京都好き司書が選ぶ、“おきにいりの京都本”について語る
これまで、数えきれないほどの本を読んできた。
あまりにも本が好きなので、いまから約1年前、当時勤めていた会社をやめて、その勢いのまま図書館で働くことをきめた。その翌年には、大学の通信教育をつかい、働きながら司書の資格も手に入れている。
京都の図書館で働いて、もちろん京都で暮らしているのだけれども。それでも、やっぱり、京都にかんする本はいつまで経ってもおもしろい。不思議なもので、まったく飽きない。
先日は、“京都・観光文化検定”の受験もした。その公式テキストについては、試験によく出る箇所は、ページを丸暗記してしまうほど読み込んだのだが、娯楽的な本というよりもあくまで“テキスト”なので今回の記事には入れない。でも、検定受験用だけではなく、とても汎用性のあるいい本であることは間違いなく言いきれる。
この記事では、もっと気楽に「これはオススメしたい!」と素直に感じられるものだけを書く。いつもより長くなってしまうだろうが、これを機に、京都への愛を再確認するつもりで楽しく紹介していきたい。
読む京都、いきましょう!
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「そうだ 京都、行こう」の20年 / ウェッジ
この雑誌が、僕の京都好きの原点であり、頂点。僕のなかでこの雑誌は、おもしろいとか役に立つとか、そういうたぐいのものではない。
テレビCMやYouTubeなどで、これまでの選りすぐりの作品を目にすることができると思う。それらを観てみて、「あ、京都、行きたい」とほんのわずかでも心が動かされたのなら、もうこの雑誌を手にする価値がある。
昨年の秋に、JR東海のこの企画は、30周年を迎えた。2月末には新刊もでる。
京都 / 林屋辰三郎
著者は、いわずとしれた“京都学の大家”。京都国立博物館長を歴任されたり、上記本などの京都市史編纂事業の第一線を駆け抜けてこられた方。
もちろん、観光本とはちがうし、小難しい歴史書ともちがう。じゃあなんなのか、と言うと。しっかり京都のキホンをおさえた教科書的な本とも言えるし、中身もすごいが、「この本を持っていると安心する」という京都好きにとっては“お守り的な本”でもある。
京都発見シリーズ / 梅原猛
全9巻のハードカバー。重いし、でかいし、巻数も多い。まだ(?)Kindle化がされていないので、僕は読みたくなったときにそのつど図書館で借りて読むようにしている。
巻ごとにそれぞれテーマが設けられていて(第1巻は地霊鎮魂のように)、そして、1冊のなかでも、それぞれの章がごく短文で構成されている。そのときに、読みたいテーマの本を手にとり、読みたい箇所だけをパパッとつまみ読めるから長く楽しめている。
京都を知る100章(別冊太陽スペシャル) / 平凡社
そもそも、『別冊太陽』の雑誌が好きなのだ。京都について特集されたものは、他にもいくつかある。
しかし、“京都を知る”という観点でみると、『京都を知る100章』がいちばん広く深くまとまっている気がして僕は好きだ。写真がメインでわかりやすいし、「じぶんは京都のどういうところが好きなのか」という疑問に、100の答えで教えてくれる。ちなみに、僕は臨済禅の巨刹、山、御霊信仰、伝統芸能、数寄屋がとくに好みでした。
京都ぎらい / 井上章一
初めて読んだのは、たしか、まだ僕が千葉にいたころだったと記憶している。あの頃は京都への憧れがとくに強くて、いやらしさとか京都らしいイヤミな感じとかよりも、「京都っておもしろいなぁ」という単純な感想しか持てなかった。
つい先日、あらためて読んでみると、言っていることがちょっとよくわかるような気がした。僕は、京都人には一生かけてもなれないが、こうやって歳を重ねて知識と経験をつむことによって、京都のいいところと悪いところを知ることができる。本書は、「僕が京都人に近づけているか」の指標になっている気がした。
いまのところは、そういういやらしい京都を大好きでいられている。
利休にたずねよ / 山本兼一
山本兼一さんの小説は、どれを選んでもまずハズレがない。僕が千利休好きなのは大いにあるけれど、著者の作品の登場人物たちは、“じぶんの生きざまに芯があって格好いい”のだ。
物語は、利休の切腹前から時間をさかのぼるように進んで(戻って)いく。利休の本音から、秀吉との確執、戦国の人たちの人間らしさがこれでもかというほど細かく描かれている。
