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働きながらの不妊治療をふりかえる。治療と仕事、両立のポイント

2022年の秋にこんなnoteを書いてから1年半。

幸福なことに、不妊治療を経て子どもを授かることができ、ただいま臨月を迎えています。
不妊治療をオープンにしたこともあって、さまざまな方から応援や共感の声をいただき、周りに支えられてここまで来ることができました。本当にありがとうございます!

私の経験がだれかの参考になれば嬉しいな、と思い、n=1の話にはなりますが、ここに記録しておきます。長文ですがお付き合いください。


こんな人に向けて書きました

  • キャリアと妊娠・出産を両立したい人

  • 不妊治療と仕事の両立に悩んでいる人

  • 不妊治療が実際どんな感じか、情報として知っておきたい人

ご注意📝
不妊治療の流れは、その人の状況によって様々です。あくまで1ケースとして受け取っていただき、もしご自身が不妊治療をされる際は、医師など専門家のアドバイスを参照してくださいね。

わたしのプロフィールと不妊治療歴

前提となる私のプロフィールは、こんな感じです。リモートワーク、かつ業務時間の調整もしやすいので恵まれた環境ですが、仕事の比重は重め。

  • 40名規模のスタートアップの取締役(仕事は全力投球したい)

  • リモートワークで、基本は家で仕事。月1〜2回の出張あり。

  • 福岡市在住

  • 37歳、初産

  • 7cmの子宮筋腫あり(10cmを超えると摘出手術に。術後はしばらく妊娠できないので、これ以上大きくならないうちに子どもが欲しい)

妊活・不妊治療歴

  • 2021年、妊活スタート。すぐに妊娠陽性反応が出たのも束の間、妊娠9週で流産に(この辺りの話はこの記事に書いています)

  • 妊活再開するも、なかなか恵まれず。2021年秋、不妊治療クリニックで夫婦ともに検査を受けたけれど、明らかな原因は分からず。

  • 2022年、タイミング法、シリンジ法、人工授精…とステップアップしながら、不妊治療に取り組む。

  • 2023年、体外受精にステップアップして、ついに子どもを授かる!

思い返すと本当に色々ありましたが、私の場合は環境に恵まれていたのと、本格的な治療期間は1年半ほどで済んだので、「両立なんて絶対無理!」というほどではなかったかなと思います。

とはいえ、約1/3の人が不妊治療と仕事の両立を何らかの形で断念しているというデータもあり、「どのへんが大変だったか?」を振り返ってみたいと思います。

両立できず、仕事を辞めた / 雇用形態を変えた、不妊治療を辞めた人が計35%
(厚生労働省の調査より)

あわせて、「大変大変」言うだけでは希望がないので、少しでも負担を軽くする両立のポイントもまとめてみました。

不妊治療、たいへんだったこと3選

1. スケジュールが読めない通院

まず物理的な仕事への影響として、月数回にわたるクリニックへの通院があります。私の場合は、後に触れる「子宮筋腫の変性」が起きてしまったこともあり、多い月には9回!も通院していました。

これが事前にスケジューリングできるならまだ良いのですが、生理周期との兼ね合い(具体的には卵子の成長速度との兼ね合い)で、「まだちょっと小さいですね。明後日また来てください」みたいな予定の入り方になることも多々あり。
なので、取引先との商談や株主会議、登壇など、はずせない予定が入っていると「今周期は諦める?予定を何とか調整させてもらう?」という二択を迫られることになります。「今日の通院のためにも仕事を調整したのに、この苦労が水の泡…」と思うと、簡単に諦めることもできず、周囲への心苦しさとの間で毎回葛藤していました。

そうして卵子がちょうどスタンバイできた日の通院は、夫とも足並みをそろえる必要があります。朝イチで新鮮な精液(!)をクリニックに出すのです。
我が家は夫もリモートワークなので比較的調整しやすかったのと、不妊治療に一緒に取り組む関係性を築けていたので乗り切れたのですが、パートナー側の業務調整や、そもそもの不妊治療に対する温度差がハードルとなるケースも多いようです。

あと、これはクリニックにもよると思いますが、待ち時間が1時間を超えることもざら。15分の診察のために半日かかることもありました。東京都内のクリニックだと待合室にMTGスペースがあるところもある、と聞いたことがありますが、ここ福岡市ではPCを広げている人すら見あたらず。待合室の隅っこで、私だけひそひそ声でオンラインMTGをする、ということもよくありました。wi-fiがあり、診察時間以外は基本仕事ができたのは良かったです!

