機能を使って投稿している時点で自慢以外の何者でもないのである
 てか、記録のためだけなら、別にSNSに投稿する必要なくね?
 大人しく、自分のスマホの中だけに留めとけばいいじゃん?
 自分のプライベートを曝け出すだなんて、例え記録のためだとしても私には出来ませんわっ!ましてや、ブログで事細かに自分のプライベートを書き連ねるなんて正気の沙汰じゃないね!
 
 国際結婚について書こうとしたら、いつの間にかSNSで幸せ自慢する人への恨み言になってしまったので軌道修正するとしよう。
 
 最終目標の配偶者ビザ取得のために、まず私たち夫婦がやらなければならなかったことが「結婚」であった。
 ここで言う結婚とは、もちろん法的にカップルとして婚姻関係が認められることを指す
 日本人同士が法的に婚姻関係を認められるためには、婚姻可能年齢等の基本的な条件さえクリアしていれば市町村役場に婚姻届を提出して終了である。
 しかし、これが国際結婚となると、話は別である
 まず、国際結婚を考えているカップルは、婚姻届を提出する前に決めなければいけないことがある
 それは、日本と相手の国どちらで先に結婚するかだ
 なぜならどちらの国で先に結婚の手続きを済ませるかによって、手続きの流れや必要書類が異なってくるからだ。
 例えば、私が婚姻届を提出した日本の市役所では、相手国で先に結婚した場合は婚姻要件具備証明書の提出は必要ない。逆に言えば、日本で先に婚姻届を提出する場合は相手の婚姻要件具備証明書が必要ということだ。
 必ず相手国で先に婚姻せねばならないなどの特段の事情がない限りは、経済的な制約、時間的な制約を判断材料したら良いと思う。←超重要
 
 私はどうしたかというと、とりあえず必要な情報を手にいれるために婚姻届を提出する予定の市役所へ必要書類について聞きに行った
 市役所に到着し、総合受付の職員さんに婚姻届のことで聞きたいことがあると伝えると、慣れた手つきで端末を操作し、整理券を発券してくれた。
 10分ほど待っているとピンポーンという音と共に、私の番号と相談ブースの番号が待合スペース前方のスクリーンに表示された。
 指定の番号が掲げられた相談ブースの方を見ると、広瀬すず似のショートカットが似合うお姉さんがニコニコしながら私に位置がわかりやすいように手を挙げて待機しているのが確認出来た。
「こ、こんにちは〜(かわいい!)」
「どうも、こんにちは!」
「どういったご用件でしょうか?」

「あの、婚姻届の提出に関してちょっとお伺いしたいことがありまして」
「は〜い、婚姻届のご提出ですね!何かご不明な点はありましたか?」
 
(お、自信満々の良い雰囲気だぞ!これなら安心してこのお姉さんに任せることが出来そうだ!)
「はい、ちょっと外国人配偶者との結婚に当たって必要書類等があれば確認したいんですけど」

 ここでお姉さんが笑顔のまま数秒フリーズしたかと思うと、顔から笑顔が一瞬にして消えた。するとお姉さんはいきなり取り乱し始め、「あ、あ、申し訳ございません。今しばらくお待ちください!」とだけ言うと、バックヤードへと姿を消してしまった。
 (まぁ若そうなお姉さんだったし、バックヤードの先輩職員に聞きに行ったのだろう。自分も新人の頃はよく先輩に質問してたっけなぁ。)
 勝手に想像を膨らませた私は、まるで後輩の成長を見守る先輩のようになっていた。
 しばらくすると、お姉さんは30代後半くらいの痩せた丸メガネの男性職員を引き連れて戻って来た。
 お姉さんは最初と同じニコニコした顔で「お待たせ致しました!こちらの職員が代わりにご対応させていただきます!」とだけ元気よく言うと再びバックヤードへと消えてしまった。
 急遽お姉さんからバトンタッチされた男性職員の首から下げられた名札を見ると、森本と書かれていた。
 森本さんは席に着くなり「外国人の方とのご結婚ということで、国籍はどちらになりますか?」と軽い挨拶も無しにロボットのようなトーンで質問をしてきた。
「フィンランドなんですけどっ」
「あ、はい。フィリピンですね。でしたら、、、」
「あ、いえ、フィンランドです!」
「ん?フ、フィンランドですか!?」
 
