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道を尋ねて来た若者に生気をいただく(2017年48歳)

12年来の「終の棲家探し」が最もアグレッシブだった、この年。
インターネットサイトにて、良さそうな物件を見つけた。
場所は珍しく地元で、駅の反対側。なんとなくの場所は分かるが、この細い道は通ったことがあるような無いような……?

という訳で、思い立ったが吉日。速攻で地図をプリントアウトをして、まずは不動産屋さん抜きで物件周辺を視察することに。
まあ、もう陽は傾いちゃってるが、今は夏。建物の雰囲気くらいはチェック出来るだろう。それに夜道のチェックも肝心だ。

などと、フワッとしたノリでやって来た私は、複雑に枝分かれする現地の細道で見事に迷っていた。
……いや、物件のかなり近くには居るはずなのだ。居るはずなのに、グルグルと一向に辿り着けないのはなぜなんだ。
「大きな通りからちょっと入っただけなのに、これほどの住宅街迷路とは……」
脂汗をにじませ、地元の奥深さを感じ入る。だが、そんなしみじみもしていられない。なぜなら、日が完全に落ちた今、細道が街中とは思えないほど真っ暗なのだ。

「なんでこんなに暗いんだ!……い、いや、とにかく落ち着け、落ち着け……」
私はこの無限ループに終止符を打つべく、一旦道の隅っこにちんまり身を寄せ、あらためてスマホでじっくり確認することにした。

……それにしてもこの道、抜け道なのだろうか?
歩行者は無いのに、車や自転車はガンガン通る。
そして、その方々と度々目が合うのは、おそらくこの暗がりでスマホの光を下から浴びながら一心に何かをしている私が怪しく映っているからなのだろう。
『お騒がせしております。決して怪しいものではございません……』
内心弁解しつつ、地図を拡大縮小しまくる。
そしたらなんと、こんなにも不審な私に、誰かが爽やかに声をかけて来た。

『おっ、勇気あるな!どした、どした!?』
驚いてスマホから顔を上げると、そこには自転車にまたがった“発光体”……いや、都会的でシュッとした少年の姿があった。

その爽やかさたるや、暗がりでもハッとする程に際立ち、とにかくスッと背筋の伸びた学生服姿がフレッシュで、いと眩しい。

で、そんな発光ボーイは言うのだ。
「▲▲(某大手スーパー)に行きたいのですが……。どうやって行けばいいですか?」
「えっ……」
……どうやら彼も道に迷っているようである……。

まさかの同類項出現に、一瞬目が点になる。
だがしかし!!私はそのスーパーの“方角”なら分かるぞい!!
妙な慢心が芽生え、鼻息が荒くなる。
『そうかよしよし、安心したまえ。大人が道を教えてあげよう』
私はカッコよく答えようと、パッカリ口を開いた。……が、そこまでの経路を正確に説明できない。
だって、なにしろここは迷路。こっちも、うっかり足を踏み入れてしまったストレンジャーなのだ。

「ええと……」
困った私は、結局スーパーの建物が見える大きな通りまで連れて行くことに。
発光ボーイは礼を述べ、自転車をスサッと降り(←どこまでもスマート)、私の横をついて歩いた。  
                                 
道すがら話を聞くと、彼は中学生。大都会川崎からこちらに引っ越して来たばかりで(どうりでシュッとしている訳だ)、街めぐりをしていたらやはりこの細道迷路で道を見失ったのだそうだ。

「新しい家は■■(←住所)というところで、そこから来たんですけど……」
「えっ!?ここから結構離れてるけど、大丈夫!?」
私は老婆心ながら帰り道を案じた。すると、
「大丈夫です!▲▲さえ分かれば、自力で帰れます!」
と、どこかの大人よりも頼もしい言葉を、高原の朝のような爽やかスマイルで返答。安心した私は、彼と呑気に“川崎話”をしながらお散歩気分でポイントまで向かったのだった。

やがて大きな通りに出たふたり。
向こう上空には、スーパー屋上の灯りがキラキラと浮かび上がっていた。
「あの建物が▲▲だからね。じゃあね、気をつけてね!」
「分かりました!ありがとうございましたー!」
彼は再び爽やかな笑顔でそう告げると、自転車にまたがりシュバビュッと去っていった。

流星のようなその姿。見送る私。半開きの心に、清々しい風が勢いよく吹き込んだ。
「……なんか、ものすごくリフレッシュしたな……」

そうなのだ。若さとは、放射できるエネルギーの量なのだ。与えても、萎びることなくあり余る、潤沢なるエネルギー。
私は腹落ちした。何故、お年寄りが子供を好むのか。
そして私自身も「そのゾーン」に足を踏み入れたことに……。

少年よ、こちらこそありがとう。
思いがけず貴重なエネルギーを貰うことが出来たよ。本当にありがとう!!