2. 「リセット」のたびに気持ちが掻き乱される

ふたつめは、メンタル面です。
「リセット」とは、生理が来て妊娠しなかったことが分かること。「期待しすぎないように」と頭では分かっているものの、時間もお金もかけて、何より「子どもがほしい」と強く願っているからこそ、今度こそはきっと…!と期待してしまうのが不妊治療の悩ましいところ。
生理予定日が近くなるとソワソワして、早期妊娠検査薬に手を出してフライング検査を繰り返したこともありました。

私たち夫婦の場合、最終的に人工授精から体外受精へのステップアップを早める選択をしましたが、それは、リセットを繰り返す出口の見えない日々がしんどかったから。
当初は身体への負担も通院頻度も増える体外受精はできれば避けたい、と思っていたものの、少しでも成功率があがる方法に希望を見出したくなったのでした。

何かで読んだ、「不妊治療はたしなむようにするといい」という言葉が、不妊治療とほど良い距離をとる心がけにつながっていたように思います。「妊活うつ」「不妊うつ」というのもあるそうなので、思い詰めすぎないよう気をつけていました。

3. 体外受精の排卵誘発と採卵

最後は、体外受精に関するあれこれです。体外受精は人工授精までの「一般不妊治療」と異なり、「生殖補助医療」にあたります。成功率が上がる分、費用も高くなり(保険適用でも15万〜)、プロセスもヘビーになります。

  1. 排卵誘発剤を投与して、複数の卵子を人工的に成長させる

  2. 採卵手術で育った卵子を取り出す

  3. 採卵した卵子と精子を、対外で受精させる

  4. 受精卵を子宮に戻して着床させる

まず、1の排卵誘発剤の投与。通常、1回の生理周期で育つ卵子は1つですが、効率的に採卵するため、1回に10個〜20個(!)が育つよう、ホルモンをコントロールします。私の場合は、毎朝のお腹への自己注射と飲み薬で排卵誘発することになりました。

「自己注射」と聞いたときは恐れおののきましたが、実際やってみると慣れるもので、これは案外大丈夫。やや大変だったことと言えば、保管が要冷蔵なので、出張に行く時に保冷バッグに入れて、ホテルの冷蔵庫にしまって…という持ち運びのやりくり。チェックイン時間を調整して乗り切りました。

辛かったのは、普段の10〜20倍もの卵子を育てるわけなので、卵巣がパンパンに腫れること。むくみもあるのか、体重が1週間で3kgくらい増えて、お腹は妊婦に。生理痛のような鈍痛やら胸の痛みやら、ホルモンバランスからくる不調が続いて、この時期の仕事はしんどかったです。

人によってはこれだけがんばっても、プロセス2の採卵手術で卵子が採れないこともあるそうですが……、幸い私は一度で卵子を採ることができました。

そこからプロセス3、4と進んでいきますが、一般的に、私の年齢での体外受精の着床成功率(プロセス4)は、25%~30%と言われています。プロセス4まで辿り着けるか?にまずハードルがあり、そこから先も1/4〜1/3しか成功しないんですね。

私は嬉しいことに最初のチャレンジで子どもを授かることができ、とても運が良かったと思います。
この時期は通院頻度も身体への負担もあがるので、このチャレンジを何度も繰り返している方は、仕事との両立は本当に大変だろうなと思います。

番外編:謎の腰痛と発熱……子宮筋腫が変性!