無表情で淡々と話し始めた森本さんだったが、フィンランドとわかった瞬間に彼の眉間に突如として深い皺が刻まれた。
 (え?なになに?フィンランド人との国際結婚ってそんなにレアケースなの?そりゃ聞き間違えられたフィリピンやお隣の大陸に比べたらレアかもしれんけど、そんなに深刻な顔する必要あります?)
 
私の心配を他所に森本さんは何やら百科事典のような大きく分厚い本をカウンターの引き出しから取り出すと、牛乳瓶の底のような分厚いメガネのせいで小さく見える目をさらに細くさせて何かを調べ始めた。
 ここから数分間森本さんは言葉を発しなくなり、ただひたすら分厚い本を眉間に皺を寄せながら読むだけとなった。隣で相談している人たちの声とシパァン!シパァン!っと必要以上に森本さんがページ速くめくる音だけが、私たち二人の間に響いていた。
 ただ何も考えずに森本さんが本と睨めっこする様子をしばらく見ていると、森本さんは短く「うーん」と唸ったかと思うと、「少々お待ちください」とボソッと言い、先ほどのお姉さんと同様にバックヤードに引っこんでしまった
 森本さんの姿が見えなくなると同時に、私の安心感もまるで芸能人格付けチェックでGACKTと同室になれなかった芸能人並に消え失せていた
 ここで動揺のあまり「はぁ!?あんた担当者じゃないのか!?こっちは忙しい中わざわざ来てるんだから早くしろよな!」などと、相手に罵声を浴びせるようなことはあってはならない。余計に相手を焦らせてしまい、重大なミスや説明漏れを誘発しかねないからだ。
 だから私は「ええ、申し訳ありませんね。よろしくお願いします」とだけ優しく答え、なるべく相手に対して心理的負担を与えないように努めたのだ
 紳士たるものどんな時も平常心を保つことが大切だと、ダニエル・クレイグ版のジェームズ・ボンドから学んだ私にとっては、相手に動揺を悟られずに話しをすることなど朝飯前なのだ。
 例え、ポーカープレイ中に毒入りの酒を飲まされ、一刻も早く解毒せねばならない状況だとしても、余裕の表情を崩してはいけないのだ。それは朝の通勤電車の中で突然腹痛に襲われても、それを周りに悟られてはいけないのと同じことだ。
 万が一トイレが空くまで数十秒というところで限界を迎えてしまったとしても、決して狼狽えることなく、天を仰ぐような余裕の表情をキープし続けることが大切なのだ。
 
ジェームズ・ボンドと日々の通勤電車のおかげで、常に平常心を保つことが出来るように訓練された私に敵う者はいない
 森本さんが消えてから、すでに数分が経過していた。そろそろ、「おい!課長を出せ!」と紳士的な対応が必要かと考え始めていたところ、ようやく森本さんが戻って来た。しかし彼は一人ではなく、背後にもう一人また別の女性職員を引き連れていた
 「大変お待たせして申し訳ございませんでした」と心の無いロボットのようなトーンで森本さんは言うと、例に漏れず姿を消した
 女性職員は席に着くなり、胸元の名札を見せながら「大変お待たせして申し訳ございません。代わりに担当致します長澤と申します」と先ほどの森本さんとは違った良い意味での落ち着いたトーンで丁寧に挨拶をしてくれた。
 両手で私の目の前に差し出された名札をよく見ると、「係長」と書かれていた。この長澤さん、係長なので恐らく40代後半は確実だが、見た目は何とも若々しい。有名人に例えるならば、吉田羊のような年齢不詳の美人女性と言った感じだ。
 何はともあれ、まさかの2回目の選手交代である
 ここまで来ると、さすがの私も仏の顔をキープするのは限界が近かった。
 私は最後の力を振り絞って、何とか作り上げた笑顔のまま再び質問をした。
 「フィンランド人の配偶者との婚姻届の提出を予定しているのですが、何か必要な書類はありますかね?」
 「ええ、先ほどの者から事情はお聞きしております。奥様はフィンランド国籍の方ということで改めてご説明致します。」
 長澤さんは終始落ち着いたトーンで、かつ安心感を与えるような柔らかい口調で私に必要書類から書類の書き方まで詳細な説明をしてくれた。さすが係長である。
 お姉さんと森本さんよ、もう少し修行してから窓口対応してくれや。
 次やったら、課長も交えた紳士的なお話しが必要になるからさ。