利休といえば、“侘び寂び”、“お茶の人”というイメージを持たれているかたはぜひ本書を読んでみてほしい。冒頭の1ページ目から驚くはず。
若冲 / 澤田瞳子
これまで、いわゆる“男臭いストーリー”をとくに好んで読んできた。それは、正直に言うと、“絵師”など文化的な人物が活躍する話は、どこか退屈で似たり寄ったりな印象があったからだ。僕自身に芸術的な才能がないのだから、当然、感情移入をしづらかったことは否めないが。
戦いや争いごとが好きというわけではないのだけれども、どちらかといえば、武士や政治がからむ話のほうが展開がはやくて、勝ち負けがはっきりしてくれるから読んでいて最後にスッキリとするから好きなのだ。
しかし、本書は、なぜか違う。なぜかハマった。
夜は短し歩けよ乙女 / 森見登美彦
THE・京都の小説といったら、多くの人が真っ先に思い浮かぶのが本書ではないだろうか。
僕は、これまでに著者の小説はほかにもいくつか読んでいる。どれも世界観が強くて、ファンタジーなんだけれども、どこかリアルに感じられる不思議な作品が多い印象。言葉もなめらかで読みやすい。
なかでも本書は、(いちばん最初に読んだからというのは間違いなくあるが)それらほかの作品の旨みをギュッと凝縮したような良さがある。あくまで、京都を舞台にしてあまずっぱい学生生活を描きつつも、「京都ならこういうファンタジーもありえるのかも」と思わせる筆致に終始魅了された。
羅城門に啼く / 松下隆一
第一回京都文学賞の受賞作。調べてみると、著者はこの小説を書くまでは脚本家として活躍されていたらしい。たしかに読んでいると、映像がパッと目に浮かんでくるほどリアルである。
映像化しやすい作品とそうでない作品では、なにがどう違うのだろうか。平安時代の京都、罪と償い、生きるか死ぬか。本書を形容するさまざまなテーマが、文章としておくにはもったいないほど活き活きと書かれている。
それが文章のままであっても、その魅力はぞんぶんに味わえるはずである。
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紹介したかったのだが、何年も前に読んだために、内容をほとんど忘れてしまっている作品をメモがわりに残しておきたい。とてもおもしろかったことは間違いないので、あらためて書い直したら読み耽りたいもの。
異邦人 / 原田マハ
告白の余白 / 下村敦史
雪の香り / 塩田武士
あとは、本ではないので番外編として。
京都人の密かな愉しみ / 製作:NHK
「またこれ?」と彼女の口から、何回ため息とともに軽蔑をふくむその一言をかけられたかわからない。それほど何度も繰り返し観ている。
我が家にはテレビがないため、パソコンや小型のプロジェクターをつかって映画やドラマを観ているのだけれど。食事中や、夜寝る前の愉しみとして、僕は定期的に“京都の栄養”をこのドラマから摂取したくなる。
京都にかんする本や番組をちまたではよく見かけるが、「内容がうっすいねん」とツッコミを入れたくなることも少なくない。京都にかんする全製作者のみなさまは、いちどこのドラマをすべて観てから作りはじめてほしい(何様)。それぐらい濃くておもしろくて、京都がさらに好きになる傑作。
続編もいつか、期待しています。
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振り返ると、これだけ本が好きで京都が好きなのに、なんでいままでこの記事を書いてこなかったんだろう、と首をかしげたくなる。
それは、僕のなかで、これらの作品があまりにも当たり前な存在になってしまっていたからかもしれない。何度も読みすぎて、「おもしろいのは知っている」状態が長くつづいた。だから、あえて紹介するまでもなかったというのが、この記事を書くまでに2年以上も費やした理由なのかもしれない。
しかし、それは同時に、“あたらしい京都本と出会えていない”ということでもある。
精力的に、なんて固い表現はつかいたくない。あえて目標をかかげずとも、京都は僕のライフワークだから。
僕の記事をここまでお読み頂きありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 頂いたご支援は、自己研鑽や今後の記事執筆のために使わせていただきます。