子宮筋腫持ちの私ならではなので番外編としましたが、不妊治療期をふりかえって、一番たいへんだったのはこれだなと。

体外受精の採卵手術ののちに、「子宮鏡検査」という子宮に問題がないかの検査をしたのですが(これもまたけっこうな痛み)、その数日後から、謎の腰痛、腹痛、37〜38℃の発熱に襲われました。腰が痛すぎて座って仕事ができないし、食欲もないし、仕事以外は寝込む始末で、いったい何だろうと。

何らかで細菌感染したのではということで、病院で抗生剤を点滴してもらうと、一時的には熱が下がるものの、夜になるとまた熱が出て…。何日か連続で点滴に通いました。

検査の結果、子宮筋腫の変性が疑われるということで、総合病院でさらに精密検査をすることに。当然、次のプロセスに進むどころではないので、体外受精のスケジュールも保留に。

そんな最中、絶対に外したくない東京出張があり、点滴で熱を下げつつ飛行機に乗って、アポイントをこなし。

このときばかりは、不妊治療の先の見えなさと身体の辛さで、心が折れそうになりました。子どもができるかも分からないのに、こんなに辛い思いして仕事して、どっちも中途半端に終わってしまったら……。自分は一体なにをやってるんだろう、この選択は正しかったんだっけ……。
帰りの飛行機で、腰が痛くてふつうに座れないので座席の上で膝を抱えながら、涙でにじむ夜景を見ていた思い出……

そうこうしているうちに、数週間で自然と痛みは治って、不妊治療を再開できたのですが。子宮筋腫は年とともに大きくなっていたので、高齢不妊だとこういうことも起きるんだと痛感しました。

不妊治療と仕事、両立のポイント

以上、色々書いてはきましたが、大変さのMAXが10だとすると、私はありがたいことに5くらいで済んだかなぁと。その理由を、両立のポイントとしてまとめてみます。
状況によって誰もが実践できる内容ではないのが恐縮ですが、環境を自分で整えていく意識は必要かなと。

ちなみに、厚生労働省のアンケートを見てみても、両立が難しい理由の上位に、通院回数の多さや精神面の負担、仕事の調整が挙がっています。わたしの実感とも同じなので、そこをどう和らげるかがキーですね。

「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(2017年、厚生労働省)より

1. リモートワーク環境

まずは圧倒的に、これ!もし私がリモートワーク不可の出社スタイルで仕事をしていたとすると、不妊治療による仕事への影響は2〜3倍にはなっていたと思います。

頻繁な通院の待ち時間を仕事に使えないし、ホルモンバランスの影響で身体が辛いときも、欠勤 or 出社の0か100かだと欠勤を選ばざるをえないことも多かったはず。

今後、不妊治療を考えている人にも、不妊治療による退職者を出したくない企業にも、リモートワークできる環境を強くおすすめします。

2. 不妊治療クリニックの近さ

これも、稼働時間への影響を最小限にする意味で、すごく大事です。
私が通っていたクリニックは、自宅から徒歩15分、さらにクリニックから徒歩1分の場所にコワーキングスペース、という超好立地でした。これだと、自宅から歩きながらオンラインMTGもできるし、大事なMTGはサッとコワーキングに移動して参加できるしで、かなり助かりました。

クリニックは、治療の方針や先生との相性なども大事ですが、片道1時間とかをかけることを考えると、転院 or 引越しを検討しても良いのではと個人的には思います。

ちなみに、福岡市の不妊治療クリニックはだいたい18時には閉まってしまいますが、東京には早朝や夜21時まで、さらに日曜にも開いているクリニックが複数あるようです。福岡市の中心部でもこうなので、さらに地方だともっと選択肢が少ないんだろうなと。業務時間外で通えると仕事と両立しやすいので、そうしたクリニックが全国的に増えてほしいと切に思います。

3. 周囲の理解

会社のみんなには感謝しかないですが、「不妊治療でMTG調整します」と言いやすい空気をつくれていたのが精神的にもとても良かったです。

古いデータですが、「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(2017年、厚生労働省)によると、不妊治療をしていることを(上司も含め)職場で一切伝えていない人は全体の58%にも上ります。
上司にも言わずにこの回数の通院をやりくりするのは、実際問題、かなり難しいんじゃないかなと。