 いや、本当にすいませんでした!! 
 私がフィンランド人と結婚しようとしたばっかりに、三人の職員の貴重な時間を使わせてしまって!
 お姉さんだって今まで99人目までは、どんなクレーマー市民だろうと問題なく対応してきた若きエースだったかもしれない。いきなり押しかけて来た100人目の奴が、いきなりフィンランドとかヘンテコなことを言うからいけないのだ。
 森本さんだって、ああ見えて実は次期課長候補の有能な職員だったかもしれない。それなのに、たまたまフィンランド人と結婚したいとかというおかしな奴のせいで、せっかくの自信を失ってしまったら大問題である。
 
 
そんな無理難題を持ち込んだ私に対して、長澤係長は次のように説明してくれた。まず、結婚を先に日本で行う場合は婚姻届と一緒に、下記の種類を提出する必要があるということ
 ・妻の出生証明書の原本(翻訳も合わせて)
 ・妻の婚姻要件具備証明書の原本(翻訳も合わせて)
 ・妻のパスポートのコピー
 ・婚姻届提出時にはパスポートの原本を提示
 
また、翻訳については正式なものである必要はなく誰が翻訳しても問題はないが、翻訳者の署名は必要になるとのことだった。

 もし日本で先に婚姻届を提出するのであれば、何も夫婦二人で婚姻届を提出する必要はない。だから当初は必要種類だけ手に入れば、私が単独で婚姻届を提出して先に日本側の手続きを完了させようと考えていた。
 しかし、妻のパスポートの原本を提示せねばならないと言われてしまったため、私の計画は大きく狂った。
 この時妻はフィンランドにいたので、妻に関する証明書類は国際郵便で郵送してもらおうと考えていたのだが、流石にパスポートを国際郵便で郵送してもらうのはかなりリスキーだと感じた。
 だかと言ってここで、「はい、そうですか」と食い下がることなど出来ない。何とか別の方法はないものかと、我らが救世主の長澤係長にもう一度質問をしてみた。
 「だいたいの手続きの流れはわかりました。ただ、現在彼女は母国にいるのでパスポートの原本を提示するが難しいかもしれません」
 すると長澤係長は何かを察したのか、声のボリュームを少しだけ落としてこう教えてくれた。
 「本当はパスポートの原本の提示が無いとダメなんですけど、今はコロナ禍ということもあり、二国間の往来が厳しいと言う現状があるかもしれません。ですので今は特例的に真実書というものを添付いただければパスポートのコピーのみで大丈夫です」

 「ほう真実書とはお主も悪よのう、ふっふっふっふ」
 「さて、真実書とは何ですか?』

  真実書と言われても聞き慣れない単語だったため、申し訳なさそうにまた質問をすると長澤係長は仏の笑顔で次のように説明してくれた。
 真実書とは、コロナで往来が困難であるためパスポートの原本が提示できない旨が記載された任意様式の申立書のこと。さすが係長である。
 思わぬ伏兵の登場で、一瞬かなり焦らされはしたが何とか希望の道筋が見えたことで私は少しだけ安心することが出来た。
 私は長澤係長に深々と頭を下げてお礼を言うと、市役所を後にした。
 これから国際結婚を考えている方は、とりあえず市役所に行って説明を聞くことを強くお勧めする。もしかすると最初はあまり詳しくない職員さんが対応するかもしれないけれど、どうか暖かく見守ってあげて下さい
 結局はお役所に書類を提出することになるので、関係が拗れるのはあまりよくないからね。

  


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