街田侑

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街田侑

芥川賞受賞を目指して小説を書いています。 noteでは主に芥川賞受賞作品の分析と批評をします。 X: https://twitter.com/machiyuki083965

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    芥川賞を受賞した作品の研究・批評・感想をまとめた記事

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【芥川賞受賞作品研究③】

第165回芥川賞受賞 李琴峰『彼岸花が咲く島』 2021年といえば、コロナウイルス流行から丸一年が経過し、道行くマスクを付けた人々が自然に感じられるようになった頃合いだったように思う。繫華街の賑わいも少しずつ回復し、東京五輪も開催。学校等も登校が再スタートしていた。2021年はまさに“日常”の回復の過渡期だった。  その年の下半期芥川賞は二作同時受賞となった。芥川賞にとって、二作同時受賞はさほど珍しいものではない。初出の二作同時受賞は、第三回、1936年上半期受賞の小田嶽夫氏

    • 【掌編小説】1/18秒以下の恋情

       生物学者・哲学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュル氏[1864-1944]いわく、人間にとっての「瞬間」とは1/18秒(約0.056秒)だという。人間はそれ以下の時間を認識できない。それ以下の時間は無かったことにされる。  彼はそれを映画の映写機を例に懇切丁寧に説明してくれる。古い映画館を想像してみてほしい。そこで使われる古い、しかし当時は最新技術を駆使して作られた映写機は1秒に24コマを映し出す。僕たちはその1秒を「動いている」と感じるものの、本当のところは動いていない。動

      • 【芥川賞受賞作品研究②】

        第170回芥川賞受賞 九段理江『東京都同情塔』2024年上半期の芥川賞を受賞した九段理江氏の『東京都同情塔』。現在、この記事を執筆しているのが同年の3月であり、まだその発表から2か月あまりしか経っていない。2024年が始まってまだ3か月だが、数多くの事件が起きたように思う(私にとっては本作品が芥川賞を受賞したことも事件の一つである)。まずは年の初め、元日に起きた能登半島地震、そして羽田空港での航空機衝突事故。世間が落ち着く間もなく、芸能界隈では文春による松本人志の性加害疑惑騒

        • 【芥川賞受賞作品研究①】

          第167回芥川賞受賞 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』 2022年上半期の芥川賞を受賞した高瀬隼子氏の『おいしいごはんが食べられますように』。  2022年の夏と言えば、コロナウイルスのパンデミックが少し落ち着いてきた頃と記憶している。当作品では、コロナにまつわる「マスク」やそれによって普及した「リモートワーク」等の言葉は一切出てこない。2021年上半期に受賞した石沢麻依氏の『貝に続く場所にて』や同年下半期に選ばれた砂川文次氏の『ブラックボックス』では「マスクを

        【芥川賞受賞作品研究③】

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