「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(2017年、厚生労働省)より

伝えない理由の一番にあがっている「不妊治療をしていることを知られたくない」には、さまざまな考えが含まれると思いますし、ひとりひとりの気持ちは尊重されるべきと思います。

ただ「不妊治療をしていることが恥ずかしい」「仕事にやる気がないと思われそう」、そんな風に感じさせてしまう社会は変えていかないとだし、すくなくとも会社側として「両立を支援します」という風土をつくることは大事だと思います。

手前味噌ですが、キッチハイクでは、私が不妊治療をオープンにしたことをきっかけに「人事制度LIFE」をスタートし、不妊治療に限らずメンバーそれぞれのライフステージに合わせた働き方の支援を行っています

少子化が進むなかで、子どもを持ちたい人を応援する社会づくりは急務です。不妊治療にもがく人たちが声をあげること、会社や社会がニーズを汲み取ること、双方の歩み寄りで、より良い未来をつくっていけるといいなと思います。

不妊治療、通院以外に取り組んだこと

最後に、妊活・不妊治療の期間中、通院以外に取り組んだことをまとめておきます。

子どもを授かるかどうかはアンコントローラブルだけれど、そのために何をやるかは自分でコントロールできる。やれること全部やろう!というスタンスで、良いと聞いたものは時間とお金の許すかぎり取り組んでいました。
もし結果につながらなくても健康にいいしネタにもなる!とポジティブに捉えていたのも精神衛生上よかったなと。

科学的根拠がないものもありますが、参考まで。

  • 体質改善系

    • 漢方、お灸、腹巻き、酵素風呂など

私は東洋医学で妊娠しづらいと言われている「瘀血(おけつ)」体質なので、子どものことを考えだした30歳頃から体質改善に取り組んでいました。とにかく冷やさない、血流を良くする!不妊治療を通じて基礎体温が明らかに上がったのは嬉しい効果です。

  • 栄養・食事系

    • 妊活サポートサプリ(定番の葉酸のほか、ビタミンD、ラクトフェリン*など)

    • 日々の食生活改善(低糖質、高たんぱく)

*ラクトフェリン
妊娠しやすい子宮内環境(子宮内フローラ)のために良い働きをしてくれる善玉菌、ラクトバチルスの餌となる成分。子宮内フローラ検査やラクトフェリンの販売を行っているスタートアップ「varinos」を株主さんが紹介してくれ、検査をしてみたところ、子宮内フローラの数値が最低レベルなことが判明。ラクトフェリンをせっせと飲んでいました。

  • 神頼み系(笑)

    • 子宝祈願のジンクス「赤富士」。出産する友人に、陣痛中に赤富士の絵を描いてもらい、壁に飾っていた

    • (神頼みというか自然療法の域ですが)「砂浴」。海まで砂に埋まりに行った

さいごに

以上、いち個人の体験談としてまとめてみました。
わたし自身が、自分と近しい働き方をしている人の不妊治療体験談を欲していたので、誰かしらの参考になると嬉しいです。

その後の妊娠期間やこれから始まる育児期間でも、仕事との両立はいつでも大変なわけですが、妊娠や子育てが基本的にハッピーな話であるのに対して、不妊治療は特有の辛さがあると思います。

表から見えづらい領域ですが、仕事と子どもの両立は妊活・不妊治療期間からすでに始まっているわけなので、両立しやすい社会に近づけていきたいですね。

ご注意📝
不妊治療をしたい人がしやすい社会を目指すのと同時に、子どもを持たない選択や(子どもと結婚はイコールではありませんが)結婚をしない選択なども尊重されるべきと考えています。
デリケートな内容な分、本記事で意図せず誰かを傷つけたり責めたりすることがないよう配慮したつもりではありますが、ご不快な想いをされる方がいないことを願っております。


キッチハイクでは、あらゆる人が人生を謳歌できる社会を目指し、「保育園留学」をはじめとした地域の価値を拡充する事業づくりを行っています。
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